ハルりん🌻🍀

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1/8/2026, 1:49:55 PM

色とりどりの約束

春の終わり、雨上がりの商店街に、小さな絵具屋「虹ノ屋」がひっそりと開いていた。
店主の老人・篠原は、今日も店先に古びた木箱を置く。箱にはこう書かれている。

「好きな色をひとつ。あなたの願いを、ひとつだけ叶えます。」

中には、色とりどりの小瓶が並んでいた。
赤、青、黄、緑、紫、金、銀――見たこともない色まである。

その日、店に入ってきたのは高校生の少女・美咲だった。
彼女は迷いなく、箱の中の**「灰色」**の瓶を手に取った。

「珍しい色を選ぶね」
篠原が静かに言う。

「私の毎日、ずっと灰色なんです。
 だから、この色が何かを変えてくれるなら…って」

篠原はうなずき、瓶をそっと渡した。

「この色は“影”の色だ。
 影があるから光が見える。
 願いを叶えるのは色じゃなくて、君がその影をどう使うかだよ」

美咲は瓶を持ち帰り、机の上に置いた。
蓋を開けると、灰色の光がふわりと立ちのぼり、部屋の壁に吸い込まれていく。

次の瞬間、壁に映ったのは――
彼女自身の影が、勝手に動き出す姿だった。

影は、彼女がずっとやりたかったことを次々とやってみせた。
絵を描く。
歌う。
走る。
笑う。

「…私、こんなふうに生きたかったんだ」

影は振り返り、手を差し伸べる。
美咲はその手を取った。

その瞬間、影は色を帯び始めた。
灰色から、淡い桃色へ。
桃色から、鮮やかな青へ。
青から、きらめく金色へ。

影は言葉もなく、ただ美咲の胸の奥にすっと溶け込んだ。

翌朝、美咲は鏡の前で気づく。
自分の瞳が、ほんの少しだけ色づいていることに。

「影が、私の中に戻ってきたんだ…」

その日から、美咲の世界は少しずつ色を取り戻していった。
勇気を出して絵を描き、歌い、笑い、走る。
昨日まで灰色だった日々が、少しずつ、色とりどりに変わっていく。

そして美咲は思う。

「色をくれたのは、あの瓶じゃない。
 影を受け入れた私自身なんだ」

商店街の片隅で、虹ノ屋の老人は今日も木箱を並べている。
色とりどりの瓶は、静かに光を放ちながら、次の誰かを待っていた。

お題#色とりどり

11/7/2025, 12:07:33 PM

#灯火を囲んで

夜の帳が降りる頃、山間の小さな集落にぽつりぽつりと灯がともる。風に揺れる提灯の明かりが、まるで人々の記憶を呼び覚ますように、柔らかく地面を照らしていた。

その夜、村の広場には十数人の人々が集まっていた。囲炉裏を囲み、火を見つめながら、誰もが静かに語り始める。語るのは、過ぎ去った季節のこと、失われた人のこと、そして、これから迎える冬のこと。

「この火を見ると、母さんを思い出すんだよ」と、年老いた男がぽつりと呟いた。

「私も。父がよく言ってた。火は人の心を映すって」

火は、誰の言葉にも反論せず、ただ揺れていた。まるで、すべてを受け入れるように。

その中に、一人の少女がいた。彼女は村に越してきたばかりで、誰の顔にもまだ馴染みがなかった。けれど、火を囲んで語られる物語に耳を傾けるうちに、少しずつ心がほどけていくのを感じていた。

「ねえ、火って、どうしてこんなにあったかいの?」

少女の問いに、誰もが少し驚いたように顔を上げた。そして、誰かが答えた。

「それはね、人の想いがこもってるからさ。火は、ただ燃えてるだけじゃない。誰かの祈りや、願いが、そこにあるんだよ」

その言葉に、少女はそっと手を伸ばし、火のぬくもりを感じた。

灯火を囲んで、人は語り、繋がり、そして癒される。

それは、古くから続く、静かな奇跡だった。

11/6/2025, 1:52:41 PM

#冬支度

白い息の向こうに

十一月の終わり、北風が町の角を鋭く曲がる頃、佐和子は古びた実家の縁側に座っていた。
庭の柿の木はすっかり葉を落とし、枝先に残った実が、まるで名残惜しそうに空を見上げている。

