テーマ『不条理』
不条理:道理の通らないこと
私にとっての最大の不条理
幼稚園年長の頃『こ○も○ャレンジ』の小学校特集見て
「学校行きたくない!」って死ぬほど泣いたのに
来年「学校に通う」以外の選択肢が用意されてなかったこと
今でも「小学校楽しい!」って笑顔で言える人は宇宙人に見える
テーマ『泣かないよ』
中学校からの帰り道。アカリが公園のそばを通りかかると、弟のコウタが一人、ベンチでうつ向いているのが見えた。
秋の夕暮れが空を茜色に染める。アカリの着ている白いセーラー服が、夕日の赤と混じってピンク色に変わっている。
「コウタ、どうしたの」
声をかけると、彼は浮かない表情で私の方を見た。
頬と膝を擦りむいて、Tシャツの首元がよれている。喧嘩をしたんじゃないかと少し心配になったが、コウタからの返答は
「なんでもない」の一言だった。
ベンチから立ち上がり、家の方へ歩きはじめる彼を、アカリは後ろから追いかけていく。
「膝の傷、痛くない?」
「別に」
そっけない態度を取るコウタに、アカリは何か、言いたくないことがあるのかもしれないと思った。
「傷口からバイ菌が入るから、家に帰ったら消毒しないとね」
ひとまず、怪我の心配をしていることだけ伝えると、コウタは急に立ち止まった。
「……喧嘩した」
ぼそりと、小さい声が聞こえた。
その後は何も言わなかったので、アカリはただ黙ってコウタの小さな肩を見た。小刻みに震えて、何かをこらえている様子だ。
「辛い時は、泣いたっていいんだよ」
もちろん、弟を気遣っての言葉だった。しかし彼はムスッとした顔で「泣かないよ」と首を振る。
何で、と尋ねると、コウタはうつむき加減でぼそぼそと話しはじめた。
「泣いちゃったらさ、相手の顔が見えないじゃん。そいつがなんでバカとか言ったのか、ちゃんと見てたいんだ」
そうか。弟は誰かにバカって言われたのか。本音では悲しいし、悔しかっただろうに。それでもコウタは、相手のことを知ろうとするんだね。
小学校高学年にあがったばかりだというのに、姉の目には、弟の背中がやけに大きく見えた。
「そっか。コウタは強いね」
照れたのか指先でぽりぽりと頭を掻いて、彼は小走りに先へ行ってしまう。
顔が見えないくらい離れた向こう側で、彼が服の袖でこっそり目元を拭うのが見えた。
泣いて彼の耳が赤く染まっているのを、私は夕焼けに染まる秋空のせいにした。
テーマ『星が溢れる』
7歳の頃、君と一緒に見たプラネタリウム。
北極星に目を奪われる君がかわいくて、ずっと眺めてた。
……なんて、恥ずかしくて言えないよ。
13歳の頃、キャンプで星空を見上げた夜。
別の班だったけど、君がこっそり来てくれたよね。
満天の星空に、夏の大三角形が眩しかった。
君の指先の熱を、今も覚えているよ。
16歳。高校で進路が分かれた僕ら。
18歳。まさか、同じ大学を選んでるなんて思わなかった。
また君と会えたのは、素直に嬉しかった。
だけど今、君の隣にいるのは僕じゃない。
六等星になっても、星はずっと輝き続けるんだったよね。
僕は僕の空で、輝いてみることにするよ。
大人になって、一人でキャンプへ行った。
ふと、子供の頃の記憶が蘇る。
君の横顔と、溢れるくらいに瞬く星々のきらめき。
テントの中でコーヒーを飲みながら、ふぅ、と白い息を吐いた。
オリオン座に、北斗七星。君が夢中になった北極星。
流れ星を見つけるたび、遠くへ行ってしまった君を思い出す。
今が過去になったとしても、僕は君を忘れないよ。
子供の頃の姿で微笑む君が、北極星を指さしてはしゃいでいるのが見えた。
テーマ『安らかな瞳』
どんな場所にだって、精霊の一人や二人いるもんだ。
俺は便所の精霊。
毎日野郎どもが糞を垂れ流す様子を監視し、
この神聖な場所を粗末に扱うクソ野郎がいれば、制裁するのが俺の仕事だ。
ただ最近はどうにも、
便所に「すまほ」とかいう謎の板を持ち込む奴らが増えた。
そいつらのことを、俺は「すまほ族」と名付けた。
