ナナシナムメイ

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7/20/2024, 9:54:32 AM

〈お題:視線の先に〉ー評価:良作

その男を一言で表すならば、一視同仁。
仏様も顔負けする程にお人好しである。
怒りを知らないその人の周りには、精神的に弱い子が群がっている。彼らの要求は、その男に注目される事である。

男の視線はまさに彼らの光であり、温もりである。男に注目されない誰かは、光を失い、不安になる。温もりも冷めてしまうので注目される為に自暴自棄になる。

彼らは旧態依然である。いつ、彼らは変わるのか。その疑問に内職の手が止まる。
「そろそろ休憩かな」
新鮮な足音に誰が来たのかと目を向ける。
「…?」
自律している若い女性。足取りがしっかりしていて、見慣れてしまった奇抜な格好とは程遠い簡素な容姿。着飾る必要のない事を全面に押し出している立ち振る舞いに男は目を奪われる。

「仏様も怒りはするのよ。仏様が怒る理由は何なのかしらね?」
澱みなく、無駄のない問い掛けにむしろ戸惑ってしまっている。
「わ、わからない…です」
仏の顔も三度までと言うことわざは知っている。言われてみれば、何故三度までなのか。

「それが貴方には足りてないのよ」
「足りない…」
男が必死に答えようとしていると女性は踵を返して歩き出していた。
「優しさは毒よ。与え方を間違えれば中毒を起こしてしまうわ」
仏様は優しさが毒と判って三度目には優しく接することはしないのだろう。

彼らはきっと優しさの過剰摂取に苦しんでいる。
歩を止めて振り返った彼女の目は口ほどに物を言う。

男は造花を見つめた。



7/18/2024, 11:50:42 AM

〈お題:私だけ〉ー評価:凡作

「君たちには、分からないでしょうけどね!」
声を荒げたのはいつも真面目な印象の、隣の席の子であった。名前は…確か…「島田さん、どうしたんですか?急に」
先生が目を丸くして授業を中断する。
「あ、いえ…その…えっ…とはい!ごめんなさい!」なんの脈絡もなく叫んでしまった島田さんに皆んなの視線が集中している。
結局、クラスは授業よりも叫んだ理由を憶測し合うに留まったのである。
清楚系とされてきた今までのイメージはチャイムがなる頃にはすっかり消え去り、クラスの島田さんへの認識は、「ふしぎちゃんだね」という誰かの呟きによって確定した。

私はクラスメイトの会話には参加せずに教室から出て、それとなく島田さんを追う。

トイレへの通路で先生と島田さんが話しているのが見えた。特に怒られているといった様子はない。むしろ先生の方が困惑している。

私は島田さんを追うのをやめて教室に戻ると、一瞬視線が集まる。島田さんと間違ったのだろう。これから無遠慮に注目されるであろう島田さんが気の毒だと思った。
しかし、授業が始まっても戻ってこない。
流石にクラスメイトから心配の声が上がる。

帰りの会、「彼女は入院することになりました」と先生がとんでもないことを口にした。
理由は、突然倒れて目を覚さないということだった。検査の為の入院と改めて説明した先生は帰りの会を切り上げる。
憶測はさらに加速して、島田さんの過去や普段の健康状態にも触れ出す人が徐々に増えていく。
私は島田さんの言葉を思い出していた。
「君たちには、分からないでしょうけどね!」
私は島田さんと同じ事を思わず叫んでいた。
私にも島田さんのことはわからない。

(物語の登場人物及び出来事は完全な創作です。)

7/17/2024, 5:06:08 PM

〈お題:遠い日の記憶〉ー評価:良作

「もしもし、かめよ、かめさんよ」
私がこの童話を知ったのは、幼少期の頃だった。妹が歌っていた。

私は物覚えが悪いので、妹に何度もせがんで、うさぎとかめを歌ってもらった。
何度もせがむ私を、鬱陶しく思ってしまったのだろう。妹は外で遊ぶ事を提案した。

「追いかけっこしようよ」
「いやだ」
「お兄ちゃん、カメみたいだもんね」
「お前はウサギだよ、結局負ける」
足の遅かった僕は妹に追いつけないのが、つまらなかった。
でも、結局遊んだような気がする。

カメはとてもノロマで、イジメられていてる。
僕がそのカメだった。
うさぎは足が早いし、意地悪なやつを懲らしめるいいやつだ。妹には、悪口として使っていたけれど、今ならば、良い意味を含ませていたんだと…今更か。

妹とはもう疎遠になったけれど、今度、連絡でもしてみようと思う。

第一声は何にしようか。
やはり、無難に「もしもし〜」と妹に語りかけようと思う。

(合作)


7/16/2024, 3:58:00 PM

〈お題:空を見上げて心に浮かんだこと〉
ー評価:駄作

真空パックに入れたようなのっぺりとした雲が空を覆っている。
12時を回ったばかりの下り坂は小雨に打たれているようだった。
濡れたアスファルトはきっと、冷たい風が傾れているに違いない。とても心地良さそうだ。

寝る時間と謳われた時刻は過ぎ去って、時計の針は緩やかに歩みを進めた。
僕は静寂に居座る秒針から耳を逸らして微かな雨音を聞く。

そのまま目を閉じれば目に見えない世界がそこにはあった。空想世界とも言われているその世界は僕の中で無限に広がっている。
一度(ひとたび)空想世界に足を踏み入れれば、ずっともっと騒がしくて冷たい。

今夜は涼しい夢が見れそうです。

7/15/2024, 3:23:45 PM

〈お題:終わりにしよう〉ー評価:凡作

環境汚染や環境破壊の根底にあるのは、人類の利便性の追求と快適性の軽視である。
便利なら快適だろうという思い込みはまさに民衆の勘違いである。

便利を享受し続けている消費主義的な思考回路では、生産者の不便を知ることはないだろう。

「食べ物を粗末にするな」「モノは大切に」「もったいない」「残さず食べなさい」「簡単に捨てるな」…etc。
これらは、生産者の提供物に感謝と敬意を示しているからこその考え方である。

「金を払っているから裁量権は自分にある。口出しするな」という考えは、生産者に対する失敬である。
同時に、生産物を消費者として購入したことを忘れ、我が物顔で扱ってしまう独裁欲に塗れた主張である。

大量生産され、大量に購入できるのは、大量に消費する事をよしとした消費者が過半数だからである。


粗暴な扱いはもう、終わりにしよう。

(脱消費者主義より)

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