積み上げられたお菓子の山の上に鎮座し、満足気に笑うはハロウィーンの王様―――即ち、ジャック・オ・ランタンだ。笑う・・・とは言いつつ、くり抜かれたカボチャ頭は、元々三日月形の口をしているので、笑顔以外の表情は浮かべられないのだが。
「諸君、先ずはハッピーハロウィーンと言っておこうか」
何処からともなく陽気な声が響いて来るが、それがカボチャ頭から発せられたものなのかは判断が付かない。なにせ摩訶不思議な化物なので。頭から下は人間の身体なのだが、それがキチンと機能を果たしているのかも定かではないのだ。
ともあれ、ウキウキと気分上々↑↑なジャックの言葉に返答をした少女の言葉は、なんとも絶対零度なものだった。
「今日、ハロウィーンじゃありませんけど」
お化けに扮した人間たちに混ざり、悪戯を仕掛け人間たちを驚嘆させる―――ジャックたちのような本物のお化けが主役となる、一年に一度のお祭り。それがハロウィーン。十月三十一日が、件の日。
「今日、十一月・・・?」
ジャックは何処からか取り出したスマホを慣れた手つきで操ると、画面を見ながらそう呟いた。
「そういえば、家にはカレンダーなんてないし、日付け入りのお高めな腕時計も持っていない。烏天狗の馬鹿共がアンテナを折りやがったせいで、テレビも付かない。今日は一体何日なんだと思っていたら・・・まさかハロウィーンが終わっていたなんて・・・」
少女は、「この化物の家にもテレビがあるのか。そもそも家があるのか」とツッコミを入れたくなったが、スルーすることにした。口に出せば、自分の虚しさを相手にひけらかすだけだと思ったからだ。
少女には、家がない。この化物にさえあるものを、少女は何一つ持ち合わせていなかったのだ。だからこそ、彼に出会ったのだとも言えるが。それはまあでも、幸せでもなんでもないのだから、別にどうでもいいのだけれど。
ここにも―――否、この世の何処にも、少女にとっての理想郷は存在しないという、ただそれだけの話だ。
「皆んなに連絡しても、折り返しすらしてくれなかったのは、今日がハロウィーンじゃなかったからか・・・ジャック、超ショック」
全然上手くないよ、カボチャのくせに。と(カボチャを食べたことがないのでどんな味をしているのかは知らないが)、少女は、今度は口に出してツッコもうと思ったが、それより先に、ジャックが言葉を重ねたので断念した。
「しかし、だ。逆に考えれば、今日はハロウィーンでなくとも、昨日は確かにハロウィーンだったのだから、問題ないじゃないか」
「・・・?」
もしや、クリスマスの次の日はボクシング・デーなので、もはやクリスマスみたいなもんだよね、みたいなとんでも理論を振りかざすのではあるまいか。元旦は一月一日のことを指すわけではないぞ。このカボチャ頭、ハロウィーン・イブを作っちゃおうだなんてまさかそんなことを考えているんじゃ―――
「我が貴様に悪戯を仕掛けてやろうと攫ったのが昨日―――つまり、ハロウィーンの日。貴様やその周囲の人間からすれば、それこそが悪戯に映るかもしれんが、それは純然たる誤りだ」
「悪戯とか言うレベルの話じゃないけど・・・」
誘拐≠悪戯。
誘拐=犯罪。
「菓子を進呈しない者は、女子供であれど悪戯を仕掛けるのがハロウィーンの掟だ」
ジャックは、一呼吸置いてから、ハロウィーンの王たる堂々とした風格を身に纏い、その言葉を告げた。
「我はまだ悪戯をしていない。―――我と貴様の間において、ハロウィーンはまだ終わりを迎えていないということだ」
―――覚悟するといい、人間の娘。貴様は悪戯を受けるまで、一生元の生活に戻ることは叶わないのだ。
それは少女にとっての―――家も、親も、なにも持たない少女にとっての―――理想郷の始まりを告げる言葉だった。
「さあ娘よ、先ずはこの菓子の山を、腹がはち切れるまでたらふく食うのだ」
「もぐもぐもぐ」
「どうだ、苦しいか?苦しいだろう?悪戯はこんなものではまだまだ終わらないがな」
「美味しいです」
「・・・そーか、よかったな」
「貴方も美味しいですか?」
「こッ、この頭はやらないぞ。慈善事業じゃないんでな」
「新しい顔はないのか・・・」
「我より化物じみた発言を好き勝手にするんじゃありません」
友達。
とは?
人によって、友達の定義は様々だと思われる。
例えば、くだらない会話を交えることの出来る相手が友達。
例えば、どんな悩みでも打ち明けられるのが友達。
例えば、友達価格にしてくれるのが友達。
例えば、趣味を分かち合えるのが友達。
例えば、―――。
ザク、ザクザク。
掘っては投げ捨て、掘っては投げ捨ての繰り返し。
二人で掘って掘って掘りまくって、やっと人一人分が隠れるくらいの穴が生まれる。
隣で、穴を掘る手伝いをしてくれた『友達』が、僕に問うた。
「なあ、一体誰を埋めようとしてんの?」
僕にとっての『友達』は、
「お前」
仇敵でもある。
その後、僕の言葉を冗談と受け取ったらしい友達はウケるwと笑ったので、その隙を突いて背中を強く押した。
輝かしいカーテンの思い出は、小学校低学年の頃。純白のカーテンに包まれて顔だけを出すあの子は、テレビで見たことのある花嫁さんのようで、とても綺麗だと思った。あの子はいつの間にか、好きな子に変わって、気付いた頃には、友人の嫁に変わっていった。
純白のカーテンに身を包んでいたあの子。俺は今、遺体をカーテンに包んでいる。
頑張れ、受験生/就活生!
Shall we dance?
って格好つけて誘おうと思ったけど、勇気が出ずに結局誘えなかった、そんな舞踏会の思い出。
なんて、そんな洒落た思い出あるわけねぇだろ!!