おきつねちゃん

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5/24/2024, 12:25:24 PM

テーマ『あの頃の私へ』

そりゃさ仕方がないよ。
好きになっちゃったんだもん。

これ以上言ったら引かれるって分かってても、自分を見て欲しくて必死にアピールしてさ。周りに「もう止めとけ」と何回言われたことか。

「好き」って言えば「無理」と返ってくる。
「今日もかっこいい」なんて言えば「どーも」と短く返事をし、
「わたしと付き合って欲しい」と言えば「ごめんね」と振られる。

塩対応過ぎて心は抉られたけど、それでもわたしは諦めきれなくて。
振られてもめげずに告白するもんだから、呆れられるのも無理はなかった。だけど諦めさせてくれない彼も悪かったと思う。

振るクセに、付き合う気がないクセに、「またどうせ明日も告ってくんだろ」って少し眉を下げて笑うんだよ。それで「お前、ホント俺のこと好きなぁ」なんて言って頭を撫でてくんの。狡い。

だけど安心して下さい。
そんな塩対応かつ余裕気にわたしを見下ろしていた彼は、いまや形勢逆転して甘えん坊の子犬みたいなのです。

わたしが言う前に好きと言ってくれます。
今日も可愛いと愛でてくれます。
そして先日、結婚してくれとプロポーズを受けました。

あの頃のわたしじゃ考えられなかった彼のこと、生涯かけて大事にしていきたいと思う。

2/13/2024, 10:47:30 AM

テーマ『待ってて』

『待っててな』

子供を宥めるみたく大きな手のひらが、わたしの頭をそっと撫でる。

行かないで。一緒にいてよ。
そんなことを泣いて喚いたところで、あなたは苦しそうに笑うだけってことをもうわたしは知ってしまっているから、口をぎゅっと閉じた。

いつもは待っててなんて言わないくせに。
らしくない言葉を言わないで。

待っててって言葉はちゃんと約束が守れるときだけ言える言葉なんだよ。お日様が昇ってきたのに、あなたはまだ帰って来ない。夜には月が煌めいて、星だって輝いているのに寂しくて。雨の日は余計と塞ぎ込んでしまい、曇りの日はもしかしたらのことを考える。

こういう人を選んだのは紛れもなく自分なのだ。
こういう世界で生きる人を選んでしまったのに悔いはない。

だけどやっぱり涙が勝手に流れてしまう。

ねぇ、待っててってどのくらい?
連絡もつかないから、心配してるんだよ。
ご飯は食べてる?ちゃんと寝れてる?怪我はない?

まるでお母さんのようだけど、それくらいあなたのことを昼も夜も考えてるの。

なのにあなたを前にしたときのわたしったら、結局言いたいことは沢山あるのにこの言葉しか思い浮かばなかった。


「……っ会いたかった」

2/9/2024, 11:25:11 AM

テーマ『花束』

隣の芝生は青く見えるとはよく言ったもので、わたしの彼氏はわたしに無頓着だ。

「ねぇねぇ、こういう夜景を見ながら食事とかしてみたくない?」
「あー…うん。別にお前が行きたいならどっちでも」
「なにそれ!絶対行きたいって思ってないでしょ」

旅行雑誌を片手に頬を膨らましたってわたしの彼氏は顔色ひとつ変えやしない。今更それをどうこう言っても仕方がない。だってこういう人だって知ってたし。

わたしが新しい服を買ったと着てみても「いいんじゃね?」
わたしがメイクを変えてみても「よくわかんねぇ」
わたしがUFOキャッチャーで一目惚れした人形を取ろうと頑張っているときも「よくそんなの欲しいよな」

傍から見れば冷たい彼氏だと言われてもおかしくはない。
喧嘩をしたときなんかは本当になんでコイツと付き合っちゃったんだろって思ってしまうときもぶっちゃけある。

だけど、だけどね。
それでもわたし、彼のことが大好きなんです。

ホテルのラウンジから見える景色はそりゃもう綺麗だった。ディナーも終盤、デザートが運ばれる。中々フォークを持たない彼にハテナを浮かべていれば、なんと彼は照れくさそうに視線をずらしてわたしに花束を差し出した。そして言うのだ。「俺の苗字貰って下さい」って。

「なっなんだよ。お前、こういうのに憧れるって言ってたろ」

口を開けて呆けたわたしに彼は何か間違ったことをしたのかもしれないと慌てて弁解する。

稀にわたしの心臓を瞬時にかっさらっていくんだから、ほんとこういうとこがずるい。わたしが花束貰ってプロポーズに憧れるなんて言ったのは随分前のことなのに、覚えてくれていたことが堪らなく嬉しくて。このホテルだってわたしに隠れて予約をしてくれてたし。

こんなの、返事はYESに決まってる。

わたしの夫になる人は、無頓着に見えて意外と愛深い人なのだ。

2/8/2024, 1:30:41 PM

テーマ『スマイル』




「俺だって面白けりゃ笑うよ」

いつもと違うその柔和な表情に、してやられた。
心臓は半分盗まれたといってもおかしくないくらいだ。彼から目を離せず凝視してしまう。煙草の煙を宙へと浮かす彼は、いつもなら何処か色気が溢れて見えるのに、こんなに子供っぽく笑うだなんて。

「え…え?」
「は?」

語彙は消滅。だってそりゃそうでしょ。いつもあまり笑わないことで有名な人が、こんなちっぽけなことで口を開けて笑うことが意外だったんだもん。彼だって人間なんだから笑うくらい当たり前のことなのに。

「お前って時々バカっぽくなるよな」

呆れ口調で煙草を消した彼は、いつもの仏頂面でわたしを置いて背を向ける。さっきの笑顔の欠片もない。

だけどわたしはその場でポツンと三十秒、いや一分。
嘘でしょ?いやいや、ないない。…でも。
数分前の彼の笑顔を思い出すだけで頬が途端に熱くなる。未だ鳴り止んではくれない胸の音もプラスされたら、自覚せざる追えない気持ちが生じるわけでして。

本当に恋ってどこに潜んでいるか、分からない。




2/7/2024, 10:24:32 AM

テーマ『どこにも書けないこと』


誰にも言えなくて、どこにも書けない内緒のこと。

実はあなたを前にすると胸が脈打ってしまうこと。
実はあなたと話すキッカケが欲しくて、わざと出来るコトを出来ないフリしてしまうこと。
実は薄い化粧より、派手なメイクの方が好きなこと。

あなたに少しでも意識して貰いたくて、構って貰いたくて、好きになって貰いたくて、ちょっとだけ、猫かぶってしまっていること。

それでもあなたはわたしに言うよね。

「お前のことは妹みたいに思ってる」

だから言えない。
言えないし、この気持ちは手紙にもトークアプリにも書き綴ることは出来ず、わたしの心の中にしまっておくの。

ほんの少し、泣きながら。

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