異動になった。
入社してまだ半年未満の九月一日からとの話だった。
確かに失敗ばかりした。毎日先輩に怒られて、上司に怒られて。課長とか部長とか執行役員とか全然顔合わせたことのない、なんかよくわからないもっと偉い人にも怒られた。
それでも二度と怒られないように細心の注意を払って、少しずつ慣れたと思ったら。
「この業界の異動は多いから」
入社してすぐの顔合わせからまだ二回しか会ってない、よくわからない上司から告げられた。そういえば今日は上司と目が合わなかった。不意にそらされていて、今思えば気まずかったのかもしれない。
「次のところはめちゃくちゃ優しい人だから大切にしてもらえると思うよ」
その言葉に、なぜか私は一筋の涙を流していた。自分でもなぜ泣いているのかわからない。頑張ろうと決意した矢先に出鼻を挫かれたからか。それともようやくこの地獄から抜けられるからか。
「次のところで頑張ろうね」
投げかけられた言葉に、「はい」と返事しながら頷いた。
それが地獄の悪循環に繋がるとは知らなかった。
『不条理』
泣かないよ
泣くわけないじゃない
なんで、アンタなんかのために
私が泣かなきゃいけないの
流す涙がもったいない
そうやって勝手に弱いと決めつけないで
私は私のために泣いているの
アンタなんか
私にとってその程度の価値しかないの
『泣かないよ』
寝るのが無性に怖い時がある。
二度と目覚めなかったらどうしようという不安と
朝時間通りに起きられるかという不安と
明日まともに仕事できるかという不安と
この先このままでいいのかという不安と
今何かやめたり変えたりして大丈夫かという不安と
新しい一歩が間違ってしまわないかという不安とが
ひたすら頭の中で回っている。
そんな自分がまた不安で仕方なくて。
ひたすら落ち着くように深呼吸をして。
それでも不安に押し潰されそうで。
力の弱い自分は押し返せなくて。
自分はこの漠然とした不安が怖くて。
でも誰にも打ち明けられなくて。
怖くて怖くてたまらないのに。
過ぎ去るのを堪えるしか方法がわからなくて。
あぁ、ほら。
気がついたら朝だ。
『怖がり』
溢れた星を一つ一つ拾い集めた。
拾って、入れて。
拾って、入れて。
やがて籠いっぱいになって溢れ落ちる。
それもまた拾い集めて、でも溢れ落ちて。
なんでこんなことやっているんだろう。
途方もない繰り返しにやるせなくなって。
星の輝きが酷く鈍くて。
もうこんなことやめようと、星を手放したら
君が拾って渡してくれた。
そうだった。
拾い集めているうちに
僕の大切なものになったのだ。
もう落とさないように、丁寧に籠へ入れていく。
やがて籠の中は他の星たちに負けないくらい
大きな輝きを放った。
『星が溢れる』
どうか
最期目に映した情景が
あなたにとって
幸せな思い出でありますように
『安らかな瞳』