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5/6/2025, 4:44:11 PM

ラブソング




また明日ね、とみんなが帰っていく。


ざわざわとにぎやかな声がだんだん遠のき、


風でやさしく揺れる葉の音が聞こえるほど


静かな教室になった。


わたしは、ここで音楽を聴くのが好きだ。





空の色が移り変っていく時間に、


心地いい風にゆられながら


好きな曲を一曲だけ聴いて帰る。


これがわたしのいつもの日課。





そして、


『 今日はなんの曲聴いてんの? 』


時々やってくる先輩がいる。





『 好きなバンドの新曲が出たんです 』


前に同じ役員になった時に少し仲良くなって、


いつも曲を聴いてることを話したら、


たまに来て、一緒に聴くようになった。





『 でも、ワイヤレスって便利だよなぁ 』


こんな離れてても一緒に聴けるってすごくない?って


無邪気に笑うあなたは、


先輩だけどちょっとかわいい。





『 じゃあ、気をつけて帰れよ 』


いつものように手を振って、帰りの支度をする。


この時間は、いつも、なんだかちょっぴり寂しいや。





今日も楽しかったなぁ。


先輩は、なんで一緒に曲を聴いてくれるんだろう。


そんなことを考えながら歩いていると、


自然と頬が緩んでいた。


自分の気持ちに、はじめて気付いた瞬間だった。










また明日ね、といつものようにみんなが帰っていき、


わたしも、いつものように曲を聴く。


今日も来るかな、なんてそわそわしながら。





そろそろ曲が終わる。


やっぱり2日連続では来ないよなぁ、と


少しでも来ることを期待していた自分に驚いた。





『 今日はどんな曲? 』


よっ!と、ドアからひょっこり出てきたあなたを見て


心臓が大きく音を立てた。



『 今日も来たんですか? 』


もうちょっとかわいいことを言えないのかと、


素直になれない自分を憎む。





『 あれ、今日は有線のイヤホンなんだね 』


俺にも聴かせて、というあなたに


いつもどおり片方だけ差し出す。



『 じ、充電するの忘れてて。 』


ふーん、と呟いたあなたを


顔が熱くなったのがバレないようにちらっと見ると


少しにやけていて、なんだか癪だった。





先輩がイヤホンをつけたのを確認すると、


今日は、わたしの好きなラブソングを流した。


少しでもわたしを意識してくれたら、と願いながら。





いつもと同じ音量なのに、


心臓の音がうるさくて、上手に音が聴こえない。


ふと、隣に聞こえていないか心配になって、


あなたの顔を覗く。





夕陽のせいだろうか。


いつもより近い距離で見るあなたの顔は


いつもより少し、赤らんでいるような気がした。

4/29/2025, 3:37:44 AM

夜が明けた。




夜が明けた。



あぁ、あなたがいなくても、朝日は登るのね。



いつも通りの景色、いつも通りの蝉の声。



あなたがいなくても、


止まることなくまわり続ける世界に嫌気がさす。



少し前まで、あなたはここにいたのに。



あなたがいない世界を、わたしは今生きている。



とても不思議で、変な感じだ。



なんだか、夜が明けるたびに、


あなたと過ごした日々から遠のいてしまうようで。



あなただけがその時間で止まっていて、


わたしだけが、進んでいってしまうようで。







あなたがいない朝なんて、来てもなんの意味もない。


あなたがいない朝なんて、わたしはいらない。


あなたがいないのなら、わたしの夜は明けなくていい。




分かっている。




いくら願ったところで、夜は必ず明けてしまうのだ。




だからわたしは、


夜になると、必ず星を見た。



あなたとの思い出が霞んでいかないように


まるで星に縋るように。



すると、あなたの温もりを


また感じられるような気がしたのだ。







今日もわたしは、あなたのいない世界を生きている。



けれど、あなたと過ごした日々は、


きっとわたしの中で生き続けている。



まるで、昼中には見えないけれど、


常にそこにある星のように。



あなたは、いつもわたしの傍にいるんだね。




そう思えたとき、


なんだか久しぶりに、ちゃんと朝日を見れた気がした。




わたしの夜が明けた。

4/15/2025, 6:04:57 PM

春恋



昨年の春

わたしの恋は、儚く散った。


ずっと好きだった男の子が

女の子と付き合ったことを知った。


想いもまだ伝えられてないのに。

幸せそうに笑うあなたを見て、ただただ苦しかった。


つらくて、ほかに好きな人をつくろうとしたけど、

やっぱり、あなた以上に好きになることはなくて。


それ以来、わたしはちょっぴり

春が苦手だ。





そして今年も春が来た。


『 もう1年も経ったんだ 』


この季節になると

どうしても思い出してしまうんだよなぁ。


でも、今日は久しぶりの学校だ。


楽しい1年になりますように、と願いながら

学校までの道を歩いていると

視界いっぱいに、桃色が広がった。


春は苦手だけど、やっぱり桜は綺麗だ。

しばらく立ち止まって見惚れていた。


そろそろ行かないと、と歩き出そうとしたとき




『 きれいですね 』




振り返ってみると、

そこには、同じ制服の男の子がいた。


優しい笑顔で、わたしを見ている。


それはまるで、花びらが優しく舞うようで