「今年も、冬が来るね」

独り言のように呟いた声が、白い息となって空に溶けた。

佐和子は三年ぶりにこの家へ戻ってきた。東京での生活に疲れ、母の遺した家を片付ける名目で、少しだけ現実から逃げたかったのだ。

押し入れの奥から出てきたのは、母が毎年使っていた炬燵布団。
干して、叩いて、陽の匂いを吸わせて――冬支度の一つひとつが、記憶を呼び起こす。

「佐和子、炬燵の電源はまだ入れちゃだめよ。寒さに慣れないと、冬を越せないから」

そう言って笑った母の顔が、ふと浮かぶ。

その夜、炬燵に足を入れ、みかんを剥きながら、佐和子は静かに涙をこぼした。
都会の喧騒では聞こえなかった風の音、薪のはぜる音、そして心の奥に残っていた母の声。

冬支度とは、ただ寒さに備えることではない。
心の隙間を、少しずつ埋めていく儀式なのかもしれない。

翌朝、佐和子は庭に出て、柿の実を一つ摘んだ。
甘さと渋さが混じるその味に、母のぬくもりを感じた。

そして、決めた。
この家で、もう一度、春を迎えてみようと。

11/5/2025, 2:35:30 PM

#時を止めて

時を止めた街

第一章:時計屋の少年

街の片隅に、誰も気づかないような古びた時計屋があった。
店主はまだ十七の少年。名前はユウ。彼は祖父から受け継いだこの店で、毎日黙々と時計を修理していた。

ある日、店の奥に眠っていた一つの懐中時計が、突然音を立てて動き出した。
それは、祖父が生前「絶対に触れてはならない」と言っていた時計だった。

ユウは吸い寄せられるようにその時計を手に取る。
針が12時を指した瞬間、世界が静止した。

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第二章:止まった世界

外に出ると、すべてが止まっていた。
風も、鳥も、人も、時間さえも。

ユウは歩いた。誰にも邪魔されず、誰にも気づかれず。
止まった世界は美しく、儚く、そしてどこか寂しかった。

彼は気づく。
この時計は「願いを叶える代わりに、世界を止める」ものなのだと。

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第三章:少女の声

止まった世界の中で、ただ一人動いている少女がいた。
彼女はユウに言った。

「あなたも願ったのね。時を止めたいって」
「…君も?」
「私は、最後の瞬間を永遠に閉じ込めたかったの」

彼女の名前はミナ。
彼女は事故で亡くなった弟と過ごした最後の一日を、永遠に繰り返していた。

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第四章:選択

ユウは悩んだ。
このまま時を止めていれば、誰も傷つかない。悲しみも、別れも、来ない。

でも、それは「生きること」をやめることでもあった。

ミナは微笑んだ。
「私はもう十分。あなたは、進んで」

ユウは時計を見つめ、そっと針を動かした。

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最終章:再び動き出す世界

風が吹いた。鳥が鳴いた。人々が動き出した。
ユウは時計屋に戻り、懐中時計をそっと棚にしまった。

ミナの姿はもうなかった。
でも、彼女の言葉はユウの胸に残っていた。

「止めた時間の中で、あなたは本当の願いを見つけたのね」

ユウは微笑み、今日も時計を修理する。
時は止まらない。だからこそ、尊い。

11/4/2025, 9:39:49 PM

#キンモクセイ

キンモクセイの約束

駅前の並木道に、今年もキンモクセイが香り始めた。

橙色の小さな花が風に揺れるたび、あの日の記憶が蘇る。高校の帰り道、彼女はいつもキンモクセイの木の下で待っていた。制服のリボンを少し緩めて、風に髪をなびかせながら。

「この香り、好きなんだよね。なんか、秋が来たって感じがする」

そう言って笑った彼女の横顔が、今でも忘れられない。

卒業の日、彼女は突然転校することになった。理由は聞けなかった。ただ、最後にキンモクセイの木の下で会ったとき、彼女は小さな瓶を手渡してくれた。

「これ、キンモクセイの香水。来年もこの季節になったら、ここで待ってるから」

それから何年も、秋になるたびに僕はその場所に通った。けれど彼女は現れなかった。

今年もまた、キンモクセイが香る。瓶の香水はもう使い切ってしまったけれど、香りだけは記憶の中で鮮やかに残っている。

ふと、並木道の向こうに人影が見えた。風に揺れる髪、懐かしいリボン。

「…待たせちゃったね」

彼女は微笑んだ。キンモクセイの香りが、ふたりの間をそっと包み込んだ。

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