すまほ族は用も足さずに便座に座り込んで、ちまちま指先を動かしている。
こちとら、暇人に貸す便座なぞ持ち合わせていないんだよ。
驚かして追い出そうとした。だが、どうやってもうまくいかない。
扉に人の顔を描いても、耳元で変な声を出してみても
奴らはすまほに夢中で、さらには耳に詰め物までしてやがる。
俺がやることなすこと、全部空振りだってんだから悲しいぜ。
お、今日はまともにここを使いそうなやつが来たな。
若い勤め人だ。紺色の羽織(スーツ)を着て、爽やかな青年じゃないか。
どれどれ……微妙に内股になったあの姿勢、小刻みに震える肩。
この様子だと、そうとう催してるみたいだな。便所の精霊である俺にはわかる。
ただ残念なことに、ここの便所に個室は六個しかない。
そしてその全てが今、憎き「すまほ族」どもに占領されている。
俺は、どうにかしてあの若いあんちゃんを助けたかった。
しかし、精霊が人間に干渉できる範囲には決まりがある。
俺の持つ権限をフル活用して、俺はすまほ族たちに「早く出ろ」と警告をした。
個室の内側から思い切り叩く。水洗便所の水を勝手に流す。壁に引っ掛けられた荷物を少し揺らしてみる。
しょぼいことばかりだが、俺にできることはそのくらいしかなかった。
案の定、すまほ族は誰一人として出ようとしたがらない。
逆に、もうだいぶ限界な様子のあんちゃんは
個室のそこかしこからトントン扉を叩く音がするもんだから、
驚いて他の便所へ向かってしまった。
……まぁ、いいけどよ。
俺が住んでるのは縦に長い、えらくでかい建物の中だ。
ほかにも便所はあるし、よそならすまほ族もはびこってないかもしれねぇ。
後日。隣の便所に住んでるダチに訊いてみた。
「この前、そっちにだいぶ切羽詰まったあんちゃん来なかったか」
そしたら俺と同じ便所の精霊は、笑いながらこう話してくれた。
「あー、来たぜ。紺色のスーツの奴だろ?
タイミングよく、そいつと入れ違いですまほ野郎が出て行ったんだ。
空いた個室に飛び込むみたいに入っていってよ。
あんな安らかな顔して糞するやつ、何十年ぶりに見たぜ!」
そう聞いて、俺はホッと胸をなでおろした。
あんちゃんが無事でよかった。
それ以来、この建物中の便所には張り紙がされるようになった。
「トイレ内でのスマホ使用、厳禁。休憩は休憩室で」
張り紙の効果なのか、便所に来るすまほ族はだいぶ減った。
これは噂だが、休憩室にも簡易的な個室が設置されたらしい。
そりゃあ、どうせ休憩するなら禁止された臭い便所よりも、
綺麗で快適な休憩室がいいわな。
まぁとりあえず、今日も便所は平和だぜ。
そこにいる君が坊ちゃんか嬢ちゃんか知らねえが、
限界が来る前に便所へ来いよ。
恥ずかしいことはねぇ、人間誰しも糞製造機なんだ。
むしろ、糞尿を垂れ流すからこそ人間と言える。
立派なのをぶちかましゃあ、『うん』が付くってもんさ。
気楽に来ればいい。便所で待ってるからな!
テーマ『もっと知りたい』
君がまだ小さい頃、私を見つけてくれたよね
電信柱の影で、小さくうずくまる私に
幼い君は、にっこり笑いかけてくれた
それ以来、私は君に夢中なんだ
この道が通学路でよかったよ
毎朝、友達と一緒に登校する君を見るのが
私の楽しみなんだ
あぁ……私も一緒に、君といきたい
何度も何度も、君に手を振るよ
なのに、君はちっとも私のことを見てくれない
悲しいな。悲しいな
君の友達が、羨ましいな
もっと、近くに来てくれないかな
そうしたら、君の友達になれるのに
もっと もっと 君のことを知りたいな
近所の犬が、わんわんぎゃんぎゃん吠えてくる
あぁ うるさいな うるさいな
けれども私は、明るいところが苦手なの
あと少ししたら、君がこの道を通る時間
マンホールのフタを少し開けて 隙間からコッソリ 地上を覗く
マダカナ マダカナ
キミがトオルノ マチドオシイナ
コレカラモ ズット ズット
キミノコトヲ ミツケテ アゲルカラネ