〈お題:澄んだ瞳〉ー評価:良作
言葉に囚われた瞳はインクが澱んでいる。
「僕の瞳は、墨汁の様な黒目です」
僕は自己紹介をしてみた。
すると、そいつは生意気な事を口走った。
『僕からすれば、みんな白濁した目をしている。』僕の事を否定するのは、紙の中の子。
滲み出たインクによって構成されているその子はとても不細工であった。
その子を構成する骨組みが歪んでいるのが原因である。そのくせ、肉付きが良いので、本当に可愛くない。
その子に名前を与えてやる。
「君の名前はヒズミだ」
暫くすると、ヒズミは文句を言った。
『俺はお前と名を好かない』
僕の涙ぐましさを返してほしい。
「消されたく無かったらいい子になろうな」
僕の忠告を受けて、ヒズミを構成するインクは濁流の如く漏れ出した。
『別に消されるのは構わないが、何故お前に脅されなくてはならない。お前が俺の育て方を間違えたのだ!名は体を表すとはよく言ったモノだ!』
ヒズミに睨まれた。僕の脅しを突っぱねて名付けにまで文句を言う。心意気はあるようだ。
その文字列に僕は活き活きとした何かを感じ取っている。ヒズミに目があればどんな風なのだろう。きっと、吊り目で白濁した汚い目に違いない。そう思っていると突然、筆が止まった。
『僕にはどうも、産まれたばかりの彼は、相手の態度しか知らない、無知な子なので憎めない。与えられた言葉をひたすらに溜め込んでいる。まさにヒズミは原石である。』
僕は文章を書く時、心にもない事を書いてしまうようだ。
「全部消してやろう」
『…』
「……」
『消さないのか』
肉を削ぎ落とした彼は衰弱しているが、名残深い白紙はとても澄んでいる。
「消すさ」
言葉が囚われた瞳はインクで澱んでいる。
7/30/2024, 3:13:54 PM