139

Open App
3/13/2024, 3:52:52 PM


今までずっと隣で澄ました顔して
散々佇んでいやがったくせに
なんで突然いなくなんだよ

確かに自分はあの人の隣に立ちたかったよ
それは今でも気持ちは変わらない

でもアンタを越えて立たないと意味ないんだよ

なに勝ち逃げしてんだよ
戦わせろよ、せめて



『ずっと隣で』

3/13/2024, 4:59:34 AM


 毎週金曜日、二十二時。
 仕事が終わって一度帰宅して、着替えてからまた出掛けるようになって三ヶ月。暗い道を歩いて、駅を挟んで反対側にある繁華街を目指す。お目当ては、こぢんまりとしたバーだ。
 ドアベルを鳴らしながら店内へ足を踏み入れる。オレンジ色の照明に照らされた店内は、ドラマに出てくる古典的な雰囲気が漂っている。カウンターに六席と、テーブル席が二つ。私は迷わずカウンター席へ腰を下ろした。両端には別の客が座っていたから、奥から一つ開けて座る。
 目の前のバーテンダーと目が合って会釈を交わした。ここ最近、毎週のように通う女の一人客が珍しいのかもしれない。古き良きインテリアに囲まれたこの店には、飲み慣れた男性客が多い。
「ブラッディメアリーを」
「かしこまりました」
 バーテンダーは私の注文を聞くと、目の前から離れた。私はカウンターに肘をついてぼんやりとバックバーを眺めていた。ズラリと並ぶ酒瓶は、一体どういう種類のお酒なのか。詳しくない私には味が想像できない。
「お待たせしました、ブラッディメアリーです」
「ありがとうございます」
 また目が合い、少し微笑み返した。バーテンダーは気を悪くした様子もなく、また黙々と作業し始めた。
 ここのバーに通い始めてから知ったカクテルは、赤い見た目の通り濃厚な味わいだ。少し舌がピリッとするのも、飲み続ければ覚えてしまった。口の中で楽しむように、少しずつ含んだ。

 やがて、ドアベルが鳴って、新しい客が入ってきた。その時私は一杯目を飲み終える頃で、ほろ酔いだった。横目でチラリと見たはずが、ガッツリと顔を向けていたと思う。来店した客の出立ちに、心臓が跳ねた。
 スマートにスーツを着こなした男性だった。髪は後ろへ撫でつけられていて、意志の強そうな顔立ちをしている。彼は私がじっと見ていることに気がついたようで、目が合った。またドキッと胸が高鳴った。
 男性客はそのまま、私の隣の席に腰を下ろした。
「ジンをロック、シングルで」
「かしこまりました」
 いつの間にか現れたバーテンダーに注文をつけると、それまで彼の一挙一動を見ていた私の方へ顔を向けた。彼の黒い瞳が私を見つめ返してきた。私は急に恥ずかしくなって、カウンターテーブルから手を下ろした。
「君は?」
「え?」
「次、何飲む?」
 グラス、空だけど。
 彼は私のグラスを指差した。私はハッとして、次を注文しようとしたが、なかなか思いつかない。何も言わずに迷う私を、彼はただ笑みを浮かべながら様子を窺っていた。
「私、お酒に詳しくなくて」
「うん」
「さっきまではちょっと辛口を飲んでいたんですけど、今はさっぱりしたものとか甘いお酒が飲みたくて。何かオススメありますか?」
 彼は、私がそう告げると口角を上げて頷いた。
「じゃあ俺がオーダーしていい?」
「はい、お願いします」
 私が返事するや否や、彼は少し身を乗り出してバーテンダーへ耳打ちした。頷いたバーテンダーは、チラッとこちらを一瞥してこの場を離れた。

