とわ

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12/23/2023, 12:53:52 PM

プレゼント


「お〜メリクリ!がんばれよ受験生!」

二歳年上の晶はさも懐かしいとでも言いたげににかっと笑って僕と友人にキットカットの大袋を渡した。
今年のプレゼントはキットカットか、と11月の連休ぶりに会う彼の顔を見て笑う。
数年目の淡い片思いは穏やかだ。わざわざキットカットを、僕の友人の分まで用意してくれたことが嬉しかった。

「怜、このまま帰んの?どうせ隣だし俺ももう帰るんだけど。」
「あ〜じゃあ怜また月曜、メリクリ〜。」
「あ、うん、気をつけて、はぴホリデー。」

僕の片思いを知る友人はキットカットを抱えてさっさと手を振り去って行った。

「…おかえり大学生。」
「ただいま高校生〜、勉強どうよ。」
「とにかく応用問題がふあん…。」
「あ〜ね、分かるわ。…あ、はい、これ。大学生サンタから。」

二人、駅から家を目指して歩く。ぽつぽつと話していると晶が徐に肩にかけた鞄からフライトキャップを取り出して僕の頭に被せた。

「うわ、すごい、もふもふ…あったか。…え、くれんの?」
「うん、カーキのコーデュロイに犬みたいなもふもふ見たらお前の赤毛に似合いそうだなって思って。似合う似合う。」

立ち止まると晶は僕を振り返り、雑に被されてはみ出た前髪を分けるように撫でた。真冬の空の下、鼻先まで熱が巡る。

…ずるい。穏やかに済ませたい片思いなのに。

「…ありがとう晶。」
「どいたしまして、受験生の大事な脳みそあったかくして。」

並んで歩くだけで僕にとってはプレゼントなのに、腕にはキットカット、頭にはもこもこのフライトキャップだ。
なんだか堪らなく幸せで、僕は込み上げる笑みを隠すのを諦めた。

「…ふふふふ…。」
「おお、喜んでる喜んでる。」
「ぼく何も用意してない。」
「じゃあ合格で返して。」
「プレッシャーえぐ…。」
「あはは。」

12/21/2023, 4:00:14 AM

鐘の音


教会の鐘が鳴らされ、雪景色に厳かに響き渡る。

ああ、今日はクリスマスか。
起きていくとリビングではクリスマスツリーが金色のライトを点滅させていた。

「あぁ、アレク。学校の後のキャンドルナイトには参加するね?」
「…うん、」

母は小綺麗な格好でピアスを着けながら、僕に選択肢を与えないような言い方をした。僕も口も開かずに返事をしてやったが、母はクリスマスソングを口ずさむ程度には何も気にしていないようだった。

大人しく制服に着替えて朝食を食べる。
付き合い始めた恋人は帰省中で隣の家に居るが、どうせまだ寝ている。すぐに返事が返ってくるわけではない今が良いと、チャットを開いて片手で入力する。

『今日17時から教会でキャンドルナイトだけど一緒に行く?』

2歳年上の晶は隣の家の幼馴染だ。今は彼は大学で寮暮らしだけど、今も親同士も仲が良い。
僕の片思いかと思われた恋は数年の時を経て通じ合っていたことが分かった、のがつい最近な訳、だけれど。

どちらの両親も、尊敬出来る、良い人間たちだと思う。
晶と僕の仲がずっと良いことも喜んでいる。
でも、実は付き合っていますとなったら、どうだろう。

思いがけず、スマホが通知を受けて震えた。
どきりとしながらも新着メッセージを開く。

『おはよ〜行く行く!家族に会えるの久々だから楽しみだわ』

僕が気にしていることなど一ミリも気にしていなさそうなメッセージについ笑い声が出た。

「まあ…なんとかなるか。」

そう思えるのは僕だけの問題ではないからだろう。
きっと良い夜になる。そんな予感を抱えて僕はシリアルの牛乳を飲み干した。


10/31/2023, 2:37:52 AM

懐かしく思うこと



「小学生の頃怜の家の庭でキャンプごっこしたよな〜。」
「したね…まあ今やってるのも日帰りキャンプで本格的なやつじゃないけど。」
「ふは…未だにキャンプ飯の後はマシュマロ浮かべたココアだもんなぁ。」
湯気が漂うマグカップの中でマシュマロを揺らす。一緒に星を見上げた頃、僕たちは純粋だった。一番の仲良しだって、疑うところもなく信じてた。
だけど、晶が先に中学に上がって、やっと僕も中学生になったと思ったらたった一年で晶は次高校に上がって。その頃の僕らを取り巻くのは、誰か異性と付き合うのが正義という風潮だった。晶ももれなく中学では女の子に告白されて付き合ってた。
僕にとって、ただの友人の枠を超えて一番になりたいと思ったのは庭でキャンプの真似をいていた頃から晶一人だ。
それがなんだかんだ時を経て、また星空の下に二人きり過ごせている。
「…一件落着すると、なんか全部が懐かしく思えるね。」
「一件落着?」
「…僕たちが互いを一番に選んだってこと。」
「あぁ、ははは。…そうだな〜、随分遠回りした。懐かしい。」



10/22/2023, 2:16:39 PM

衣替え



夏が終わった。
とうに通り過ぎていたことに気付いていたはずなのに、それを認めたくはなかった。


つまるところ俺は多分、断捨離されたのだ。

「忙しいから。」
うん、俺も忙しいよ。

「お前には他にいい人がいると思うし。」
目線を揺らしながらよく言う。向き合うのが怖いからだろ。

片方が終わりと言ったら、終わりだ。
残ったのは二人でどこだかの駅の中の洒落た店でスパイスカレーを食った時に作った白Tシャツの染みくらい。あ〜あ。
見る度に微笑ましかったはずの致命的な染みは、今やカレーを食った時の後味みたいに疎ましい。

あぁ、それから、まあ可愛い方が好きかと買ったユニセックスなラップパンツもある。
パンツと同じ長い布がアシンメトリーに巻かれてる黒いやつ。
好きだったんだけどな。季節も選ばないって買ったのに、これからは履いても惨めになるだけか。

なるべくなんでもないようにゴミ袋を取ってきて、窓から流れ込む秋めいてきた空気を吸い込みながらそれらを中に放り込んで、まだ空きはあるのは重々承知で口を縛る。

「…秋服でも買いに行くかぁ。」

俺にだって断捨離は出来る。衣替えだってやれる。
涙を流すことに費やす時間は少しもないんだ。

10/21/2023, 10:13:29 AM

声が枯れるまで


ドラマの中で巡り会った二人が互いの名を声が枯れるほど叫ぶような場面
僕はあんな風にはなれないなと遠巻きに眺めてきた
だけど今、呼びたい名前がある
遠く離れても、簡単に声を届けられるこの時代だからこそ
隣にいる大切なこの人の名前は優しく呼ぼう
声が尽きるその日まで、僕はこの人の名前を呼ぼう

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