うぐいす。

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3/31/2025, 11:35:22 AM

 あんしぇーまたやー。
 うちなーぐちで言う、それじゃあまたね。
 って意味だ。
 一説によれば、小さな沖縄の島では何処に行ってもすぐに会えるから、「またね」はあっても「さようなら」という意味の方言はないのだとか。
 それを聞いたとき私は、なんだか素敵な話だなと、素直に感動した。
 それから私は、「さようなら」ではなく「またね」と言って別れることを心掛けた。
 とは言っても・・・私にそれを言う相手はいないのだけど。
 あーあ。
 今週から新学期が始まるだなんて、憂鬱だ。
 「またね」を交わせる相手がほしい、とは思っても、踏み出す一歩は二の足になってしまう。
 こんなウジウジとした自分にこそ、「またね」ではなく「さようなら」と言って決別したいのに。

 ―――でも。
「別に決別する必要はないのではないかな。人見知りするきみだって、どこかのだれかにとっては必要な存在かもしれないだろう」
 と、だれかが言った。ほんとにだれだこいつ。
 だれもいない自分一人だけの秘密の場所で、ボソボソと、自分自身と苦悩を語り合っていたのに、なのに、ほんとうにだれなんだよ、こいつ。
 少なくとも、同級生ではないはずだ。となると、後輩か先輩かそれとも―――。
「御名答。もうすぐ四月だからね。四月と言えば、お花見の季節であり入学式の季節であり新学期の季節でありそして引越しの季節だ! ほんとう言うと、季節外れの中途半端な月に転校してきて、謎多き転入生・・・ってのを演じるのが、ぼくの幼い頃からの夢だったんだけど。こればっかりは、両親の都合だからね。まだまだ乳歯が生え変わりきっていない小学生のぼくには、抵抗する術はないのであった」
 お前のような小学生がいてたまるかとツッコミを入れたかったが、初対面の人間とまともに会話のできない私には、到底無理な話なのであった。
 未だにべらべらと口上を続ける男の子に、せめてもう二度と会いませんように、と掌を組み合わせた。
「それじゃあ、また」







 そんなことがあった週初めから三日後の木曜日。
 始業式が終わった後の教室で転校生の紹介をする先生を尻目に、そういえばこの町には学校が一つしかないのだったと今更ながらに思い出した。
 今日は厄日なのかもしれない。
「やあ、二日ぶりだね。もっと正確に言えば六十四時間と三十分だ」
 結果的に私は、「またね」を言い合える友達という存在を見事にも作ることができたのだが、その友達が引っ越し初日にたまたま見かけた私に一目惚れをし、後をつけて接触を図り、そしてその後も度々好意によるストーカーじみた行為を繰り返すようになることを、このときの私はまだ知らない。

3/18/2025, 2:20:55 PM

 目が覚めて最初に思い出すのはきみの顔。
 夢の中でまできみが出てきたからなのかもしれない。
 昨日買った花柄のスカートを着て、短めに切り揃えられた前髪に、ピンク色の髪飾りを刺す。
 姿見の前に立って、髪の毛を少し撫でて、深呼吸をして。
 うん。今日の私はきっと、世界一かわいい。
 
 中学生までの私は、周りの友達が彼氏を作っていっている姿を見て、ああ私もあんな風になれたら、なんて、ぼんやりと想像をした。
 恋に恋をしていた。
 だけど。
 今はそんなことないってはっきり言える。
 だって私、きみのことが―――大好きだから!




 (某有名ボカロパロ。)

3/6/2025, 10:01:24 AM

A.花粉

1/1/2025, 12:24:51 PM

新年あけましておめでとうご蛇(じゃ)います。
今年もよろしくお願いします。
今年の目標は蛇足のない簡潔な美しい文章を書いていくことであります。儿

11/2/2024, 11:28:19 AM

 彼女が眠る前に、伝えたかったことがある。けれど、今日は思っていたよりも残業が長引いたせいで、帰って来た頃にはもう出来なくなっていた。倦怠期、という言葉があるが、僕たち夫婦がそれに当てはまっているのかどうかは、今となっては分からない。愛の言葉を伝え合う習慣がなくなった。付き合いたての頃より、スキンシップが減った。けれど、今も変わらず同じベッドで寝ていたし、彼女の作る料理に美味しいと伝えていた。感謝の言葉も欠かさず伝えていた。それだけで十分だと思っていたのは、僕一人だったということなのだろうか。
 同僚が、妻のことを愛せなくなったと言っていた。些細なことがキッカケで、言い合いになったらしく一ヶ月前に離婚したのだと言う。「そんな奴だとは思わなかった」と一方的に吐き捨て、縋り付いた妻を殴ったらしい。僕と妻は日頃から言い合いが多かった。けれど、喧嘩の最後には、それでも君のことが好きだと伝え合うことで、離婚をするまでには発展しなかった。しかし、最近はその喧嘩すらもしていなかった気がする。何故かは明白だ。単純に、喧嘩をするまでに至らなかった―――雑談を交わす時間が極端に減ったのだ。僕の仕事が繁忙期に入ったのが原因だろう。ただ、それは妻にも伝えていたし、不満があるようにも見えなかった。それは、欺瞞だったのか。と、すれば、彼女が僕に嘘をついていたのは最近のことではないのだろう。最長で、約一ヶ月前―――。
 自分にだけ非があるとは思わない。けれど、確かに僕も悪かったのだろう。
 愛していた。それだけは今なお揺るがない。だから、僕は今日出勤する。これが最後になるだろうが、彼女がいない今、働く理由が思い付かなかったのでさして問題はない。
 テレビでは、先日都内で行った殺人事件の情報が流れていた。犯人は不明で現在捜査中。だが、僕には犯人の見当が付いている。動機はおそらく、男女の縺れといったところだろうか―――犯人は、殺すつもりはなかった、と言うだろうけど。

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