疲れたら言うんだよ。っていつも言ってあげたかったけれど、そうしてもきみは逃げられるわけじゃなかったから、遂に今日の日まで言えなかったな。立ち止まってしまった足を動かしてあげられるほどのじょうぶさはもう捻り出せないから、手を繋いで、多分つまんないとは思うけど、これからたくさんのありえないような話をするね。きみはこんなところでくたびれて座り込んでいるのが好きじゃあない人なのは知っているから、おんなじ気持ちでしなやかに寄り添ってはあげられないや。
でもいいんでしょう。きっと一人よりいいんでしょう。いつかきみがまた立ち上がって、この深い底のところから立ち上がってさ、もう一度太陽の光をさんさんと浴びて、気持ちよさそうに伸びをするまで一緒にいようね。そうしていつか、きみが隣にいるくだらない人間のことに気付いたら…、
眠りたいなら言うんだよ。つまんないとは思うけど、ずっと話していてあげるから。
揺らぐ面を眺めているような、ことができるような、隙間が胸にあればいいのに。豊かなのに。そうして涙を零すように、俯いた誰かの頬をぬくもりが撫でればいいのに。乾いた葉の切れ端を花束みたいに抱えている。一息分を求めている。幸せを一匙加えていく。今はどうかよく息を吸って吐いていいんだよ。笑っていられるだろうか。
ずっと、手を伸ばしていいって思えない日々を、時代を、誰もが送っているんだって思うけれど。
やさしさに輪郭があるんだとしたら、それを抜けるために爪の先を丸める。丸めたい。この手の伸ばし方を知りたい。かつて栄光だった未来から、シャッターチャンスを逃した過去になる。そうしているこの一瞬間を、過ごすための意味が要る。
いち、にの、さん、で飛び出そうね!合言葉は敢えて設けなかった。きみはどこまでもこの青い空を駆けていったらいいよ。こんな小さな背中に縛られずに、星と星の間を通り抜けて、拡張し続ける宇宙の向こう側まで駆け抜けていってしまったらいいよ。
二人その向こうで出会ったらさ、たぶんまた曖昧に笑うと思うんだよ。それが認証コードの代わりになると思う。逸れもの同士なんて言わなくっていいよ。星のむこうまで行くんだ。そのために走ってきたんだ。たぶんね。
未来なんていつも明後日の方向にいってしまうけれど、ここに来ようと思っていたんですよ、って過去を整えてあげる整備士になろうと思うよ。だから振り返らずに飛んでいって。真実、きみを包んだベールこそ真相だって信じてみるよ。その味気ない高潔さが好きだよ。優しい嘘をついてくれて、ありがとう、少し休んだら、さあ…行こうね!
近付きすぎて見えなくなるものだってあるよ。ずっと友達でいようね。って、ほんとうの友達ってなあに。の散弾を飲み込んで遥かに遠くまで至ったのに。死に至らないためにも随分前に臨んでおいたほうが、紳士然としているのかなあ?
不必要な上手さが、曖昧には足りないんだと思う。明日を迎える最低基準は、両手を上げて喜べたのに。いい人でいたい。そのためだけの前借りだった。開いた心の扉が痛む。それでも君の所為ではない。
おかえり。貴方の待つ家にずっと帰り着きたかったよ。着慣れて草臥れたエプロンを、笑って伸ばしたりしたかったよ。行かないで、って、縋ったりしたことはない。信じてるみたいに目を逸らしていたのかなあ。
跳ねるような陽射しに笑って、足音に合わせて前を向いて、大きくなった背丈を追い越さないでいたくて、自分はずっと、ここで。ここに…いつしか…いないもの…を、見なければ信じてられると思ってた。