 彼は座り直して、私と当たり障りのない言葉を交わした。
 彼は加藤と名乗った。この店の近くの会社に勤めているらしい。年齢は三十代と言ったが、私はもっと年上だと思っていたからびっくりした。バツイチ独身で一人暮らし。残業で遅くなった金曜日は、よくここで飲んで帰るらしい。
 私も聞かれるがまま、自分のことを話した。みんなからリナと呼ばれていること。同じく会社勤めなこと。年齢は二十代であること。家族も恋人もいないこと。毎週金曜日、もう少し早い時間にこの店に来ること。
 ポツポツと交わしていた会話が、いつしか二人で盛り上がっていた。彼は、話を聞く私に気を良くしたのか、どんどんグラスを開けていく。しまいには私にもお酒をたくさん勧めてきた。
「ずいぶん、お酒にお詳しいんですね」
「飲み歩くのも、家で飲むのも好きでね」
「お家でもこんなにたくさん飲まれるんですか?」
「家の方がもっと浴びるように飲むよ」
「え、すごーい! お酒に詳しい方って大人で魅力的なイメージです」
「さぁ、どうかな」
「私、もっと知りたいです」
 そう言って、ルシアンの入ったグラスを傾けた。ショートグラスのそれは、あっという間になくなってしまった。口の中で甘い香りを堪能していると、グラスのそばに置いていた手に、彼のソレが重なった。大きくて温かい彼の手に包まれ、私はピクッと体が跳ねた。
「もし良ければ、君にピッタリのお酒を見せたいんだけど、来る?」
「どこへ?」
 その問いは、笑って誤魔化されてしまった。包まれていた手が、いつの間にかギュッと握られていた。離そうとすると、余計に捕まえてきた。そして、手を引っ張られた。座った状態で軽く彼の方へ引っ張られれば当然バランスを崩してしまい、しなだれかかるようになってしまった。彼は平然とした顔で私を受け止めて、腰に手を回しながら
「俺の家」
 とだけ耳元で囁いた。私は酔ってぼんやりとした視界の中、顔を上げて至近距離で彼を見た。こちらを見透かすような黒い瞳が、こちらを捉えて離さない。
 私は彼の胸に、もう片方の手でそっと触れた。
「加藤さんのこと、もっと知りたい」
「なら、おいで」
 私は頷くのがやっとだった。

 チェックを済ませて店を出た。いつも一人で帰路につくのとは違い、隣には彼がいた。彼は当たり前のように私の腰に手を回して、道行くタクシーを止めた。乗り込む時には、これから向かう場所に少しの期待と胸の高鳴りで、私の心が支配されていた。
 キスも出来そうな至近距離で見つめ合いながら、私は考えていた。




 あの子を地獄に落としたこの野郎を、ようやく叩き潰すチャンスが来た、と。




『もっと知りたい』

3/11/2024, 2:28:27 PM


 至って普段と変わらない。
 繁忙期の最中で癒しの休日だったあの日。私は溜まった家事もそこそこに、街へ繰り出した。普段は朝晩にしか外へ出歩かないから何を着て行くか、服装に困った。結局通勤で着ているコートを羽織って外へ出た。日中は冷たい空気の中に、日の暖かさを感じられるようになっていた。春はもう直ぐ迫っていた。
 平日の仕事疲れを多少引きずりながらも、外に出たのには訳がある。私が大好きなアイドルが、最近公開されたばかりの映画に出演しているのだ。しかも私の推しは主演の探偵役で、相棒役は旧知の仲の実力派俳優。息の合ったコンビネーションが見られるのではと、期待せずにはいられない。逸る気持ちで映画館へ向かった。


