誠実さのしるしになるなら、わたしいくらだって馬鹿を見るよ。ずっと一緒だよって耳打ちした幼さを、ね、ずっと二人で大事にしてようね。べつべつの人間同士がおんなじ形になれるわけじゃないから、ぴったり重なることなんてできないけど。わたしは別人になったわけじゃないし、あなたも別人になっていくわけじゃないし、これからも今がずっと、息をしおわるまで続いていくように願っている。そういうのって人としてはさ、棘のない花みたいだし、花を食べてる悪魔みたいだ。真ん中にはまっしろなものがあるって信じてしまう人生を、できうる限り、送ってみようと思うよ。
一人きりで傘をさして、黙って雫は砕けてゆく。肩を濡らす湿度だけは一緒に下を向いてくれそうだった。暮れの日々に沈んだ街で、底を擦り減らして歩いている誰かにもちゃんと屋根があるだろうか?無事に帰れるだろうか。
ありがとうが言えない心境は冷たさとかではないと思った。傷みきってしまう前に、傷跡に絆創膏を貼って。一人きりで傘をさして、痛みで雫は砕けてゆく。誰もが二人にはなれないから、肩を濡らさなくていいよ。下を向いて幸せそうな誰かの声が耳に入らないことに、救われてしまっていることを、恥じないでどうか休んでいてください。明日も降りますように。
ここが地獄だったらさ、この糸は自分のために垂らされたわけじゃないような気がしてしまうな。そんな感じの光が見えた。苦しいとき、逃げ出したいって思い続けるためにはそれなりの持久力が要る。最後尾で上手く走れなくても毎日登校するみたいな、果てしない持久力が要る。今をこのまま過ごすのが好きな生き物だから、かえるをゆっくり茹でるみたいに、その瞬間を皆見誤る。光が消えきらないことが絶望なんだっていうみたいな、こういう言葉に頷ける人がいるなら、停滞も後退も別に罪ではないんだ。
手の届かない夢は欠けたりしない。背中合わせに辿り着いた仮想はかつての姿を失って、もう一つの現実としてまた眼前を覆うようだった。夢の欠片で手を切って、その傷が中々治らないことを、現実を知ったと呼ぶのはあんまり好きじゃない。たぶん夢を見るのが下手になっただけだ。痛いのは嫌いだったような気がするけれど、今ではなんだかそうでもなかった。星に手を伸ばしては落としてしまう人間たちに、決して手の届かない一等星がありますように。全ては遠き理想郷。そういうやさしさがあるって思う。永遠に。
ひたり。って、手を繋いだときに肌がどこか遠く思えたんだ。貴方の胸の内がひどく脈打つように、忙しなくて、暖かくて。馴染まない肌の体温が、足し引きされていく時間が少し気障しかった。
愛しさを不法投棄して、どこへでも遠くへいこうよ。手綱を握ってくれる人からどうか離れていこうよ。一途さを神聖化して、見えなくなったものばかりじゃんね。逃げてほしいよ、笑っていてほしいよ。少なくとも許せていてほしいよ。飲み込まなくちゃいけないの?このエゴも、貴方のエゴも。
今も思い出せるんだけどさ、額に髪が張り付いていたね。貴方の胸中みたいに、物言わなくなった手と手。この手に吸い付くみたいだ。いつもみたいに、一人みたいだ。いつかみたいに貴方のいない、不完全な孤独に遭った。貴方に牙を剥く未来を、強く信じていたんだね。今は冷えていない体温を、懐かしく思うよ。