テーマ『星が溢れる』
7歳の頃、君と一緒に見たプラネタリウム。
北極星に目を奪われる君がかわいくて、ずっと眺めてた。
……なんて、恥ずかしくて言えないよ。
13歳の頃、キャンプで星空を見上げた夜。
別の班だったけど、君がこっそり来てくれたよね。
満天の星空に、夏の大三角形が眩しかった。
君の指先の熱を、今も覚えているよ。
16歳。高校で進路が分かれた僕ら。
18歳。まさか、同じ大学を選んでるなんて思わなかった。
また君と会えたのは、素直に嬉しかった。
だけど今、君の隣にいるのは僕じゃない。
六等星になっても、星はずっと輝き続けるんだったよね。
僕は僕の空で、輝いてみることにするよ。
大人になって、一人でキャンプへ行った。
ふと、子供の頃の記憶が蘇る。
君の横顔と、溢れるくらいに瞬く星々のきらめき。
テントの中でコーヒーを飲みながら、ふぅ、と白い息を吐いた。
オリオン座に、北斗七星。君が夢中になった北極星。
流れ星を見つけるたび、遠くへ行ってしまった君を思い出す。
今が過去になったとしても、僕は君を忘れないよ。
子供の頃の姿で微笑む君が、北極星を指さしてはしゃいでいるのが見えた。
テーマ『安らかな瞳』
どんな場所にだって、精霊の一人や二人いるもんだ。
俺は便所の精霊。
毎日野郎どもが糞を垂れ流す様子を監視し、
この神聖な場所を粗末に扱うクソ野郎がいれば、制裁するのが俺の仕事だ。
ただ最近はどうにも、
便所に「すまほ」とかいう謎の板を持ち込む奴らが増えた。
そいつらのことを、俺は「すまほ族」と名付けた。
すまほ族は用も足さずに便座に座り込んで、ちまちま指先を動かしている。
こちとら、暇人に貸す便座なぞ持ち合わせていないんだよ。
驚かして追い出そうとした。だが、どうやってもうまくいかない。
扉に人の顔を描いても、耳元で変な声を出してみても
奴らはすまほに夢中で、さらには耳に詰め物までしてやがる。
俺がやることなすこと、全部空振りだってんだから悲しいぜ。
お、今日はまともにここを使いそうなやつが来たな。
若い勤め人だ。紺色の羽織(スーツ)を着て、爽やかな青年じゃないか。
どれどれ……微妙に内股になったあの姿勢、小刻みに震える肩。
この様子だと、そうとう催してるみたいだな。便所の精霊である俺にはわかる。
ただ残念なことに、ここの便所に個室は六個しかない。
そしてその全てが今、憎き「すまほ族」どもに占領されている。
俺は、どうにかしてあの若いあんちゃんを助けたかった。
しかし、精霊が人間に干渉できる範囲には決まりがある。
俺の持つ権限をフル活用して、俺はすまほ族たちに「早く出ろ」と警告をした。
個室の内側から思い切り叩く。水洗便所の水を勝手に流す。壁に引っ掛けられた荷物を少し揺らしてみる。
しょぼいことばかりだが、俺にできることはそのくらいしかなかった。
案の定、すまほ族は誰一人として出ようとしたがらない。
逆に、もうだいぶ限界な様子のあんちゃんは
個室のそこかしこからトントン扉を叩く音がするもんだから、
驚いて他の便所へ向かってしまった。
……まぁ、いいけどよ。
俺が住んでるのは縦に長い、えらくでかい建物の中だ。
ほかにも便所はあるし、よそならすまほ族もはびこってないかもしれねぇ。
後日。隣の便所に住んでるダチに訊いてみた。
「この前、そっちにだいぶ切羽詰まったあんちゃん来なかったか」
そしたら俺と同じ便所の精霊は、笑いながらこう話してくれた。
「あー、来たぜ。紺色のスーツの奴だろ?
タイミングよく、そいつと入れ違いですまほ野郎が出て行ったんだ。
空いた個室に飛び込むみたいに入っていってよ。
あんな安らかな顔して糞するやつ、何十年ぶりに見たぜ!」
そう聞いて、俺はホッと胸をなでおろした。
あんちゃんが無事でよかった。
それ以来、この建物中の便所には張り紙がされるようになった。
「トイレ内でのスマホ使用、厳禁。休憩は休憩室で」
張り紙の効果なのか、便所に来るすまほ族はだいぶ減った。
これは噂だが、休憩室にも簡易的な個室が設置されたらしい。
そりゃあ、どうせ休憩するなら禁止された臭い便所よりも、
綺麗で快適な休憩室がいいわな。
まぁとりあえず、今日も便所は平和だぜ。
そこにいる君が坊ちゃんか嬢ちゃんか知らねえが、
限界が来る前に便所へ来いよ。
恥ずかしいことはねぇ、人間誰しも糞製造機なんだ。
むしろ、糞尿を垂れ流すからこそ人間と言える。
立派なのをぶちかましゃあ、『うん』が付くってもんさ。
気楽に来ればいい。便所で待ってるからな!
