テーマ『花束』
隣の芝生は青く見えるとはよく言ったもので、わたしの彼氏はわたしに無頓着だ。
「ねぇねぇ、こういう夜景を見ながら食事とかしてみたくない?」
「あー…うん。別にお前が行きたいならどっちでも」
「なにそれ!絶対行きたいって思ってないでしょ」
旅行雑誌を片手に頬を膨らましたってわたしの彼氏は顔色ひとつ変えやしない。今更それをどうこう言っても仕方がない。だってこういう人だって知ってたし。
わたしが新しい服を買ったと着てみても「いいんじゃね?」
わたしがメイクを変えてみても「よくわかんねぇ」
わたしがUFOキャッチャーで一目惚れした人形を取ろうと頑張っているときも「よくそんなの欲しいよな」
傍から見れば冷たい彼氏だと言われてもおかしくはない。
喧嘩をしたときなんかは本当になんでコイツと付き合っちゃったんだろって思ってしまうときもぶっちゃけある。
だけど、だけどね。
それでもわたし、彼のことが大好きなんです。
ホテルのラウンジから見える景色はそりゃもう綺麗だった。ディナーも終盤、デザートが運ばれる。中々フォークを持たない彼にハテナを浮かべていれば、なんと彼は照れくさそうに視線をずらしてわたしに花束を差し出した。そして言うのだ。「俺の苗字貰って下さい」って。
「なっなんだよ。お前、こういうのに憧れるって言ってたろ」
口を開けて呆けたわたしに彼は何か間違ったことをしたのかもしれないと慌てて弁解する。
稀にわたしの心臓を瞬時にかっさらっていくんだから、ほんとこういうとこがずるい。わたしが花束貰ってプロポーズに憧れるなんて言ったのは随分前のことなのに、覚えてくれていたことが堪らなく嬉しくて。このホテルだってわたしに隠れて予約をしてくれてたし。
こんなの、返事はYESに決まってる。
わたしの夫になる人は、無頓着に見えて意外と愛深い人なのだ。
2/9/2024, 11:25:11 AM