〈お題:終点〉ー評価:良作(凡作
ここが笑点です。
そしてここが終点です。
ーーー閑話休題。
「ねぇ!」と私が声を荒げれば彼は退屈そうに振り返って私を見つめる。
「何?」
彼の瞳は倦怠感に抗えぬ女々しい瞼の裏側で燻っていた。
「ゲームをしましょう」
どんなゲームにするか、全く考えていない私の発言に、彼は僅かにたじろいだ。
彼の興味を掻き立てるゲームなど私は思い付かない。二人で出来る比較的簡単な即席のゲームを提案したい。
「ゲームか、何のゲームするの?」
彼の脳が徐々に活性化していくのが分かる。
「ふふふ、当ててみて」
兎に角、時間稼ぎをしなければならない。
彼の期待するゲームを聞き出しつつ、既にゲームは始まっていると思わせながら今回やるゲームを決める。
「うーん…ボードゲーム系?」
彼が捻り出したゲームのジャンルはまさかの事前準備の必要な、本格的なゲーム。
「うん、そうだね」
電子ゲームを望んではないのだと私は知った。
彼の求めるゲームは本格的だった。すごろくとかどうだろうか。
「スピード?」
アキネーター?これはもう水平思考ゲームだ。
「いいえ」
反射的に否定してしまった。どうしようか。
…。
……。
「分からなかった」
彼が根を上げたので、その間に必死に考えたゲームを発表する事にした。
「今回するゲームは…人生ゲームです!」
私の宣言に彼はボードゲームの置かれた棚を一瞥する。
「そうですか」
彼の関心が移ろいだのを見抜く。
何年も一緒にいればこれくらい朝飯前だ。
「あー…二人だけだし、後片付け大変か…。トランプのスピードの方がいいかも」
執着してるわけではないだろうけれど、彼の求めたゲームにしたほうがお互い楽しめるはず。
「おけ、トランプ持ってくるわ」
私は今、彼の求めた終着点にまた一歩近付いたことに満足している。
〈お題:上手くいかなくたっていい〉ー評価:凡作
全てが全て上手くなんていかないの。
運要素が絡んだ人生だから計算通りには行かないものだ。
人が温もりを知るには、へたっぴなくらいがちょうどいい。下手なほうが却って人生を豊かにしてくれる。
人生に刺激を齎すのはいつだって挑戦と失敗とそれを共有してくれる人物である。
「実はね、心を豊かに保つのは非常に難しいのよ…?失敗して、苦労して、不幸になって、やがて時が立てば少しは報われる」
「青空に両手を広げて宇宙を抱き抱えてごらんなさい。取りこぼした分だけ可能性が残っているのよ」
成功は終着点で、達成感は感情の行き着く先で。上手くいったらそれで終わってしまうから。人生は、上手く行かないほうが楽しくて、悲しくて、苦しくて、嬉しいことが時たまあって、それで少し報われる。色鮮やかよね。
アナタは少し"上手"に幻想を抱いているわね。
アナタの頭の上に乗っかるその手は、上手って褒めてその場に留めてくれているだけなのよ。
アナタは少し"下手"を誤解しているわね。
アナタの下にあるその手は、アナタのことを少しずつ高みに押し上げてくれるのよ。
それでもアナタがしゃがみ込んでしまったら、下の手はアナタを心配してすぐに地面に降ろすのだわ。下の手はアナタが無理をしてるんじゃないかって、少し過保護だから…無理は禁物だって。
だからね、下手を嫌悪したら人生は楽しくならないし、困っちゃうわ。
ね?下手を認めてあげなくちゃ!!
「合言葉は、上手くいかなくたっていい」
〈お題:蝶よ花よ〉ー評価:良作
飛び跳ねる蝶の美しさに惑わされると、その活発な身振りを咎める人はないように。
花の慎ましやかな見た目に惑わされては、その根が悪性であることを知る人はないように。
私は私である為に人を惑わす術を持たない人である。学習を軽視した私の浅はかな理想は現実を知らないが故。理想が絵空事に等しき妄言となったのは、一重に自己を知った後も変わらず学習を軽視したからである。
蜜も吸えぬ、蜜も作れぬ私が蝶や花やと偽ってみても結局は蟻にすら見向きもされないオチである。
然りとて泣き喚いてみたとて、害虫駆除と変わらぬ心持ちで押し付けあって、可哀想な人が私を泣き止ませに走るのだろう。
涙すら通じぬ私の要求が罷り通らないのは、蝶でも花でも私が成れなかった、とそれだけのことであった。
〈お題:明日、もし晴れたら〉
1、修正対象…。
〈お題:澄んだ瞳〉ー評価:良作
言葉に囚われた瞳はインクが澱んでいる。
「僕の瞳は、墨汁の様な黒目です」
僕は自己紹介をしてみた。
すると、そいつは生意気な事を口走った。
『僕からすれば、みんな白濁した目をしている。』僕の事を否定するのは、紙の中の子。
滲み出たインクによって構成されているその子はとても不細工であった。
その子を構成する骨組みが歪んでいるのが原因である。そのくせ、肉付きが良いので、本当に可愛くない。
その子に名前を与えてやる。
「君の名前はヒズミだ」
暫くすると、ヒズミは文句を言った。
『俺はお前と名を好かない』
僕の涙ぐましさを返してほしい。
「消されたく無かったらいい子になろうな」
僕の忠告を受けて、ヒズミを構成するインクは濁流の如く漏れ出した。
『別に消されるのは構わないが、何故お前に脅されなくてはならない。お前が俺の育て方を間違えたのだ!名は体を表すとはよく言ったモノだ!』
ヒズミに睨まれた。僕の脅しを突っぱねて名付けにまで文句を言う。心意気はあるようだ。
その文字列に僕は活き活きとした何かを感じ取っている。ヒズミに目があればどんな風なのだろう。きっと、吊り目で白濁した汚い目に違いない。そう思っていると突然、筆が止まった。
『僕にはどうも、産まれたばかりの彼は、相手の態度しか知らない、無知な子なので憎めない。与えられた言葉をひたすらに溜め込んでいる。まさにヒズミは原石である。』
僕は文章を書く時、心にもない事を書いてしまうようだ。
「全部消してやろう」
『…』
「……」
『消さないのか』
肉を削ぎ落とした彼は衰弱しているが、名残深い白紙はとても澄んでいる。
「消すさ」
言葉が囚われた瞳はインクで澱んでいる。