ななしろ

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1/27/2024, 2:11:36 PM

 優しいね、と言ってもらうとうまく笑えなくなる。そんなことない。わたしはほんとうはすごく嫌なやつだよと白状したくなる。それだけならまだしも虫の居所が悪いときは怒りすら湧いてくる。表面上のわたしだけ見て知ったように言わないで。空気を読んでるだけ、誰にでも同じようにしてるだけ。そんなことばかり考えているわたしが優しいはずがない。
 自己嫌悪にまみれて泣きたくなる。嫌われたくなくてわたしが空気になる。優しいねと言ってくれる誰かの優しさすら信じられないまま、ずるい自分がばれないように笑っている。

11/2/2023, 4:56:36 AM

 そんなものはないよ、と笑うきみが好きだと思った。今だけの熱かもしれない。小指同士を引っかけているだけのような、何をきっかけに途切れるかもわからない関係。一生だとかはぼくも口に出来る気がしないよ。それでもいいって始まったものの名前はなんだろうね。名前なんていらないのかもしれないね。
 遠い先の未来までは約束できないけれど。この瞬間にきみを好きだと思ったことは正直に伝えたい。浮かされてたっていいだろう。いつかきれいな思い出になってくれるなら。重ねた言葉の安っぽさに気付いても、無価値にはならないはずだから。

 永遠なんてものはないよ。たとえ恋でも、たとえ愛でも。それでもいいと言うきみの手を握っていたいと思った。もうしばらく、あと少し、熱が冷めてしまうその時まで。

9/7/2023, 8:44:06 AM

 ええ、そうね。まどろみの時間はここまで。鐘の音が聞こえたのなら私たちは朝を迎えなければならない。耳を塞ごうとも、霧に身を隠そうとも、その時は誰しも平等に訪れる。
 私にとっては終わりの朝。あなたにとっては……ああ、いえ。答えなくていいのよ。日中の過ごし方は私たちの間には関係ないものね。もう一寝入りするならご自由に。私は帰らせてもらうわ……区切りをうやむやにするのは一番よくないから、ね。
 ふふ。ねえ、かわいいひと。もう一度って思ってくれるなら、それは夜の鐘が鳴る頃に。始まりを告げる音が響いて、下りた帳が何もかもを隠してしまう時に。また私を買ってちょうだいね。

6/28/2023, 8:21:10 AM

 「どこに行っても変わらないさ」と卑下した笑みで僕は言う。いくら美しいものを見て、新しいことを知って、違う空気を吸おうとも。こうして自分自身を否定する僕はいなくならない。それはどこに行こうが変わらない。そんな簡単に心は出来ていない。だから「でも、だって」と続ける僕の思いは、単なるわがままでしかない。

「どうせ変わらないなら、いろんな場所に行ってみたいんだ」

 得るものが何もないとして。疲れるだけの旅だとして。見飽きた世界の隅っこで膝を抱えているよりは、よほど。

「いつか無意味だったと思う日が来るよ」
「それでも」
「きっと後悔する」
「それでも」
「続くはずがない」
「それでも、」

 その瞬間、美しいものに眼を奪われたい。新しいことで頭をいっぱいにしたい。違う空気で肺を満たしたい。……呆れた顔をする僕に笑みを返す。

「ここではないどこかへ行く理由なんて、そういうのでいいと思うんだよ」

6/5/2023, 6:27:22 AM

 カーテンの隙間から夕日のオレンジ色が差し込んでいる。その光から隠れるように部屋の隅でうずくまっていた。少し冷えた空気を肺いっぱいに吸い込む。遠くに聞こえる、子どもたちの楽しげな声が耳につく。自分の部屋にいるのにどこかへ逃げたいと思いながら、結局動きもしないで夜を待つ。
 ため息を、吐いた。訳もなく泣きたくなった。一人でいることがひどく寂しいのに、誰かと会うことの方がとても怖い。有り余る時間の中で焦燥感に追われている。だから夕方は嫌いだった。外から聞こえる喧騒に取り残されたわたしだけが、悪い子であることを自覚してしまうから。
 日の傾きと共に細くなっていく光と、ゆるやかに暗くなる室内をじっと睨む。まぶたは重いのに目は冴えていく。この狭い部屋にだけ満ちた重苦しい空気の中で、無駄に繰り返すばかりの呼吸がいつか止まりますようにと。生ぬるい吐息を溢すことも止められないまま、独り善がりに祈った。

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