今私には熱烈に思う推しがいる。
出会えて本当によかったと思える、むしろあの時期に彼に惹かれたのは運命だったのだ、と半ば本気で思えるほどの推しが。
私と彼の間には「縁」があると感じている。
私はずっと前から彼自体は見知っていたが、彼が登場する作品を見たことはなかった。私がおもに好んでいるジャンルとは異なっていたし、家族を始め近しい人にも彼を見たことがある人間はいなかったから。どこかで彼を見かけることがあっても、作品を見るような機会はなかった。
私が彼の作品を見ようと思ったのは、とある博物館を見に行って、大きく形作られた彼の凛々しい姿を目にしたときだ。
そういえば一度も見たことがないんだよなと思って、私が会員登録している動画配信サイトを探ってみると彼の作品が何十と並んでいて、その多くが無料視聴できる状態となっていた。
これなら、見てみようかと思った。
そして。
私はまたたくまに彼に落ちた。
一作品二時間はある彼の作品を、三ヶ月ほどかけてほぼすべて見切った。
彼の尊顔に見とれ、その動きに、その声に魅了され、ときに畏怖し、ときに涙した。
彼は基本的に悪役のような立ち位置にある。
もっともこの悪とは物語の中での人間たちが定めた勝手な立ち位置にすぎない。
本来彼はただ「在るだけ」。彼自身にはおそらく人間への悪意も敵意もない。ただ本当に「在る」だけのものなのだ。
それを害なすものとして排除すると決めてるのはいつも人間たち。人間たちの都合だ。
ただこれは私も仕方がないと思う。彼はただ存在するだけのものだけど、どうしても周りに重大な被害を撒き散らしてしまう。さながら台風や竜巻のように。
台風と竜巻に攻撃ができて進路を変えられるなら、人類は当然その処置を取るだろう。
だから彼が人々に攻撃されて倒されてしまうのは仕方がないことなのだ。
そんな彼を可哀想だと感じた。
そんな怖くて格好良くて切なく感じる彼が大好きになった。
私が彼を好きになってまもなくのこと、私は行きつけの書店で彼のグッズにめぐりあった。
東京にある彼専門のストアが期間限定で出張してきていたのだ。
私は夢中で彼のフィギュアやストラップやビジュアルブック等を買い漁った。
ネットでしか手に入らぬと思っていた品々を実際に見て手に取って買えた喜び。この時期に彼のストアショップが私の行きつけの店に来たという偶然。
さらに来年には彼の生誕七十周年を記念する最新作映画がやるというではないか。
これを運命と言わずなんというのか!!
私と彼には縁がある!!
私がこのタイミングで彼にハマったのは巡りあわせだったのだ!!!
彼を推すようになって三年ほど経過した。
無論去年公開された映画は複数回見に行った。
映画のスクリーンで見る彼の姿はまさに感無量、館内に響き渡る彼の咆哮は最高だった!!
DVDも手に入れられる限り揃えフィギュアも大小数体買い揃え、俗に言う「祭壇」も作った。
今日も私は彼に夢中で、つい先日購入したBluRayを見ている。
声を大にして言う。
彼は私の運命の推しであると!
ゴジラアアァァ───!!!!!!
終
*お題「愛を叫ぶ」
君と出逢って、君に恋をして、世界に色とりどりの花があふれるような、些細なことに幸せを見つけられるそんな日々に変わった
できたら僕の隣に立ってずっと笑ってほしいと思った
結局君は生涯のパートナーに僕を選んではくれなかった
それはもう仕方ない
でも、君が遠い未来迎える最期の時くらいに
そういえばそんな人いたなぁ
…って僕のこと思い出してくれたりしたら嬉しいと思うんだ
どうかお幸せに
終
*お題「君と出逢って」
「色って、なんですか?」
目が生まれたときから見えない少女の質問に、俺はしばし考える。
「………心が満たされるもの?」
なんだろう、この答えは。自分でもよくわからない。
けどきっとこんな答えでいいんだと思った。
「心がですか。じゃあ“赤色”だったら?」
「えーと、熱い」
「“緑色”」
「安らぐ?」
「“茶色”」
「俺にとってはココアの色だから美味しそうって思うかな」
「“水色”」
「冷たい。…そういえば水は透明なのに薄い青を水色っていうんだよな」
「“ピンク色”」
「かわいい」
「私はあなたからみて、何色の印象ですか?」
目の前の少女をじっと見る。
「桜色…かな」
「桜って花の? うすいピンクってことですか?」
「いや。なんか綺麗で切なくて儚くて、でも毎年会えて嬉しいって感じる色」
少女は綺麗に笑った。
「じゃあ、あなたが私にとっては桜色ですね」
終
*お題「カラフル」
楽園とはなんだろう。
それは人によってそれぞれ違うと思う。
私の場合は………自分の好きなことが好きなだけできる時間や空間のことだろうか。
たとえば私は編み物が好き。刺繍が好き。時間と体力気力が許されるならずっとやっていたい。
私は紙の本が好き。自分の好きな本だけ集めた自分の書斎を、書庫を持ってみたい。
そこで読めるだけずっと読んでいたい。
でも現実にはできない。後者の書庫は未来で実現可能かもしれないけれど、前者は無理だ。
編み物も刺繍も楽しいけれど作業時間は限られてしまう。食事をしたり家事をしたりお風呂に入ったり仕事したりしないといけないから。
それに体力も気力も追いつかない。やたらとハイになって作業し続けることが時にあるけれど、そのぶんあとで肩こりや頭痛といった現象に見舞われる。私は生きている人間だから仕方がないね。
でもこうして考えていると、時間が限られていてもそれができている「現在(いま)」があるじゃないかと気づいた。
なんだ。私はもう「楽園」にいるんじゃないか。
さあ明日も仕事しよう。この前少し失敗をしてしまったから明日は気をつけないと。
帰宅したらまず読みかけの本を読もう。
もし近々届く予定になってる映画のBluRayが届いていたらそれを見よう。
これからもこの「楽園」が続きますように。
終
*お題「楽園」