気まぐれなシャチ

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10/6/2025, 1:13:47 PM

Day.17_『燃える葉』

メラメラと目の前で立ち上る炎
炎の下には多くの葉

「よく燃えてるなぁ」

そう呟く私だが決して手をかざしたりはしない

「飛び火したら大変だ」

私は呟き少し距離を取る
目の前の炎は徐々に大きくなっていく
ついには地面にも火が移り隣に置いてあった枯れ葉にも引火した

「あーあ」

これでは消火は困難だろう

たった一枚の葉
たった一枚の葉にほんの少しの火種
それに集められた多くの葉
たったそれだけで火というものは大きくなっていく

そんなことは知っている?
当たり前のこと?
そうだね
これは当たり前の原理だ
誰もが知っている常識

そうだろう?
「SNS」という葉と火種となり得るモノを持っている
君も僕も、ね?

10/5/2025, 11:23:38 AM

Day.16_『moonlight』

「飲めよ」
「ありがとう」

今宵は中秋の名月。空にはいつもより明るく、丸い形の月が雲の服を着て存在していた。
俺は、とっくりに入った酒を『響也』の盃に注ぐ。

「……うん、美味い」
「それは良かった」

ニカッと笑いながら、飲み干す。俺は、自分で注いだ酒を飲み干す。キリッと辛い日本酒が喉元を過ぎていく。

「ほら」
「おっ、サンキュー」

飲み干してすぐ、響也が酒を注いでくれた。庭からは、鈴虫の鳴く声が聞こえてきた。

「……秋だなぁ」
「そうだなぁ……」

響也が呟いたので、それに応えるように俺も呟く。すると、響也が続けて呟いた。

「こうして『雫』と飲めるのも、今日で最後かぁ」
「……そう、だな」

俺は、少しだけ言葉が詰まってしまった。

響也と、こうして縁側で酒が飲めるのも、今日が最後。明日になれば、響也はアメリカに行ってしまう。彼自身の夢を叶えに行くのだ。「歌手になる」という、夢を。

「少し、寂しいな……」
「珍しいな、雫がそんなこと言うなんて」

本当に珍しい、というような表情で言う響也。俺は少しムスッとしながら反論する。

「俺だって寂しいときは寂しいんだよ。悪いか?」
「だって、オンラインとかでも話せるんだぞ?通話しながらとかでも……」

キョトンとした様子で言う響也。そんなことを言う彼に、俺はボソッと呟く。

「それだと……一緒に飲んだ気がしないだろ……」
「……!」

酔いが回ってきたのか、なんなのか……。俺は、今まで抑えてきた感情が溢れるように言葉が紡がれていく。

「俺は……こうして対面してお前と飲む酒が良いんだよ……電話越しでなんて……独りで飲んでるのと変わらねぇよ……」
「雫……」

寂しい。そんな一言では言い表せないような、複雑な感情が俺の心を支配していた。俺は、そんな気持ちを押し殺すように盃に残った酒を一気に飲み干す。

響也がとっくりを差し出してきたので、俺は盃を出す。盃に注ぎながら響也が言った。

「……曲ができたら」
「あ?」
「曲ができたら、一番に君に聴かせてあげるよ」
「響也……」

俺の盃に注ぎ終わった響也がとっくりを俺に渡してくる。俺がそれを受け取ると、今度は響也が自分の空になった盃を出してきた。そして……

「僕の、一番の古参になってくれるんでしょ?」
「…!」

ニカッと笑う響也。そこには、必ず成功させてみせるという決意が宿っていた。

「……変な曲出したら、承知しねぇからな?」
「あはは、肝に銘じておくよ」

俺は、響也に酒を注ぐ。響也は、それをひとくち飲むと、月へ視線を移した。月明かりに照らされたアイツの表情は、柔らかく、しかし、しっかりとした様子で光って見えた。

「……頑張れよ」
「ん?何か言った?」
「いいや、何も」

俺は自分の持っている盃に視線を落とす。そこには、空に浮かんだ月が反射し映っていた。

その後、俺たちは言葉を交わすことはなく、ただ、虫の音を聴きながら静かに飲み交わすだけだった。

10/4/2025, 12:41:34 PM

Day.15_『今日だけ許して』

減量を始めた。目標は「マイナス15kg!」。運動もやって食事も必死に管理した。
正直、かなりキツかった。仕事終わりの運動、お腹が空いても我慢の日々……気が狂いそうだった。

減量を始めて半年が経ったある日のこと。従姉妹が結婚するという連絡が入った。結婚式の後、披露宴でコース料理が出るらしい。

「ここまで頑張ってきたのに……」

そう呟く私。必死に体重を落としてなんとか目標まで近づけているのに。しかし、せっかくのおめでたい席で自分だけ減量を理由に食べないのも失礼な話だ。そんなことは、馬鹿な私でも分かっていた。……だからこそ、悩んでいた。

