ななしろ

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 「どこに行っても変わらないさ」と卑下した笑みで僕は言う。いくら美しいものを見て、新しいことを知って、違う空気を吸おうとも。こうして自分自身を否定する僕はいなくならない。それはどこに行こうが変わらない。そんな簡単に心は出来ていない。だから「でも、だって」と続ける僕の思いは、単なるわがままでしかない。

「どうせ変わらないなら、いろんな場所に行ってみたいんだ」

 得るものが何もないとして。疲れるだけの旅だとして。見飽きた世界の隅っこで膝を抱えているよりは、よほど。

「いつか無意味だったと思う日が来るよ」
「それでも」
「きっと後悔する」
「それでも」
「続くはずがない」
「それでも、」

 その瞬間、美しいものに眼を奪われたい。新しいことで頭をいっぱいにしたい。違う空気で肺を満たしたい。……呆れた顔をする僕に笑みを返す。

「ここではないどこかへ行く理由なんて、そういうのでいいと思うんだよ」

6/28/2023, 8:21:10 AM