たかなつぐ

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3/11/2023, 12:45:18 PM

 テーマ『平穏な日常』


 退屈で死ぬ人種がいる。僕もその一人だ。
 周囲のには真面目だとか、優等生だとか言われてる。
 けれど本心は、毎日吐きそうなくらいに憂鬱で
 いっそ消えてしまいたいくらいの虚無感でいっぱいだった。

 10の並んだ通知表さえ持っていけば、親は僕の行動に口を出さない。
 さっさと課題を終わらせ、僕は自分の部屋にある大型モニターの前に座る。
 
 今日は何をしようか。この前出た新作映画を見る?
 それともFPSでバトルロワイヤル? ゲーム実況をするのもいいな。
 
 モニターの向こう側は楽しい。
 生徒というレッテルも無ければ、成績というものさしもない。
 誰かの人生を覗いたり、共通の趣味で繋がれる誰かと出会える。
 
 本当は、リアルでもありのままの僕を見てほしい。
 けど、そんなことしたらきっと、周囲の大人たちはこう言うんだ
 『期待外れだった』って。

 真面目な子供は、真面目の範囲から出ると残念がられる
 意味が分からない。
 子供にも多面性があるということを、大人は忘れていないだろうか。

 子供の頃の記憶をゴミ箱に捨てた奴らは、きっと頭の容量が足りないんだ。
 僕だったら絶対に、自分が子供の頃に悲しかったことを、他の子供達にはやらないのに。

 「……今日は、あの映画を見よう」
 一人つぶやきながら、リモコンを操作して映画タイトルの画面を開く。
 親に黙ってクレカで登録した、映画のサブスクリプションサービス。
 僕なりの、ちょっとした復讐だった。

 日常が壊れ、ピンチに陥る主人公を自分に重ねる。
 今のこの時間だけ、僕は僕以外の誰かになれた。
 他者の人生で食いつなぎながら、今日も退屈という死神から逃げおおせる。

 これが僕の、平穏な日常。

3/10/2023, 2:31:33 PM

 テーマ『愛と平和』

 
 愛とか平和って聞くと
 なにか、とてつもなく大きなものに対峙している。そんな錯覚に陥る。

 愛ってなんだろう
 親子の愛。家族の愛。友情の愛。自己愛。他者愛。動物愛。
 無条件に相手のことが好きなこと。相手を慈しむ気持ち。
 自分を大切に思う気持ち。

 パッと思い浮かんだ言葉を並べてみた。
 この並びから、共通点を探してみる。
 どうやら愛は「対象に自分が関心を持ち、大切にすること」と言えそうだ。

 平和ってなんだろう
 世界平和。心の平和。海の平和、空の平和。祖国の平和。
 平和を願う。戦争がない世界。生活に不便のない社会。迫害のない生活。
 心が穏やかなこと。毎日不安に怯えないこと。生活が脅かされないこと。

 平和と考えて、思い浮かんだ言葉がこんな感じ。
 規模が大きいものから、自分一人で抱えられそうな気持ちも出てきた。
 平和とは「生命として穏やかに生きられる状態」を表す言葉である。
 ひとまずここでは、そう結論づけてみたい。

 物語を書こうかなって考えてみたけど、
 どうにもつまらなそうだったから
 こうやって「愛」「平和」っていう言葉を考えてみた。

 最初はとてつもなく大きかったものが、書き出したら少しだけ小さくなって
 『寝てる怪獣の尻尾の先を触れた』くらいの体感になった気がする。

 ……ふと思った。愛とか平和が分からないのは
 「すでに自分が手に入れているから」なんじゃないか。

 現状、生命を脅かすような存在が私にはいない。
 
 愛について。社会に生きる誰からでも大切にされるわけではないけれど
 私は自分のことを、人並みには大切にしているつもりだ。
 だからこそ、今までこうして生きてこられた。
 
 それに、日常会話を営んでくれる家族、親しい相手が何人かはいる。
 少なくとも。赤ちゃんの頃に無視され続けて孤独で死んでいたなら、こうやって文章を書いてはいない。
 
 どこで読んだ言葉なのかは知らないが、人は自分に欠けたものを追い求めるという。
 ならば。今、愛と平和を追い求めなくてもいい私は、とてつもなく恵まれた時間で呼吸しているんだな。

 まあ、例え自分が恵まれていると気づいたとしても
 すでにある日常をありがたがらないのもまた、人間の性だと思ってる。

3/9/2023, 2:00:08 PM

 テーマ『過ぎ去った日々』


 子供の私にとって、親は世界の全てだった。
 
 私の世界は、親が喜べば色とりどりに華やいだ。
 同時に親の言葉で簡単に傷ついて、酷く荒んで壊れてしまう。
 
 親と、自分しかいない。恐ろしく不安定で、閉鎖的な世界。
 それが、かつての私の世界だった。

 ある時、一人のよそ者が迷い込んできた。
 そいつはただそばにいるだけで、私を批判したり評価したりしなかった。

 何故、私なんかのそばにいるのか。尋ねると、その人はなんてこと無いふうにこう言った。
 「ここに居たいからいるんだよ」

 『ここに居たい』。その言葉に、私は強く衝撃を受けた。
 私は、生まれてから今まで「ここに居たい」と思うことがなかったから。
 私の世界は、最初から準備されたものだった。
 私と、親だけで完結した世界。
 それ以外の世界を、私はなにも知らなかった。
 