 最高だった。その一言に尽きる。
 私は心ここに在らずなまま、映画館を後にした。足を動かしながら、頭では先ほど観た映画のことでいっぱいだった。
 まさかアクションシーンがあるとは知らなかったから、推しのカッコいい姿をふんだんに見られて感激した。それだけではない。息の合ったコンビネーションは、映画の至る所に散りばめられていた。二人の行動、言葉、仕草。少し間違えれば尾を引きそうなシーンを、あっさりこなしてしまい、さらにアドリブだろうセリフの応酬まであった。さすが推しと推しの友人さん、素晴らしい。
 頭であれこれ考えていたが、少し整理したい。ついでに糖分を頭に入れたい。この横断歩道を渡った先に、確か新しくオープンしたばかりのカフェがあったはず。そこへ行こう。
 信号が青になった。大勢の人の波に流されるように、歩き始めた。
 ふと、向こう側から歩いてくる人と目が合った。カラコンでも入れているのか、吸い込まれるようなヘーゼルの瞳がこちらを見つめていた。周りでは見かけない瞳の色だからだろう、今でも印象に残っている。ほんの一瞬、ほんの数秒の出来事だった。そのあとは何事もなくすれ違い、気がつけば横断歩道を渡り切っていた。

 今思えば、この時から私の日常は崩れ始めたのかもしれない。


『平穏な日常』
(嵐の前の静けさ)

3/10/2024, 1:42:04 PM


 かつての僕でさえ心底望んだ

 愛に満ち溢れた平和な世界に

 あなたがいないというだけで

 途端に生きづらいと感じます



『愛と平和』

3/10/2024, 5:36:46 AM


 日が少しずつ長くなってきた気がする。それでも空気の冷たさが肌に触れて、思わず身震いした。吐く息は白い。今朝は寝坊してバタバタと家を出たから、手袋を忘れてしまった。かじかむ手をさすった後、ダウンコートのポケットに手を突っ込んだ。
「なぁ、おでん食わない?」
 隣に並んで歩いている藤本が言った。
「おでんかー」
「からあげクン?」
「唐揚げかー」
「じゃあ肉まん」
「うーん」
「お前優柔不断すぎねぇ?」
 金ないの? と藤本は言いながら、ズボンのポケットから財布を取り出した。黒い皮の二つ折り財布はところどころ禿げていて年季が入っている。親父さんのお下がりらしく、おいそれと新調しにくいらしい。
 俺もいくら財布に入っているか、財布を取り出した。入学祝いに親からプレゼントされた茶色の二つ折り財布だ。みすぼらしいからこれ使えって突然渡されたが、意外と丈夫だし派手じゃないし気に入っている。
 財布の中身は、千円札が二枚と、十六円分の小銭しかなかった。小銭が少ないのは、昼休みに友達のジュースを奢ったからだ。学年末テストの総合点数を競っていて、たった二点差で負けてしまった。三本分三百七十円。誰だ、大きいペットボトルをリクエストしたやつは。バイトしていない男子高校生のお小遣い舐めんなよ。
「俺、千円ちょっと。今野は?」
「俺は二千円ちょっと」
「え、いいな。じゃあ今日奢りな」
「絶対嫌」
「だよなー」
 お互い財布を仕舞ったところで、隣から「ハックション!」と大きなくしゃみが聞こえた。よく見たら藤本はブレザーの下にVネックのニット、ワイシャツしか着てないように見える。マフラーはしているが、見るからに防寒性が低い。
「お前寒くないの?」
「寒いに決まってんじゃん」
 鼻をズビッと鳴らして藤本が言う。俺はリュックから箱ティッシュを取り出して彼に差し出した。目の前に差し出された箱ティッシュを、彼はまじまじと見た。
「何で箱? 花粉症だったっけ?」
「家に小さいティッシュなくて、母さんに聞いたらしばらく箱持っていけって。アンタのカバン大きいから入るでしょって」
「何それオモロ」
 あざーっす、と藤本は二枚取って鼻をかんだ。箱ティッシュは嵩張るけれど、紙が大きいし取り出しやすいし便利といえば便利だ。
 箱ティッシュをリュックに戻しながら、ふと思いついた。
「マックのポテトは?」
「いいね! Lサイズ山分けしよう!」
 食べたいものが決まって、二人で歩くスピードが少し速くなった。藤本は何を思ったから分からないけれど、俺は単純に早く温まりたかっただけだ。


