気まぐれなシャチ

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Day.13_『遠い足音』

「やっぱり来るんじゃなかった……!」

俺は、走りながら言い捨てる。友人に肝試しだと言われ、ほんの好奇心に負けたのが、このザマだ。

『どこ二いるんデすかァ?』
『出てキなさぁイ!』

俺が神社の境内の中にある木陰に身を隠すと、既におかしくなった友人らがゾンビのように徘徊して俺を探し回っている。

(どうにかしてここから逃げないと……俺もおかしくなっちまう……!)

俺は必死に頭を巡らせる。俺は、肝試しが始まる前に境内を散策した際に見つけた掲示板のことを思い出した。たしかそこには……

『この場所、異世界への扉也。丑三つ時、鳥居を通るべからず。もし、鳥居を通ったならば……也。抜け出すには、……をし、鳥居を通るべし。』

そのようなことが書いてあったはずだ。

(たしか、鳥居から外に出られれば、元に戻れるはず……!)

俺は、遠くへ行った狂った友人たちを確認し、急いで鳥居まで走った。

「はぁ……はぁ……ここを潜れば……!」

俺は、出られることを確信し、鳥居から外へ出ようとする。しかし、それは叶わなかった。

──バチンッ!

「いでっ!?……は?」

俺が鳥居を潜ろうとした時、見えない壁のようなものにぶつかった。電流でも走ったかのような衝撃が俺の額に走る。

「な……何でだよ!何で出れないんだ!?」

ドンドンと見えない壁を叩くが、ビクともしない。まるで、結界でも貼られているような感じだ。

「何で……ここから出してくれ!頼む!助けてくれ!」

そう外に叫ぶが、外には誰もいない。遠くから、いくつもの足音が聞こえてくる。

「っ!!嫌だ!嫌だいやだイヤだ!!」

俺は、必死に探した。出口を。しかし、見つからなかった。そして、肝試し前に読んだ掲示板を見つけた。

「……掲示板!!」

俺は、藁にもすがる思いで掲示板に走る。そして、齧り付くようにその文章を読んだ。

「……えっ?」

俺は、言葉を失った。掲示板にはこう書かれていた。

『この場所、異世界への扉也。丑三つ時、鳥居を通るべからず。もし、鳥居を通ったならば人ならざるものに成り果てる。抜け出すには、己の心臓を奉納し、鳥居を通るべし。』

そう、書かれていた。

「しん……ぞう……?」

俺はその場に膝をついた。絶望だった。丑三つ時にこの鳥居を潜れば、人ではなくなる。抜け出すには、自分の心臓を捧げなければならない。

「はは……どちらにしても死ぬじゃねぇか……」

もう、笑いしかでなかった。

あの誘いを断っていれば
そもそも、彼らを止めていれば
この神社をよく調べていれば

そんなことが頭に過ぎるが、すべて、後の祭りだ。

「俺って……バカだなぁ……はは……」

そう呟く俺の背後。遠くから足音が近づいてきていた。そして──

『つ か マ え タ』

俺の意識は、そこで途切れた。

10/2/2025, 12:34:21 PM