ラブソング
また明日ね、とみんなが帰っていく。
ざわざわとにぎやかな声がだんだん遠のき、
風でやさしく揺れる葉の音が聞こえるほど
静かな教室になった。
わたしは、ここで音楽を聴くのが好きだ。
空の色が移り変っていく時間に、
心地いい風にゆられながら
好きな曲を一曲だけ聴いて帰る。
これがわたしのいつもの日課。
そして、
『 今日はなんの曲聴いてんの? 』
時々やってくる先輩がいる。
『 好きなバンドの新曲が出たんです 』
前に同じ役員になった時に少し仲良くなって、
いつも曲を聴いてることを話したら、
たまに来て、一緒に聴くようになった。
『 でも、ワイヤレスって便利だよなぁ 』
こんな離れてても一緒に聴けるってすごくない?って
無邪気に笑うあなたは、
先輩だけどちょっとかわいい。
『 じゃあ、気をつけて帰れよ 』
いつものように手を振って、帰りの支度をする。
この時間は、いつも、なんだかちょっぴり寂しいや。
今日も楽しかったなぁ。
先輩は、なんで一緒に曲を聴いてくれるんだろう。
そんなことを考えながら歩いていると、
自然と頬が緩んでいた。
自分の気持ちに、はじめて気付いた瞬間だった。
また明日ね、といつものようにみんなが帰っていき、
わたしも、いつものように曲を聴く。
今日も来るかな、なんてそわそわしながら。
そろそろ曲が終わる。
やっぱり2日連続では来ないよなぁ、と
少しでも来ることを期待していた自分に驚いた。
『 今日はどんな曲? 』
よっ!と、ドアからひょっこり出てきたあなたを見て
心臓が大きく音を立てた。
『 今日も来たんですか? 』
もうちょっとかわいいことを言えないのかと、
素直になれない自分を憎む。
『 あれ、今日は有線のイヤホンなんだね 』
俺にも聴かせて、というあなたに
いつもどおり片方だけ差し出す。
『 じ、充電するの忘れてて。 』
ふーん、と呟いたあなたを
顔が熱くなったのがバレないようにちらっと見ると
少しにやけていて、なんだか癪だった。
先輩がイヤホンをつけたのを確認すると、
今日は、わたしの好きなラブソングを流した。
少しでもわたしを意識してくれたら、と願いながら。
いつもと同じ音量なのに、
心臓の音がうるさくて、上手に音が聴こえない。
ふと、隣に聞こえていないか心配になって、
あなたの顔を覗く。
夕陽のせいだろうか。
いつもより近い距離で見るあなたの顔は
いつもより少し、赤らんでいるような気がした。
夜が明けた。
夜が明けた。
あぁ、あなたがいなくても、朝日は登るのね。
いつも通りの景色、いつも通りの蝉の声。
あなたがいなくても、
止まることなくまわり続ける世界に嫌気がさす。
少し前まで、あなたはここにいたのに。
あなたがいない世界を、わたしは今生きている。
とても不思議で、変な感じだ。
なんだか、夜が明けるたびに、
あなたと過ごした日々から遠のいてしまうようで。
あなただけがその時間で止まっていて、
わたしだけが、進んでいってしまうようで。
あなたがいない朝なんて、来てもなんの意味もない。
あなたがいない朝なんて、わたしはいらない。
あなたがいないのなら、わたしの夜は明けなくていい。
分かっている。
いくら願ったところで、夜は必ず明けてしまうのだ。
だからわたしは、
夜になると、必ず星を見た。
あなたとの思い出が霞んでいかないように
まるで星に縋るように。
すると、あなたの温もりを
また感じられるような気がしたのだ。
今日もわたしは、あなたのいない世界を生きている。
けれど、あなたと過ごした日々は、
きっとわたしの中で生き続けている。
まるで、昼中には見えないけれど、
常にそこにある星のように。
あなたは、いつもわたしの傍にいるんだね。
そう思えたとき、
なんだか久しぶりに、ちゃんと朝日を見れた気がした。
わたしの夜が明けた。
春恋
昨年の春
わたしの恋は、儚く散った。
ずっと好きだった男の子が
女の子と付き合ったことを知った。
想いもまだ伝えられてないのに。
幸せそうに笑うあなたを見て、ただただ苦しかった。
つらくて、ほかに好きな人をつくろうとしたけど、
やっぱり、あなた以上に好きになることはなくて。
それ以来、わたしはちょっぴり
春が苦手だ。
そして今年も春が来た。
『 もう1年も経ったんだ 』
この季節になると
どうしても思い出してしまうんだよなぁ。
でも、今日は久しぶりの学校だ。
楽しい1年になりますように、と願いながら
学校までの道を歩いていると
視界いっぱいに、桃色が広がった。
春は苦手だけど、やっぱり桜は綺麗だ。
しばらく立ち止まって見惚れていた。
そろそろ行かないと、と歩き出そうとしたとき
『 きれいですね 』
振り返ってみると、
そこには、同じ制服の男の子がいた。
優しい笑顔で、わたしを見ている。
それはまるで、花びらが優しく舞うようで
桜に負けないくらい綺麗だと思った。
そのとき、わたしの心臓が大きく音を立てた。