   *


 駅前にあるファストフード店はリーズナブルな値段のため、いつも周辺の学校に通う生徒で賑わっている。部活帰りの今日も、制服を着た人たちで混み合っていた。
 席取りを藤本に任せ、俺は列に並んだ。このお店はセルフオーダーレジを採用していて、注文と受け取りと二箇所に分かれている。このレジに慣れるのに、結構時間が掛かった。今はスムーズに操作できるけれど。
 ようやく俺の番が来た。ポテトのLサイズと、藤本のコーラと俺のホットコーヒーを注文した。今日はポテトのクーポンが配信されていたので、五十円引きになる。ラッキー、と思いながら、番号札を持って一度席に行った。
「いくらだった?」
 二人掛けのテーブル席に着いてスマホをいじっていた藤本が顔を上げた。俺はレシートを渡して「割って」とだけ伝えた。
 藤本はレシートを目を細めながら見つめて、眉間に皺を寄せた。
「ポテトLが三百三十円、コーラとホットコーヒーが百二十円ずつ。だから、えっと、えーっと……?」
「スマホ使えよ。あと割るのポテトだけで、飲み物代はコーラだけちょうだい」
 椅子の下にリュックを置いて、レジカウンターの上にあるモニターを確認した。番号が表示されている。俺は番号札を持って、受け取りに行った。
 もう一度席に向かうと、藤本はまだ唸っていた。頭を捻るどころか体ごと横に傾いている。
 テーブルの上のレシートを避けながら、トレーを置いた。藤本の前にコーラを、俺の方にホットコーヒーを置いて、トレーに乗った広告の上にペーパータオルを重ねて広げた。そして、ポテトが取りやすいように入れ物から全部出した。
「五円なんてないんだけど」
 財布の小銭入れを開けて見せてきた。確かに五円玉も一円玉もない。
「二百八十五円なんだけど」
「じゃあ二百八十円でもいいよ」
「悪い、ありがとう。五円分多くポテト食っていいから」
「五円分のポテトって何本だよ」
 藤本からもらったお金を財布にしまった。ついでにリュックからウェットティッシュを出して彼に差し出す。彼はそれをまたまじまじと見た。
「お前は俺の彼女だった?」
「はっ倒すぞ」
「いやだって……わかった! ドラえもんだ!」
「誰のリュックが四次元ポケットだよ」
「でもウェットティッシュは箱じゃないんだな」
「箱二つあったらなんも入んねぇよ」
 軽口叩きながら二人で手を拭く。綺麗になった手でポテトを取って食べ始める。美味い。
 藤本はスマホ片手にポテトを摘んでいた。無言になるかと思ったが、不意に話しかけられた。
「来週さ、卒業式じゃん」
「おー」
「俺さ、先輩に告ろうかな」
 藤本は入学当初から、自分たちの所属している男子バスケ部のマネージャーだった松本絵梨花先輩が好きだった。率先してマネージャー業務を手伝ったり、困っている先輩に声をかけたり、積極的にアピールしていた。先輩が部活を引退してから会う機会が極端に減ったが、廊下ですれ違ったら挨拶したり、部活の様子を見学しにきた先輩と話し込んだりしていて、側から見ても雰囲気が良さそうだった。
「いいじゃん」
「でも周りに色んな人いて怖くね?」
「呼び出せば?」
「卒業式なんて呼び出しばっかだろ」
「俺は周りで告り始めたやついたら、遠巻きに見るだけで騒がねぇけど」
「女子は騒ぐだろ」
「騒ぐなぁ」
 藤本はため息をついて、ぼんやりとスマホ画面を眺めた。特別何かを見ているわけではないようだ。やがてスマホをテーブルの上に伏せるように置いて、ポテトに手を伸ばした。
 来週の火曜日が卒業式だ。それが終われば、俺たちが一番上の学年になる。きっと夏前には部活を引退して、そこからは受験勉強に明け暮れることとなる。こうして部活帰りに呑気にポテト食って喋っていられるのも今のうちだ。
「藤本」
 向かいに座る彼が目線だけ寄越した。頬杖を立ててポテトをつまんでいるから、態度が悪く見える。
「もう卒業式だけだぞ。先輩と話せるの」
 藤本の目が見開かれる。
「告るも告らないも藤本の自由だけど、先輩と約束もなく会えるのって来週で最後だろ。大学生って忙しいんだから、まだ高校生のお前に構ってくれるか分からない。それに四月から受験生だからな。インハイ予選終わったら、きっとそれどころじゃなくなると思う。だから後悔のないようにな」
 藤本は、真剣な表情で頷いた。そんな顔、監督が檄を飛ばしている時以来なんだが。
「ちゃんと考える」
「よし」
 俺はぬるくなったコーヒーを飲んだ。味が少し飛んだのか、あまり美味しく感じられなかった。
 藤本はポテトをつまむスピードが速くなった。おい、絶対二百八十円以上食ってくるだろ。俺もまだ食べたいんだけど。考えながら物を食うからそうなるんだよ。俺も焦ってポテトに手を伸ばした。なぜだか食べた気がしなかった。


