テーマ『スマイル』
「俺だって面白けりゃ笑うよ」
いつもと違うその柔和な表情に、してやられた。
心臓は半分盗まれたといってもおかしくないくらいだ。彼から目を離せず凝視してしまう。煙草の煙を宙へと浮かす彼は、いつもなら何処か色気が溢れて見えるのに、こんなに子供っぽく笑うだなんて。
「え…え?」
「は?」
語彙は消滅。だってそりゃそうでしょ。いつもあまり笑わないことで有名な人が、こんなちっぽけなことで口を開けて笑うことが意外だったんだもん。彼だって人間なんだから笑うくらい当たり前のことなのに。
「お前って時々バカっぽくなるよな」
呆れ口調で煙草を消した彼は、いつもの仏頂面でわたしを置いて背を向ける。さっきの笑顔の欠片もない。
だけどわたしはその場でポツンと三十秒、いや一分。
嘘でしょ?いやいや、ないない。…でも。
数分前の彼の笑顔を思い出すだけで頬が途端に熱くなる。未だ鳴り止んではくれない胸の音もプラスされたら、自覚せざる追えない気持ちが生じるわけでして。
本当に恋ってどこに潜んでいるか、分からない。
2/8/2024, 1:30:41 PM