〈お題:忘れたくても忘れられない〉
あれだけ遠のいていた意識が眼痛に引き止められる。不本意な痛み。不愉快な感触。
映り込む光景がその痛みの元凶、さして変わらず在るその水面。落ちた先が奈落を思わせる空虚な世界。木漏れ日が嘲笑うか。揺蕩う風が私を脅す。
私の童心が、苦悩が水に溶け込んでいる。
透き通るような青い空が、雪辱の雲を作る。
ピッー、ホイッスルが鳴った。
練習試合開始の合図。各ブロックが一斉に構えた。
水泳選手としてこの場に立った私が、激しく揺れる水面に顔を映す。
ーピッ。
水に落ちた私の、一心不乱なその逃避行は他の追随を許さない。折り返し地点、落ちた先はあの日の続き。溶け出した感情が肌を妬く。
足も、顔も、手も、絡みつく空虚を祓う様に手を伸ばした。
ピッピッー。
私はまとわりつく水を掻き分けて空を見上げる。ゴールに接触した瞬間の試合終了の合図が知らせるもう一つの事実。
一拍の過呼吸を経て私は水に沈んだ。
10/17/2024, 2:23:07 PM