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 揺らぐ面を眺めているような、ことができるような、隙間が胸にあればいいのに。豊かなのに。そうして涙を零すように、俯いた誰かの頬をぬくもりが撫でればいいのに。乾いた葉の切れ端を花束みたいに抱えている。一息分を求めている。幸せを一匙加えていく。今はどうかよく息を吸って吐いていいんだよ。笑っていられるだろうか。
 ずっと、手を伸ばしていいって思えない日々を、時代を、誰もが送っているんだって思うけれど。
 やさしさに輪郭があるんだとしたら、それを抜けるために爪の先を丸める。丸めたい。この手の伸ばし方を知りたい。かつて栄光だった未来から、シャッターチャンスを逃した過去になる。そうしているこの一瞬間を、過ごすための意味が要る。

10/28/2023, 4:29:43 AM