「どうしたの?」

悩んでいる私に、母が声をかけてきた。私は、減量のこと、従姉妹の結婚式、披露宴での食事のことを相談した。すると母は、こう言った。

「おめでたい席に招待してくれたんだよ?それを無下にしてまで続けるのは、どうかと思う」

少し言葉がきつく感じたが、ごもっともな意見だと思った。さらに母は続けた。

「それに、1日食べすぎたくらいで体重はそこまで増えないよ。あなたは、ストイックすぎる。もう少し、気楽にやりなさい」

母は、そう言った。母が私と同じ年代だった頃、同じように減量をしていたエピソードを聞いていたため、説得力があった。だからこそ、私がその言葉を信じるのに時間はかからなかった。

そして、結婚式当日。
会うのが小学生以来だった従姉妹は、その場にいた誰よりも綺麗で美しかった。

「おめでとう!」
「ありがとう!たくさん食べてね!」

従姉妹は満面の笑みでそう言ってくれた。私も満面の笑みで応える。

「うん!いただきます!」

あぁ、神様仏様……。今日だけ、今日だけは許してください。明日から、また気長に頑張ります。だから……

「うん!めちゃくちゃ美味しい!!」

今、この時だけは……どうか、お許しください。

10/3/2025, 12:51:50 PM

Day.14_『誰か』

認めて欲しい
助けて欲しい

ほぼ全ての人間は少からずこの感情を抱いている
しかしこれに応えられる人間はどれだけいるのだろう

「誰でもいいから認めて欲しい」
「誰でもいいから助けて欲しい」

インターネットが普及した世の中
これらの感情を抱いている人間に対しての当たりが強くなった

「承認欲求の塊」
「病みアピ」「他の人の方が苦労している」

全てがそうという訳では無いだろう
しかし中には本気でそう思っている人間もいるはずだ
それをこれらの言葉で片付けようとする世の中は息苦しいと感じてしまう

「あなたは充分すごいよ!」
「話聞くよ?聞くことしかできないけれど」

ほんの少しでいい
本気で悩んでいる人たちに手を差し伸べよう
「誰か」ではなく「私たち」が応えよう

私たちはそれができる人間なのだから

10/2/2025, 12:34:21 PM

Day.13_『遠い足音』

「やっぱり来るんじゃなかった……!」

俺は、走りながら言い捨てる。友人に肝試しだと言われ、ほんの好奇心に負けたのが、このザマだ。

『どこ二いるんデすかァ?』
『出てキなさぁイ!』

俺が神社の境内の中にある木陰に身を隠すと、既におかしくなった友人らがゾンビのように徘徊して俺を探し回っている。

(どうにかしてここから逃げないと……俺もおかしくなっちまう……!)

俺は必死に頭を巡らせる。俺は、肝試しが始まる前に境内を散策した際に見つけた掲示板のことを思い出した。たしかそこには……

『この場所、異世界への扉也。丑三つ時、鳥居を通るべからず。もし、鳥居を通ったならば……也。抜け出すには、……をし、鳥居を通るべし。』

そのようなことが書いてあったはずだ。

(たしか、鳥居から外に出られれば、元に戻れるはず……!)

俺は、遠くへ行った狂った友人たちを確認し、急いで鳥居まで走った。

「はぁ……はぁ……ここを潜れば……!」

俺は、出られることを確信し、鳥居から外へ出ようとする。しかし、それは叶わなかった。

──バチンッ!

「いでっ!?……は?」

俺が鳥居を潜ろうとした時、見えない壁のようなものにぶつかった。電流でも走ったかのような衝撃が俺の額に走る。

「な……何でだよ!何で出れないんだ!?」

ドンドンと見えない壁を叩くが、ビクともしない。まるで、結界でも貼られているような感じだ。

「何で……ここから出してくれ!頼む!助けてくれ!」

そう外に叫ぶが、外には誰もいない。遠くから、いくつもの足音が聞こえてくる。

「っ!!嫌だ!嫌だいやだイヤだ!!」

俺は、必死に探した。出口を。しかし、見つからなかった。そして、肝試し前に読んだ掲示板を見つけた。

「……掲示板!!」

俺は、藁にもすがる思いで掲示板に走る。そして、齧り付くようにその文章を読んだ。

「……えっ?」

俺は、言葉を失った。掲示板にはこう書かれていた。

『この場所、異世界への扉也。丑三つ時、鳥居を通るべからず。もし、鳥居を通ったならば人ならざるものに成り果てる。抜け出すには、己の心臓を奉納し、鳥居を通るべし。』

そう、書かれていた。

「しん……ぞう……?」

俺はその場に膝をついた。絶望だった。丑三つ時にこの鳥居を潜れば、人ではなくなる。抜け出すには、自分の心臓を捧げなければならない。

「はは……どちらにしても死ぬじゃねぇか……」

もう、笑いしかでなかった。

あの誘いを断っていれば
そもそも、彼らを止めていれば
この神社をよく調べていれば

そんなことが頭に過ぎるが、すべて、後の祭りだ。

「俺って……バカだなぁ……はは……」

そう呟く俺の背後。遠くから足音が近づいてきていた。そして──

『つ か マ え タ』

俺の意識は、そこで途切れた。

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