ナナシナムメイ

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10/17/2024, 2:23:07 PM

〈お題:忘れたくても忘れられない〉

あれだけ遠のいていた意識が眼痛に引き止められる。不本意な痛み。不愉快な感触。
映り込む光景がその痛みの元凶、さして変わらず在るその水面。落ちた先が奈落を思わせる空虚な世界。木漏れ日が嘲笑うか。揺蕩う風が私を脅す。
私の童心が、苦悩が水に溶け込んでいる。
透き通るような青い空が、雪辱の雲を作る。

ピッー、ホイッスルが鳴った。
練習試合開始の合図。各ブロックが一斉に構えた。
水泳選手としてこの場に立った私が、激しく揺れる水面に顔を映す。

ーピッ。
水に落ちた私の、一心不乱なその逃避行は他の追随を許さない。折り返し地点、落ちた先はあの日の続き。溶け出した感情が肌を妬く。
足も、顔も、手も、絡みつく空虚を祓う様に手を伸ばした。

ピッピッー。
私はまとわりつく水を掻き分けて空を見上げる。ゴールに接触した瞬間の試合終了の合図が知らせるもう一つの事実。
一拍の過呼吸を経て私は水に沈んだ。

10/16/2024, 11:31:44 AM

〈お題:やわらかな光〉

とても冷たい雨が街灯で弾ける。
弾けた雨が波紋を呼び、コンクリートで身を寄せ合った仲間に広がっていく。落ちた雫が光を求めてザーザーと声を荒げている。

時より車に撥ねられる街灯の写し鏡が、窓越しに映る光景がとても強かで。
スポットライトに照らされた水溜まりが放つその輝きはとても、やわらかい。

10/3/2024, 2:17:46 PM

〈お題:巡り会えたら〉

「こんなにも求めているのに!」
私の叫びは枕の中で木霊する。

夢にまで見た理想。
私が一番求めている物。
きっと世界中探しても見つからないだろう。
それは、希望、品性のある味わい深い希望。
濃厚で甘美な希望。

その希望を堪能したらきっと、私は満たされるに違いない。私は希望を求めている。

どんな希望なら、私の願望を満たすのか。
一生を掛けても味わい尽くせない膨大な希望。
きっと、そんなものは見つからないのだろう。

けれど、私は知っている。
当たり前の日々を過ごしていれば、必ずやってくる小さな、とてもか弱い希望を知っている。
その頼りない希望が、私の支えになっている。

それを味おうとすれば、どうなるか。
味わい尽くしてしまったならば、私は飢えて死んでしまうでしょう。

当たり前の日々に感謝しなければなりません。
私は飢えて死ぬのはごめんなのです。

当たり前に訪れるとても小さな希望を、未来に目を向ける為の灯火として。

それで、またいつか巡り会えたなら。
「早く会いたいなぁー」

10/1/2024, 3:25:12 PM

(お題:たそがれ)

未来について語る時、心が僅かばかりたそがれてしまったように澱んでいく。
それは、未来への期待と不安からなる両極端な感情に心が鈍っているからだろう。

とある人間がこう言った。
「人生とは心が暇を持て余さなければ自ずと豊かになる」

差し当たって人間がこう言った。
「未来には、後悔がたくさんあって、過去には後悔が残ってしまう。なら、今が後悔を取り除く最後のチャンスである」

誰だったか、その人はこう言った。
「格言を格言と理解した時には、既に老いぼれている。若人は、格言が難たるかを知らない」

未来を考える時、私は格言となるその言葉を思索し考えている。その言葉を実感するために、或いはその格言が確たる言葉でないことを知る為に。

若者には、言葉の重みを感じることは難しい。
なんせ、言葉が心に染みる経験が浅いからである。

浅い人生であれば、心に言葉が染み入ることはないだろう。まさしく今の私のように、たそがれ気分で思い違いをしている凡弱には言葉の重みなど早々わからない。

8/20/2024, 3:01:15 AM

〈お題:空模様〉ー評価:駄作

晴れなのか、曇りなのか。
微妙に分からない時がある。

気分の良い日はそんな空模様を晴れだと断じるし、気分の優れない日は曇りだと断言する。
天気予報は、そんな日を曇りのち雨と断じている。

空を見上げたとき、晴れている日に日差しを手で遮るとなんだか気恥ずかしさを感じる。

空を見上げた時、曇っていると何処かで、星を掴もうとする人類がいるかもしれない。と思い目を瞑る。
この話に大した意味はないけれど、空模様に俺は随分と左右されている。

雷雨が青空を塗り潰してしまえば宇宙はもう見えない。窓を叩き付ける雨音は否応なく心に轟轟と響いている。

窓際でせっせと蜘蛛が巣を張り巡らせていた事を思い出して覗いてみれば、ご馳走をそのままに蜘蛛は既に旅立っているらしい。


遠くを見やれば雨は止んでいる。
此処も暫くすれば雨音が遠ざかるのだろう。

暫くしたら空も、様相をすっかり変えている。
晴れた空に雲が流体している。
その雲を追いかけると太々しい虹に逢う。

なんとなしに虹に挨拶をしてみれば、ゴロゴロと空が鳴いた。
空の言葉はわからないけれど、晴れ渡った空を太陽が照らし出していた。

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