新しく訪れる何かを知らせるかのように。
きっと、私がまた春を好きになるまで、
もうそんなに長くはない。
春風とともに
春風とともに流れ込んできたのは
『 僕の心を救う、きみの歌声だった 』
僕は、明日に手術を控えている。
『 数週間学校に行けないから、勉強とか部活とか
置いていかれるんだろうなぁ、、 』
なんて別のことを必死に考えてはいるが、
やっぱり手術がたまらなく怖い。
時計を見る度に
あと何時間かぁと憂鬱な気持ちになるし、
ため息なんていくつついたか検討もつかない。
明後日までタイムリープできないかなぁなんて
考えていると、一人の少女の歌声が聴こえた。
『 今日も上手く歌えなかった 』
もうちょっとで発表会なのに。
今日だけで、もう何回ため息をついただろう。
わたしは恥ずかしがり屋で
人前に立つとすごく緊張して、
どうしてもいつも通りの声が出せない。
とにかく、練習が一番だよね!と
心を奮い立たせて練習をする。
でも、歌い始めても、
どこか歌声に緊張が混じってて。
『 やっぱり、私ってだめなのかな 』
『 すごく、綺麗な声だ 』
僕は、率直にそう思った。
少しぎこちないけれど、
温かくて包み込んでくれるような歌声だ。
きっと、歌っている子は優しい子なんだろうなぁ。
いつの間にか、僕の頭からは
手術の緊張がすっと消えていた。
ずっと聴いていたい。
そう思った瞬間、歌声が消えてしまった。
不思議に思い、窓から下を覗いてみると
一人の少女は、涙を流していた。
あの子がなんで泣いているのか分からないけど
居てもたってもいられなくなって
急いで紙とペンを手にとった。
『 あなたの歌声は、とても素敵で、、』
いや、違うな。
こういうのは、ストレートに書いた方が
絶対に想いは伝わるはずだ。
そして、書き終えた紙を、紙飛行機にして
その少女へ飛ばした。
『 届くといいな 』
『 あれ、これどこから飛んできたんだろう 』
目の前に、紙飛行機が飛んできたのを見て
驚きで涙もひっこんだ。
わたしもどこかへ飛ばそうかなと
紙飛行機を上に掲げた瞬間、
なにか文字が透けて見えた。
思わず開いてみると、再び涙がこぼれた。
『 あなたの歌声に救われました 』
明日手術を受ける者より、と書いてあるから
きっと、あの病院のだれかが
わたしの歌声を聴いていたのだろうか。
どんな人かも分からない。
でもこの紙飛行機に書かれていた言葉は
わたしの心を救ってくれた。
『 明日は、なんか上手く歌えそうだ! 』
いつの間にか、涙は笑顔へと変わり
いつもと同じ帰り道も、きらきらして見えた。
春風とともに飛んできたのは
『 わたしの心を救う、紙飛行機だった 』
曇り
今日の天気の当番はぼく、そう雲だ。
いつも太陽さんと雨さんとぼくで、天気を回している。
決め方は日による。
ちなみに今日は、ぼくがじゃんけんで負けたんだ。
ぼけーっとまわりを見渡していると、
お母さんと手を繋いで歩くひとりの女の子を見つけた。
どうやら、悲しそうな表情をしている。
『 ねぇ、あの子どうしたのかな 』
ぼくが2人に聞くと、
『 とにかく笑顔にさせようぜ 』
太陽さんが、ここはおれの出番だと言わんばかりに
輝きを放つための準備体操をはじめた。
それを見た雨さんが、今日はわたしの出る幕はないなと
ひとみを閉じようとした瞬間、
ぼくは気付いたんだ。
『 あの子が持ってる傘、とても素敵だね 』
閉じていても分かるくらい、
とてもカラフルな色の傘だった。
まだ買って間もないのだろうか。ピカピカだ。
『 もしかしたら、
あの傘を使ってみたいんじゃないかしら 』
その雨さんの言葉で、
ぼくはいいことを思いついてしまった。
『 ねぇねぇ、今からさ、、。 』
太陽さんと雨さんに話すと
ぼくたちは顔を合わせて微笑んだ。
『 ねぇ、おかあさん。この傘いつ使えるのかな』
今日はくもりだから、また今度かなぁと
おかあさんは、少しこまったような顔をする。
買ってもらった傘、はじめて使えると思ったのに、、
かなしくてうっすら涙をうかべた、その時、
『 あっ、雨だよ 』
おかあさんの言葉で、ぱっと上を向くと
ぽつぽつと
まるで、涙をそっとぬぐうように
雨が優しく降りそそいだ。
傘をさした姿をおかあさんに見せると
似合ってるよ、と褒めてくれた。
おかあさんが選んでくれた傘は、やっぱりかわいくて
わたしのお気に入りだ。
涙もすっかり消えて、上機嫌で歩いていると
一筋の光が差し込んだ。
雨がやんで、雲が流れて、太陽がでてきたのだ。
『 あ!虹だ!! 』
おかあさん、虹がでてる!と
うれしそうにはしゃぐ女の子と、
その横で優しくほほえむおかあさん。
そんなふたりを、ぼくたちはずっと眺めていた。
『 それにしても、よく思い浮かんだね 』
そういう太陽さんと雨さんに、ぼくは
『 あの傘がカラフルだったから 』
と、一言だけ。
あぁ、今日は、じゃんけんに負けてよかったな。
ひとりの女の子を、笑顔にできたのだから。