祇園精舎の鐘の音 諸行無常の響きあり
沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理を表す
奢れる人も久しからず ただ春の夢のごとし
猛き者も遂には滅びぬ ひとえに風の前の塵に同じ
これしか出てこなかった
*お題「鐘の音」
私が忘れられないお祭りの思い出にりんご飴がある。
私が小学生の頃、行っていたお祭りの中にはりんご飴の屋台は存在しなかった。
だからその頃の私にとってりんご飴とは、漫画やアニメに出てくる幻の屋台だった。
だから中学に上がり、親の都合で引っ越しした先のお祭りの屋台の中に、「りんご飴」を見つけたときはテンションが上がり嬉々として購入した。
初めて見る赤の艶々とした輝き。ずっしりと手にかかる重さ。りんごまるごと一つの贅沢さ。
憧れだった食べ物を食べられる喜びをかみしめて、大きく口を開けてかぶりついた。
結論。食べにくかった。歯が痛くなった。
口周りとおろしていた髪がベタベタになった。
さらに半分になったところでりんごは自重で地面に落ちてしまった。
いろいろな意味で残念な気分になった思い出。
その後読んだ漫画でカレー用のスプーンを使って食べる方法を知り、また買って実践してみた。
あまりベタつかず地面に落とすこともなく美味しく食べれた。ありがとう、種○先生。
最近は小さいのや最初からカットしたのが売ってるらしい。
今度お祭りに行ってあったら、久しぶりに食べてみようかなぁ。
終
*お題「お祭り」
かつて私の「目」は指であり、また白い杖だった。
あとは耳と感覚で、私は私なりに世界を把握しながら生きてきた。
私には当たり前のことだった生き方。
「なあ、ちょっといい? えっと、杖持ってベンチに座ってる君なんだけど」
「……私ですか?」
「うん、君。ちょっと君に聞きたいんだけど」
「なんでしょう?」
「隣にココア持って座っていいか? 俺そこの席でココアタイムするの好きなんだ。嫌だったら退散するよ」
私が別に構わないというと、あの人は私にココアは好きかと訪ねてきて、私が好きだというと私のぶんのココアも買ってきてくれた。
「君の左手側にブルタブ開けて置くから」
優しい声と気遣い。心が暖かくなった。
これが私とあの人の出会い。
私はあの人に触ったことはない。あの人も私に触れたことはない。名前も連絡先も聞かなかった。
ただいつも同じ時間、あのベンチに座り何気ない話をする日々は、私の宝物になった。
目を見えるようにできる可能性は前から聞いていた。
でも生まれたときからこうして生きてきた私は、見えるようにすることに意義を見いだせず断っていた。
けれど。
「あなたにとって、私は何色の印象ですか?」
「桜色、かな」
「なんか綺麗で切なくて儚くて、でも毎年会えて嬉しいなって感じる色」
それは、『どんな色』?
それを知りたくなったから。
「黙って消えてすみませんでした。見えるようになるか五分五分だったもので」
「いや別に謝ることじゃないだろ。どこかで元気にしてると思ってたし?」
「……寂しいと思ってくれなかったと」
「いや、あの、ついココア2つ買っちゃったり空の隣に話しかけたりしてた…けど」
「ふふ」
光と様々な色を捉えるようになった私の視線の先には、大好きなあの人の姿。
桜の下で佇む男性の姿を捉えたときに、あの人が言った桜色とはこんな感じなんだなと知った。
色は心が満たされるもの。あなたが教えてくれたとおり。
「幸福を感じる色、ってなんですか?」
「そりゃ、虹色じゃない?」
「じゃあこれからは、私にとってあなたは『虹色』です」
「…俺もそう思うよ」
終
*お題「視線の先には」
寝ていてふと目が覚めると、真っ先に思うのは今何時かなと言うこと。
ぼんやりした頭でなんとなくこのくらいの時間かなと考えて、そのあと時計に目を向ける。
外れてたらちょっとしょんぼり。
しかもそれが眠ってからわずか2時間くらいしか立ってなかったらガッカリしてまた寝直す。
大体合ってたら嬉しい。
目覚ましが鳴るちょっと前だったら、なお嬉しい。少し笑ってそのまま朝ごはんを食べようと起きるのだ。
そんな朝のほんのちょっとの「嬉しい」が、今日も私をやる気にさせてくれる。
終
*お題「目が覚めると」
「あなたは以前私を桜色と例えましたね」
眼の見えない彼女と過ごす、いつものたわいない会話の時間。
今日は以前にした『色』に関する話題を彼女が振ってきた。
「したな、そんなこと」
「桜は散ってしまう姿が儚いと聞きます」
「そうだな。ざあーって散っていって地面にピンクの花弁が散らばって、木は少しずつ緑になっていくんだ」
「緑は安らぐ色、でしたか」
「桜の葉は柔らかい緑色でさ。俺は桜餅を連想して腹が減りそうになる」
「桜餅って二種類あるって本当ですか?」
「あるよ、おはぎみたいなやつと、どらやき挟んだみたいなやつ。なんか両方寺の名前がついてたと思うけど忘れた。俺はおはぎみたいなのが馴染み深いな」
「それなら私が食べたことあるのは多分どらやき挟んだみたいなのだと思います」
「前にも言いましたけど。私も、あなたのこと桜色だなって思ってるんですよ」
そう言った彼女と会わなくなってしばらくたった。
どうしてなのかはわからない。そもそも俺達はお互いの名前も連絡先も知らない間柄だ。たまたまいつも同じ時間、同じ場所で会うひと。それでなんとなく話すようになった相手。
いつも彼女と腰掛けて話すベンチの後ろに立つのは桜の木だった。
それも相まって、俺は彼女を『桜色』だと思った。
彼女がここに来なくなった理由はわからない。
もう会えないかもしれない。
出会いは偶然。別れは突然。
まあきっとどこかで元気にしてるだろうと勝手に思うことにした。
今年も桜は綺麗に咲いた。
「桜は散ってもまた咲く。そのたびによう、また逢えたなって笑えるんだ」
「そうですね。また逢えて嬉しいなぁって感じるんですよね」
「…久しぶり」
「はい、お久しぶりです。あなたが今来てるジャケットが冷たいと思う『水色』ですか?」
いつも閉じていた眼を開いて、俺の顔をまっすぐ見てくる彼女がいた。
出会いは偶然。別れは突然。再会は必然だったようだ。
終
*お題「突然の別れ」