HKS: see you
PEN: see youノシ
QJU: see you
BEA: see you:D
デイリーミッションのチーム戦は3セット勝利で終了。今日も順調順当。自動翻訳をオフにすると、チャット画面はチームメイトの素の言語に戻った。
HKS: 또 봐요
PEN: またねノシ
QJU: 再見
BEA: cu:D
…また会いましょう、か。
俺らオフラインで会ったことないけどね。
ほんと言うとPENは去年のEVOの会場で見かけた。遠くから見かけただけ。声は掛けられなかった。オンラインではこんなにつるんでるくせして、残念ってよりホッとしてた自分がよっぽど残念な奴だとは分かってる。
けどさ。
すっかり親しくなったつもりで進路相談どころか恋愛相談まで乗ってもらってたPENが、まさか自分の親だったとは思わんだろ、普通!?
…正直、週末実家に帰るたび会ってますわー。
墓まで持ち込み案件のトップシークレットが二十代のうちに入手できるとは思ってもなかった。
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「また会いましょう」
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所感:
こういうの、絶対知らぬは本人ばかりなり、とっくに親バレしてるパターンが鉄板ですよね。
「小テストどやった?」
「しくった。スリルでマイナス5点」
「more thrillingのとこ?なんで?」
「thrill、thriller、thrillestと思うやんか」
「アホがおる。それは名詞化の-erやろ」
否定はせんけど阿保に阿保云うお前も阿保じゃ、とお決まりのセリフを投げつつ彼は机から単語ノートを引っ張り出してきた。ペナルティもないのに復習の書き取りを欠かさない級友は、アホなりに真面目なのだった。
受験ってものに何かコツがあるとすれば、どれだけ真面目に成果を積むか、あるいはどんだけ不真面目でも勘所だけ抑えておけるか。この二択のどちらが自分の性に合うかを見極めることだ。
ああやってあいつは常に端折らず課題全部に目を通していたし、僕は捨て教科全部仮眠に充てていた。それで今また二人揃って同じ学校に居るのは、お互いうまいこと正解の道を選べてたってことだな。
こうして毎日肩を並べて歩けるのはいつまでだろう。
未来を思うと少し怖くて、でもワクワクする。
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「スリル」
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所感:
MJの二文字を目にしてスリラー・バスケ・スパイダーマン、どれを思い浮かべるかで世代が分かれる。お題からそんな話を思い出し、thrillのスペルを確認しました。
当世、風切羽を切った天使を連れ歩くのが流行りだ。
街に出ればあちこちで天使を見かける。
雑に刈られ飛べない翼をみすぼらしく畳みぼんやりと主人の後について歩く姿に、清廉で威光に満ちたかつての面影はない。
神が死に、天上の安寧は永久に失われた。人間はその代わりに現世での加護を確保するべく、天使を地上へ繋ぎとめる強引な道を選んだ。
富める者は数多の天使を身辺に侍らせ、貧しい者はせめて折られた羽根の一枚でも護符になりはするまいかと彼らの後を追い回す。
神の死と共に教義への理解も捨てた人間の群れ、そのまた後にじっと付き従うのは大きな黒い影。
そう、神の不在は決して悪魔の消滅を意味しない。
空から堕ちた天使らの居所に相応しい世界。
この国はすでに地獄の領域。
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「飛べない翼」
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所感:
お題を比喩表現ではなく考えると、鳥か飛行機が酷い目にあう場面ばかり浮かんで辛かったので、いっそもっと派手に痛くしてみようかと天使を呼びました。
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なんの気なしに始めたこのアプリ、今日で一か月になりました。お題をもらって書くスタイルは自分に向いていたようです。まだまだ色々遊んでみるつもりです。
書いたものをアップし終えてから、他のユーザーさん達の文章を読むのも楽しみになりました。お気に入り登録もめっちゃいっぱい増えました。
毎日、同じ話題について互いに思いを巡らせ合った、その答え合わせをしている気分といいましょうか。ここに居る人間の数と同じ数だけ、違った物語が生まれている事実に深くときめきます。私、ロマンチストなので。
ここ数年の出不精の反動か、今年の夏は沢山遠出した。
予定をつめ過ぎて疲れた日もあったけど、でも、おかげで手持ちの浴衣全て一度は着られたので大満足だ。
洗って吊りっぱなしだった浴衣を順々に下ろし、たとう紙を広げていると、後ろからあなたが寄ってきた。
「その花柄、よく似合ってた」
視線の先を辿ると黒地に七草柄。
確か水族館デートの日に着たもの。
「この柄は秋の七草。全部言える?」
「桔梗。…あとなんだっけ」
あっさり降参されたので、染めの花模様を順に指で
辿って教えてあげる。
「萩、撫子、藤袴、葛、尾花、女郎花」
「オバナってどの花?」
「花っていうか、これ。ススキのことだよ」
「えっそれススキなの!?」
唐突な驚き声にこっちが驚いた。
「水しぶきの模様だと思ってた」
だって水鉄砲みたいで涼しそうじゃん!とあまりに素直な感想を上乗せしてくるのが呆れるよりも可愛らしい。
「ね、来年、あなたも一緒に浴衣着て出掛けようよ」
「着物全然分かんないから、教えてくれたらね」
おお、案外乗り気な返事。七草に合わせるなら芒に蜻蛉あたりの、隠れお揃い柄とか着せてあげたいかも。
そしたらまた「水しぶきだ!」って笑うかな。
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「ススキ」
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所感:
一日中脳内BGMが昭和枯れすすきでした。そこから離れたく可愛い人達を召喚したら文章が伸びすぎ、半分消しました。2スクロール以上は読む気がなくなりません?
「思い出とか脳裏に浮かんだり、する?」
ふと気になって、うちのヒロさんに聞いてみた。
「脳裏ですか。漢字では脳裡とも書き、頭の中または心の中という意味ですね」
間を置かず、彼は語義から真面目に確認してくる。
「ヒ」ューマノイド「ロ」ボットだから、ヒロさん。
父の命名は安直だったけど悪くない名前だ。
「残念ながら私の頭部には動物でいう脳に該当する装置がありません。ゆえに脳裏も存在せず、存在しない部位において映像や音声等の情報展開は不可能です」
予想外の答えにヒロさんをまじまじと見る。
いやどこをとっても見た目は人間だよね。
「え、脳…ないの?」
「はい。今お嬢さんは私の顔を注視していますが、この頭の内部のほとんどは、眼球と耳殻の視聴覚機器そして人工声帯の制御装置で占められています」
「ああ…なるほど。そしたらひょっとして記憶装置は胴体に置かれているとか?」
「ご明察です。胸郭内部に記憶装置があり、その中心部で知覚統合処理がおこなわれています」
ヒロさんは微笑みの形に口角を上げた。
ゆっくりと自分の胸に手をおいて、お嬢さんの思う答えとは違いますがと前置きする。
「私が思考するとき、ヒトの心臓があるべき位置で記憶や感情が行き来します。お父上はそのように私を設計されました」
彼はもう一度、今度はにっこり大きく微笑んだ。
「つまり私の心の在り処はここなのです」
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「脳裏」
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所感:
脳裏ってどこだろうね?という疑問から、脳裏のない存在について考えていたら初めてネームレスじゃないキャラクター「ヒロさん」が爆誕してしまいました。