   *


 混み合う店内で長居をするつもりはない。ポテトを食べ切って(藤本が四分の一多く食べていた)飲み物を飲み切って、すぐ席を立った。ゆっくり歩いているうちに消化されるだろう。
 ゴミを捨ててトレーを返却して店を出た。辺りはすっかり暗くなっていた。先ほどよりも寒くて、俺はダウンコートのジッパーを首までしっかり上げた。
「いいな、ダウン」
「あげられねぇぞ、さすがに」
「大丈夫、俺にはマフラーがある」
 そう言って、藤本は黒いマフラーを首にぐるぐる巻いた。いやだから防寒性が低過ぎて、見ているこっちが寒いんだって。
 駅の改札を通って、駅のホームに向かう途中で二人とも足が止まった。俺は上り電車で、藤本は反対方向だからホームが違う。まだお互いに次の電車まで十分程度あるから、少し話せると思った。
「今野、ありがとな」
 突然感謝を述べられて、困惑した。
「何が」
 恐る恐る尋ねると、藤本は笑った。
「何だよ、笑うなよ。怖いだろ、突然ありがとうなんて。何、死ぬの?」
「死なねぇよ」
 彼は目尻を指で触った。おい、泣くほど笑えることだったか。そんな風に聞きたかったが、さすがに声には出せなかった。
「俺の話、真剣にアドバイスしてくれてありがとな。他の人に相談しても本気にしてくれなくてさ」
「日頃の行いが祟ったな、可哀想に」
「うるせぇよ。マジでちゃんと考える」
「おう」
「で、お前に報告する」
「多分遠巻きに見てるだろうけどな」
「何で告る前提なんだよ。まだ分かんねぇだろ」
「だってお前分かりやすいんだもん」
「マジかよ」
 藤本は片手で頭を抱えて俯いた。はぁ、と長いため息が聞こえて、今度は俺が笑ってしまった。
 指の隙間から彼がこっちを見た。
「慰めろよ」
「オッケー。失恋記念のカラオケ大会とスマブラ大会、どっちがいいか考えとけよ。副島と葛城も強制参加させるから」
「人の告白なんだと思ってるの? もはや部活の打ち上げじゃん」
 駅のアナウンスが聞こえてきた。どちらの電車もまもなく到着予定だ。
 俺たちは別れて慌ててホームに降りた。タイミングよく電車が止まった。降りる人を待っている間に、後ろから呼ばれた。
「じゃあまた明日な」
 笑顔で手を振る藤本に、手を振り返した。すぐに手を下ろして電車に乗り込んだ。空いている座席に腰を下ろした。真っ暗の中、ポツポツと明かりが灯っている。それらが横に流れていくのをぼんやりと眺めていた。
 この楽しい日々は、いつまで続いてくれるのだろう。できれば、ずっと変わらず続いてほしい。



『過ぎ去った日々』

Next