おきつねちゃん

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傘の中の秘密



「まぁたお前忘れたのかよ」
「しょうがないじゃん。天気予報なんて見る暇なかったんだもん」

口を尖らせるわたしのことを、小馬鹿にするように彼は鼻で笑った。雨の日は憂鬱だけど、匂いは嫌いじゃない。雫が傘へとぽつぽつ落ちるこの音だって意外と好き。

「マジでドンくせぇなぁ。ほら、早く来ねぇと濡れるぞ」
「あっ」

そっと肩を抱かれ、遠かった距離は肩が触れ合うくらいに近くなる。それにわたしは胸を鳴らし、平然を装いながら彼と同じ速さで歩を進めるのだ。

「…ありがと」
「おう。天気予報くらいちゃんと見とけよ」
「……うん」

わたしよりうんと高い身長の彼をそっと見上げた。

雨の日は憂鬱だけど、匂いは嫌いじゃない。雫が傘へとぽつぽつ落ちるこの音だって意外と好き。

だけど一番は、こうして彼の隣を独占出来ること。

だけどまだ伝える勇気はどうしても準備出来ていないから、この秘密はカバンの中にある折りたたみ傘と共にしまっておくことにする。

6/2/2025, 10:38:54 AM