やさしくても、鬱陶しいことには変わりない。風が強いと、すーぐに傘が裏返るし。私の傘反抗期過ぎないか?
それに、やさしくてもやさしくなくても、私は雨自体が嫌いだ。
もちろん濡れるから、偏頭痛を起こすから、とかも理由にはあるが、そうではなく―――あ。
「あけみ、もっと寄らないと濡れるぜ」
「やだーもうまっくんたら」
―――リア充が雨にかこつけて相合傘をするから、が、一番嫌いな理由かな。
ほんと爆発してくんないかな。
しかも奴らときたら、自分たちの世界に入っているからか、現実が、つまり私の存在が全く見えていない。
歩道を圧迫するなよ。
そうして私が気を使ってひょいっと車道側に寄れば、それを見計らったかのように車が通る。
泥が⋯⋯跳ねた。
⋯⋯⋯⋯ああ、今、ちょっとだけ雨を好きになったかもしれない。
雨のお陰で、泣きそうになったのを隠せたから。
ちくしょう! リア充も車も爆発してしまえー!!
宇宙から酸素がなくなったら―――って考えてみた。
宇宙から酸素がなくなったら、もちろん私たち動物は死ぬ。猫も犬も、眼前の檻の中で休日の父親のような体勢をするパンダも、遍く全て。
そもそも、酸素がなくなる状況ってなんだろう。
人間は酸素を生み出せないが、植物はそうではない。小学校の理科で習うやつだ。二酸化炭素を吸って酸素を吐き出す―――光合成。酸素がなくなるということは、それを吐き出してくれる植物がなくなっているということに他ならない。
人類は、都市開発が好きだからなぁ。
と、自分も人類の一員のようなものなのに、それを棚にあげて呟く。
だけどね、一員ではあるけど、被害者でもあるんだよ。と、パンダに向かって、言い訳のような何かを零す。故郷は、私が村を飛び出してから数年後に、ダム建設によって水の中に沈んでしまった。
まるでアトランティスみたいに。
神様でもなんでもない、ただわらわらいる人類の中の数人の仕業だと思うけれど。
パンダがごろりと寝返りを打った。
私の話には、どうやら興味がないらしい。
私は一つ伸びをして、欠伸をした。
時間があんまりにも余ると、こうやった生産性のないことを考えてしまうものだ。
暫く経つと、子どもたちがたくさん園内に入ってきた。側にはエプロンを着た引率らしき先生がいる。
子どもたちはパンダの檻に走って行く。先生がそれを窘める。
一人の子どもが、檻の前に立つと、私を指差して言った。
「あっ、チンパンジーだ!」
どこ「に」と、どこ「へ」で、微妙に意味が違ってくるらしい。「に」は場所を、「へ」は方向を指しているんだとか。
ぼくは、どこに行こう。
どこへ行こう。
どこを行けば――彼女にもう一度会えるのだろうか。
それとも、場所ではなく、行為かな。
なにをすれば、会えるだろうか。
降霊術――コックリさん。イタコ。シャーマン。
悪霊になってでもいいから、また君に会いたい。
どこへ行こう?
―――夢へ、ジャンプジャンプジャンプ!
いよっし、入れた! ・・・っとと、でもまだ不安定だな。改良の余地有りだ。
しかしあれだな。やはりぼくは天才だ。「他人の夢に入り込むことができる装置」・・・、ここまで上手くいくとは。
早速明日特許をとりに行こう。関税で夢のウハウハ生活を実現するのだ・・・!
しかし、適当なやつの夢に入ったのはいいものの・・・、なんなんだろうな、この夢は。
ミサイル、爆弾、毒物、ナイフに拳銃。
四方八方に飛び散るそれが、小さい女の子のような形のした人形に突き刺さる。
うーん。
人の見る夢は、その人物の深層心理表しているという説もあるが・・・、まさかな。
たまたま入った夢の持ち主が、今世間を沸かせている、少女だけをターゲットに据えた猟奇的殺人鬼だなんて、そんなことあるわけないよな。
あったわ。
特許とる前に感謝状を貰うことになるとは。
はじめまして。
と、彼女から向けられた言葉にぼくは密かに絶望した。
はじめましてなんかじゃないよ。
どうして忘れちゃったの?
↕
はじめまして。
と、彼に向けた言葉にわたしは心臓を高鳴らせた。
はじめましてと言った自分の言葉は震えてなかっただろうか。
最初は後をつけてくるだけだったきみの行動が段々エスカレートしていったから、堪らなくなって、たまたま遭った事故にこれ幸いとばかりに記憶喪失を装った。
ほんとになにもかも忘れちゃえていればよかったのにな。
「あの、貴方は誰なんですか?」
「ぼく? ぼくはきみの恋人だよ」
「(絶望)」