桜に負けないくらい綺麗だと思った。



そのとき、わたしの心臓が大きく音を立てた。

新しく訪れる何かを知らせるかのように。



きっと、私がまた春を好きになるまで、

もうそんなに長くはない。

3/31/2025, 2:28:37 AM

春風とともに


春風とともに流れ込んできたのは

『 僕の心を救う、きみの歌声だった 』




僕は、明日に手術を控えている。

『 数週間学校に行けないから、勉強とか部活とか

置いていかれるんだろうなぁ、、 』

なんて別のことを必死に考えてはいるが、

やっぱり手術がたまらなく怖い。


時計を見る度に

あと何時間かぁと憂鬱な気持ちになるし、

ため息なんていくつついたか検討もつかない。

明後日までタイムリープできないかなぁなんて

考えていると、一人の少女の歌声が聴こえた。








『 今日も上手く歌えなかった 』


もうちょっとで発表会なのに。

今日だけで、もう何回ため息をついただろう。


わたしは恥ずかしがり屋で

人前に立つとすごく緊張して、

どうしてもいつも通りの声が出せない。


とにかく、練習が一番だよね!と

心を奮い立たせて練習をする。

でも、歌い始めても、

どこか歌声に緊張が混じってて。


『 やっぱり、私ってだめなのかな 』








『 すごく、綺麗な声だ 』


僕は、率直にそう思った。

少しぎこちないけれど、

温かくて包み込んでくれるような歌声だ。

きっと、歌っている子は優しい子なんだろうなぁ。


いつの間にか、僕の頭からは

手術の緊張がすっと消えていた。


ずっと聴いていたい。

そう思った瞬間、歌声が消えてしまった。

不思議に思い、窓から下を覗いてみると

一人の少女は、涙を流していた。


あの子がなんで泣いているのか分からないけど

居てもたってもいられなくなって

急いで紙とペンを手にとった。


『 あなたの歌声は、とても素敵で、、』

いや、違うな。

こういうのは、ストレートに書いた方が

絶対に想いは伝わるはずだ。


そして、書き終えた紙を、紙飛行機にして

その少女へ飛ばした。


『 届くといいな 』







『 あれ、これどこから飛んできたんだろう 』


目の前に、紙飛行機が飛んできたのを見て

驚きで涙もひっこんだ。


わたしもどこかへ飛ばそうかなと

紙飛行機を上に掲げた瞬間、

なにか文字が透けて見えた。

思わず開いてみると、再び涙がこぼれた。



『 あなたの歌声に救われました 』



明日手術を受ける者より、と書いてあるから

きっと、あの病院のだれかが

わたしの歌声を聴いていたのだろうか。


どんな人かも分からない。

でもこの紙飛行機に書かれていた言葉は

わたしの心を救ってくれた。


『 明日は、なんか上手く歌えそうだ! 』


いつの間にか、涙は笑顔へと変わり

いつもと同じ帰り道も、きらきらして見えた。





春風とともに飛んできたのは

『 わたしの心を救う、紙飛行機だった 』

3/24/2025, 10:27:16 AM

曇り



今日の天気の当番はぼく、そう雲だ。


いつも太陽さんと雨さんとぼくで、天気を回している。


決め方は日による。


ちなみに今日は、ぼくがじゃんけんで負けたんだ。


ぼけーっとまわりを見渡していると、


お母さんと手を繋いで歩くひとりの女の子を見つけた。


どうやら、悲しそうな表情をしている。


『 ねぇ、あの子どうしたのかな 』


ぼくが2人に聞くと、


『 とにかく笑顔にさせようぜ 』


太陽さんが、ここはおれの出番だと言わんばかりに


輝きを放つための準備体操をはじめた。


それを見た雨さんが、今日はわたしの出る幕はないなと


ひとみを閉じようとした瞬間、


ぼくは気付いたんだ。


『 あの子が持ってる傘、とても素敵だね 』


閉じていても分かるくらい、


とてもカラフルな色の傘だった。


まだ買って間もないのだろうか。ピカピカだ。


『 もしかしたら、


あの傘を使ってみたいんじゃないかしら 』


その雨さんの言葉で、


ぼくはいいことを思いついてしまった。


『 ねぇねぇ、今からさ、、。 』


太陽さんと雨さんに話すと


ぼくたちは顔を合わせて微笑んだ。







『 ねぇ、おかあさん。この傘いつ使えるのかな』


今日はくもりだから、また今度かなぁと


おかあさんは、少しこまったような顔をする。


買ってもらった傘、はじめて使えると思ったのに、、


かなしくてうっすら涙をうかべた、その時、


『 あっ、雨だよ 』


おかあさんの言葉で、ぱっと上を向くと


ぽつぽつと


まるで、涙をそっとぬぐうように


雨が優しく降りそそいだ。


傘をさした姿をおかあさんに見せると


似合ってるよ、と褒めてくれた。


おかあさんが選んでくれた傘は、やっぱりかわいくて


わたしのお気に入りだ。


涙もすっかり消えて、上機嫌で歩いていると


一筋の光が差し込んだ。


雨がやんで、雲が流れて、太陽がでてきたのだ。


『 あ!虹だ!! 』


おかあさん、虹がでてる!と


うれしそうにはしゃぐ女の子と、


その横で優しくほほえむおかあさん。







そんなふたりを、ぼくたちはずっと眺めていた。


『 それにしても、よく思い浮かんだね 』


そういう太陽さんと雨さんに、ぼくは


『 あの傘がカラフルだったから 』


と、一言だけ。




あぁ、今日は、じゃんけんに負けてよかったな。


ひとりの女の子を、笑顔にできたのだから。

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