 よそ者の存在は、私の世界に小さな亀裂を作った。
 毎日、色んな話をした。
 親に注がれていた全ての意識が、次第に他のところへ向かうようになった。

 卵の殻が割れるように、徐々に世界のひびが大きくなっていく。
 
 しばらく経ったある日。ついに世界が壊れた。
 親と私しかいないこの世界から、私は飛び立つ決意をした。
 閉ざされた殻が粉々になって、空中で泡のように消えていく。

 私の背中には、いつの間にか小さな翼が生えていた。
 長い年月をかけて、手足は力強く育っている。
 思い切って地面を蹴った。私の体は、一気に空へと飛び立った。

 どんどん高度を上げて、これまで住んでいた世界を見渡した。
 親が、これまで世界の全てだと思っていたものが。だんだん小さく、小さくなっていく。

 「元気でいろよ」
 親が最後にくれた言葉だった。
 遠く見えなくなっていく世界に、私は笑顔で手を振った。

 かつての世界を飛び出した私は、新しい世界を見渡した。
 殻の外には、私の他にもたくさんの人がいる。

 私の世界に侵入してきた『よそ者』が、今は関係性を変えて隣にいた。
 「さぁ、どこへ飛んでいこうか」
 「好きなように飛んでみなよ。どこへだって、一緒にいけば楽しいよ」

 そう笑顔で言ってくれる君のことを、私はその日初めて「友」と呼んだ。
 かつて卵から飛び立った私達は。今日もどこかで、今を精一杯に生きている。

3/8/2023, 1:18:14 PM

 テーマ『お金より大事なもの』

 

 学校で作文の宿題が出た。テーマは「お金より大事なもの」。

「お金より大事なもの、かぁ……」
 改めて考えてみると、なかなか自分なりの答えが決まらない。タクミは帰る準備をしながら、心のなかでウンウン首をかしげて悩んでいた。

「タクミくんは、お金より大事なものって何?」
 不意に声がして、タクミは隣の席に座るカオリを見た。

 急に聞かれて言葉に詰まる。とっさのことに、タクミは思い浮かんだものを口にした。
「そりゃまぁ……家族とか、友達とか? ……カオリちゃんは、何が大事なの」

 タクミの質問に、カオリはきっぱりとした口調で応える。
「私はお母さんかな。私の家、母子家庭だからさ。何があってもお母さんは大切にしたい」

「そっか、お母さんが大事なんだね」

「いやいや、まずは自分が一番大事だろ」
 話に割り込んできたのは、左隣に座るタケルだ。

「金が無くなっても、自分の体があれば、そこからなんだってできるからな。家族を助けるのだって、そもそも自分自身がいなけりゃなんにもできないぜ」

「なるほど。確かに」

 タクミは自由帳を開き、最初のページの端の方に『お母さん、自分』と走り書きをした。自分が作文を書くとき、参考にするためだ。

「心が通う人がいればなんでもいいって……変かな」

 背後から、控えめな声が聞こえた。後ろの席に座るユウキだった。

「心が通えばなんでもいいって……それって、どういうこと?」

 タクミが尋ねると、ユウキはうつむき加減に口を開く。

「もし仮に、お金が無くなって何も買えなくなって、死ぬしかなくなっても。そばに、誰か自分にとって大切な存在……例えば犬とか猫でもいいけどさ。誰か自分にとって安らぎになる存在がいれば、それでいいと思ったんだよ」

 ──あくまで噂だが。ユウキは訳あって祖父母のところで暮らしていると聞いたことがある。ユウキこの考え方は、彼の生い立ちが関係しているんじゃないかと、タクミはぼんやり思った。

「んじゃあ俺、部活あるから行くわ」
 運動靴を持ったタケルが、「じゃ」と片手を上げて教室を出ていく。

「私も習いごとがあるからいくね。また明日」
 続いてカオリも、カバンを背負って帰ってしまった。

「じゃ、僕も帰ろうかな」
 席を立つタクミに、ユウキがぼそりと呟いた。
「タクミくんは、作文になんて書くの?」

 少し考えてから、タクミはさっきより芯の通った声で答える。
「お金が無くなっても、今自分にできることを精一杯生きられるように。『今』を、大切にしよう……なんて、ちょっとカッコつけかな」

 はにかみながら言うタクミの言葉に、ユウキはふるふると首を振った。
「いいんじゃない。……ぼくは、タクミくんと話してる『今』も好きだよ」

 そう言いうと、ユウキは「また明日」といってスタスタ教室を後にする。
 一人残されたタクミは、自由帳の端に「今」と書いてカバンにしまい込んだ。

3/7/2023, 11:49:51 AM

 テーマ『月夜』

 
 ふと空を見上げた夜。月が見えると、僕の心は軽やかに弾む。
 
 闇に支配された森の中、今だけは世界に二人きり。
 丸い瞳が綺麗だね。そばに行けたなら、優しくぎゅっと抱きしめさせてほしい。

 瞬きしててもいい。半目で眠そうにしててもいい。
 目を閉じていたっていいから、ずっと僕のことを見守っていて。

 君が空に浮かんでいれば、僕はどんな時だって独りじゃないんだ。
 雲に隠れてしまう夜だって、きっと見守ってくれてると信じてるから。

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