テーマ『もっと知りたい』
君がまだ小さい頃、私を見つけてくれたよね
電信柱の影で、小さくうずくまる私に
幼い君は、にっこり笑いかけてくれた
それ以来、私は君に夢中なんだ
この道が通学路でよかったよ
毎朝、友達と一緒に登校する君を見るのが
私の楽しみなんだ
あぁ……私も一緒に、君といきたい
何度も何度も、君に手を振るよ
なのに、君はちっとも私のことを見てくれない
悲しいな。悲しいな
君の友達が、羨ましいな
もっと、近くに来てくれないかな
そうしたら、君の友達になれるのに
もっと もっと 君のことを知りたいな
近所の犬が、わんわんぎゃんぎゃん吠えてくる
あぁ うるさいな うるさいな
けれども私は、明るいところが苦手なの
あと少ししたら、君がこの道を通る時間
マンホールのフタを少し開けて 隙間からコッソリ 地上を覗く
マダカナ マダカナ
キミがトオルノ マチドオシイナ
コレカラモ ズット ズット
キミノコトヲ ミツケテ アゲルカラネ
テーマ『平穏な日常』
退屈で死ぬ人種がいる。僕もその一人だ。
周囲のには真面目だとか、優等生だとか言われてる。
けれど本心は、毎日吐きそうなくらいに憂鬱で
いっそ消えてしまいたいくらいの虚無感でいっぱいだった。
10の並んだ通知表さえ持っていけば、親は僕の行動に口を出さない。
さっさと課題を終わらせ、僕は自分の部屋にある大型モニターの前に座る。
今日は何をしようか。この前出た新作映画を見る?
それともFPSでバトルロワイヤル? ゲーム実況をするのもいいな。
モニターの向こう側は楽しい。
生徒というレッテルも無ければ、成績というものさしもない。
誰かの人生を覗いたり、共通の趣味で繋がれる誰かと出会える。
本当は、リアルでもありのままの僕を見てほしい。
けど、そんなことしたらきっと、周囲の大人たちはこう言うんだ
『期待外れだった』って。
真面目な子供は、真面目の範囲から出ると残念がられる
意味が分からない。
子供にも多面性があるということを、大人は忘れていないだろうか。
子供の頃の記憶をゴミ箱に捨てた奴らは、きっと頭の容量が足りないんだ。
僕だったら絶対に、自分が子供の頃に悲しかったことを、他の子供達にはやらないのに。
「……今日は、あの映画を見よう」
一人つぶやきながら、リモコンを操作して映画タイトルの画面を開く。
親に黙ってクレカで登録した、映画のサブスクリプションサービス。
僕なりの、ちょっとした復讐だった。
日常が壊れ、ピンチに陥る主人公を自分に重ねる。
今のこの時間だけ、僕は僕以外の誰かになれた。
他者の人生で食いつなぎながら、今日も退屈という死神から逃げおおせる。
これが僕の、平穏な日常。
テーマ『愛と平和』
愛とか平和って聞くと
なにか、とてつもなく大きなものに対峙している。そんな錯覚に陥る。
愛ってなんだろう
親子の愛。家族の愛。友情の愛。自己愛。他者愛。動物愛。
無条件に相手のことが好きなこと。相手を慈しむ気持ち。
自分を大切に思う気持ち。
パッと思い浮かんだ言葉を並べてみた。
この並びから、共通点を探してみる。
どうやら愛は「対象に自分が関心を持ち、大切にすること」と言えそうだ。
平和ってなんだろう
世界平和。心の平和。海の平和、空の平和。祖国の平和。
平和を願う。戦争がない世界。生活に不便のない社会。迫害のない生活。
心が穏やかなこと。毎日不安に怯えないこと。生活が脅かされないこと。
平和と考えて、思い浮かんだ言葉がこんな感じ。
規模が大きいものから、自分一人で抱えられそうな気持ちも出てきた。
平和とは「生命として穏やかに生きられる状態」を表す言葉である。
ひとまずここでは、そう結論づけてみたい。
物語を書こうかなって考えてみたけど、
どうにもつまらなそうだったから
こうやって「愛」「平和」っていう言葉を考えてみた。
最初はとてつもなく大きかったものが、書き出したら少しだけ小さくなって
『寝てる怪獣の尻尾の先を触れた』くらいの体感になった気がする。
……ふと思った。愛とか平和が分からないのは
「すでに自分が手に入れているから」なんじゃないか。
現状、生命を脅かすような存在が私にはいない。
愛について。社会に生きる誰からでも大切にされるわけではないけれど
私は自分のことを、人並みには大切にしているつもりだ。
だからこそ、今までこうして生きてこられた。
それに、日常会話を営んでくれる家族、親しい相手が何人かはいる。
少なくとも。赤ちゃんの頃に無視され続けて孤独で死んでいたなら、こうやって文章を書いてはいない。
どこで読んだ言葉なのかは知らないが、人は自分に欠けたものを追い求めるという。
ならば。今、愛と平和を追い求めなくてもいい私は、とてつもなく恵まれた時間で呼吸しているんだな。
まあ、例え自分が恵まれていると気づいたとしても
すでにある日常をありがたがらないのもまた、人間の性だと思ってる。