〈お題:私だけ〉ー評価:凡作
「君たちには、分からないでしょうけどね!」
声を荒げたのはいつも真面目な印象の、隣の席の子であった。名前は…確か…「島田さん、どうしたんですか?急に」
先生が目を丸くして授業を中断する。
「あ、いえ…その…えっ…とはい!ごめんなさい!」なんの脈絡もなく叫んでしまった島田さんに皆んなの視線が集中している。
結局、クラスは授業よりも叫んだ理由を憶測し合うに留まったのである。
清楚系とされてきた今までのイメージはチャイムがなる頃にはすっかり消え去り、クラスの島田さんへの認識は、「ふしぎちゃんだね」という誰かの呟きによって確定した。
私はクラスメイトの会話には参加せずに教室から出て、それとなく島田さんを追う。
トイレへの通路で先生と島田さんが話しているのが見えた。特に怒られているといった様子はない。むしろ先生の方が困惑している。
私は島田さんを追うのをやめて教室に戻ると、一瞬視線が集まる。島田さんと間違ったのだろう。これから無遠慮に注目されるであろう島田さんが気の毒だと思った。
しかし、授業が始まっても戻ってこない。
流石にクラスメイトから心配の声が上がる。
帰りの会、「彼女は入院することになりました」と先生がとんでもないことを口にした。
理由は、突然倒れて目を覚さないということだった。検査の為の入院と改めて説明した先生は帰りの会を切り上げる。
憶測はさらに加速して、島田さんの過去や普段の健康状態にも触れ出す人が徐々に増えていく。
私は島田さんの言葉を思い出していた。
「君たちには、分からないでしょうけどね!」
私は島田さんと同じ事を思わず叫んでいた。
私にも島田さんのことはわからない。
(物語の登場人物及び出来事は完全な創作です。)
7/18/2024, 11:50:42 AM