階段の登り降りだけで息が切れるのだが、酷くやるせない気持ちになる。
おかしいな、もう少し体力あると思っていたんだが……
試しにと、学生時代はアレだけ鼻で嗤っていたラジオ体操を……完遂出来なかった。
おかしいな、もう少し体力あった筈なのに……とやるせなさを通り越して、憂鬱になった。
先ずは歩く距離でも増やすかあ……
……ネタが思い付きませんでした
「……服をを裏返しに着て、何してんの?」
「返事がない、ただのシカバネのようだ」
「はあ!?」
「……着物を裏返しに着るのは死人だ、っていう迷信知らない? 今は死にたい気分なんだけど、自殺するわけにも行かないから、気分だけでも死体になろうと思いまして。ジェネリック死体」
「ジェネリックよりは、インスタントじゃない? どうせ着物を用意するのも面倒だから、着の身着の儘のその服を裏返しにしたんでしょ?」
「んじゃあ、それで。これから私はインスタント死体です。
死体だから、私は死んでます。死んだ気持ちを十分堪能します」
「あいよー。
……でもさあ、本当の死体になんないだけ、自殺しないだけで、偉いよ」
「……」
「…………」
「……………………」
「…………………………………………ありがと」
俺の願いは、鳥のように空を飛ぶことだった。
未来の人生に希望をもてずに、自棄で行った悪魔召喚--何故か成功してしまった--で確かに言った。
鳥のように空を飛びたい、と。
「それで何で俺が人面鳥になっているんだよ!?」
そう、俺が呼び出した悪魔は「お前の魂を支払うなら、その願いを叶えよう」と頷いた。
そして俺を、人の体から鳥の体へと変容させた。--そう、体、だけ。
人間でいることにも心底嫌気が差していたから、人外に堕(お)とされるのは別に構わない。
だが、体も足も鳥のそのものなのに、顔だけは人のままで残した!!
いっそのことまるっと鳥そのものに変えてしまうとか、若しくは天使や悪魔みたく背中に何らかの羽をつけるだけでもいい。そうして欲しかった。
「えー……」
先程の大仰な態度は何処に行ったのか、営業用の仮面が剥がれたのか、不貞腐れたように悪魔は言った。
詳細な指定が無かったので、前回の仕様を参考にしたとのこと。
前回は人魚になりたいという依頼だったので、体半分を魚に変えたらしい。
しかも詳しく聞くと、下半分を魚に変えたのではなく、上半分を魚に変えたらしい。
いや、人魚じゃなくて、それじゃあ半魚人だと俺は突っ込んだ。
「とにかく依頼後の返品や変更は承ってないんで」と言い残し、悪魔は還(かえ)っていった。
「……」
呆然とする俺だけが、一人残された。
「…………一先ず、飛んでみるか」
理想図とは若干違うとはいえ、鳥の体は手に入ったのだ。
鳥のように飛んでみようと試した結果、……実際の飛行までは契約の範疇外らしく、飛べなかった。
どうやら自己努力が必要らしい。
現在俺は日々羽ばたく練習を必死に行ってる。
……自暴自棄だった人間であった頃より、飛翔の未来を目指し、日々努力して前向きに生きてるのは気のせいではないような気がする
さよならを言う前に、
もっと、私のことを知ってほしかった。
もっと、手をつなげばよかった。
もっと、花をあげればよかった。
もっと、一緒に歩きたかった。
もっともっとと際限無く後悔が湧き上がってくるが、一番強く浮かんできたのは、
何故、もっと早く助けてと言ってくれなかったの、
だった。
さよならを言う前に、煙となって空に流れる貴方に私は手を合わせた。
乙女心と秋の空と例えられるように、人の心は空模様に似ていると思う。
人は空模様を制御はできない。
人に出来ることは、せいぜい天気予報などのように予報し、その予報に対応した行動を取ることぐらいだろう。
雨が降るといえば、傘を持って出掛けたり、洗濯物を外に干すのを控える。
猛烈な暑さといえば、人は外出を控えて涼しい部屋にいたり、或いは熱中症予防の為に水分を多めに取り、日傘や帽子を用意したり、日陰の下を移動するように意識するだろう。
雪だといえば、台風といえば、雷だといえば、雹が降りるといえば、竜巻が起こるといえば……。
空模様から予測し、せいぜいそれに対応した備えをして、その天気が過ぎるのを耐えるぐらいだろう。
だが、現代の科学をもってしても、天気予報を正確に当てるのは難しい。外れることも珍しくない。
……人の心だって、そうだろう。
自分の心のことだとしても、己の感情を見通して、完全に理解するのはひどく難しい。
今日の自分はこういう気持ちになるだろうと、ある程度は見通しがつくかもしれないが、予想もしてなかった感情が湧き上がったり、高ぶった感情を制御出来ないこともあるだろう。
ある程度の方向性は己で定められるかもしれないが、
刻々と心は変わる。まるで、空模様のように。
結局心に湧き上がった感情や気持ちと共に過ごすしかないのだ。