とわ

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10/31/2023, 2:37:52 AM

懐かしく思うこと



「小学生の頃怜の家の庭でキャンプごっこしたよな〜。」
「したね…まあ今やってるのも日帰りキャンプで本格的なやつじゃないけど。」
「ふは…未だにキャンプ飯の後はマシュマロ浮かべたココアだもんなぁ。」
湯気が漂うマグカップの中でマシュマロを揺らす。一緒に星を見上げた頃、僕たちは純粋だった。一番の仲良しだって、疑うところもなく信じてた。
だけど、晶が先に中学に上がって、やっと僕も中学生になったと思ったらたった一年で晶は次高校に上がって。その頃の僕らを取り巻くのは、誰か異性と付き合うのが正義という風潮だった。晶ももれなく中学では女の子に告白されて付き合ってた。
僕にとって、ただの友人の枠を超えて一番になりたいと思ったのは庭でキャンプの真似をいていた頃から晶一人だ。
それがなんだかんだ時を経て、また星空の下に二人きり過ごせている。
「…一件落着すると、なんか全部が懐かしく思えるね。」
「一件落着?」
「…僕たちが互いを一番に選んだってこと。」
「あぁ、ははは。…そうだな〜、随分遠回りした。懐かしい。」



10/22/2023, 2:16:39 PM

衣替え



夏が終わった。
とうに通り過ぎていたことに気付いていたはずなのに、それを認めたくはなかった。


つまるところ俺は多分、断捨離されたのだ。

「忙しいから。」
うん、俺も忙しいよ。

「お前には他にいい人がいると思うし。」
目線を揺らしながらよく言う。向き合うのが怖いからだろ。

片方が終わりと言ったら、終わりだ。
残ったのは二人でどこだかの駅の中の洒落た店でスパイスカレーを食った時に作った白Tシャツの染みくらい。あ〜あ。
見る度に微笑ましかったはずの致命的な染みは、今やカレーを食った時の後味みたいに疎ましい。

あぁ、それから、まあ可愛い方が好きかと買ったユニセックスなラップパンツもある。
パンツと同じ長い布がアシンメトリーに巻かれてる黒いやつ。
好きだったんだけどな。季節も選ばないって買ったのに、これからは履いても惨めになるだけか。

なるべくなんでもないようにゴミ袋を取ってきて、窓から流れ込む秋めいてきた空気を吸い込みながらそれらを中に放り込んで、まだ空きはあるのは重々承知で口を縛る。

「…秋服でも買いに行くかぁ。」

俺にだって断捨離は出来る。衣替えだってやれる。
涙を流すことに費やす時間は少しもないんだ。

10/21/2023, 10:13:29 AM

声が枯れるまで


ドラマの中で巡り会った二人が互いの名を声が枯れるほど叫ぶような場面
僕はあんな風にはなれないなと遠巻きに眺めてきた
だけど今、呼びたい名前がある
遠く離れても、簡単に声を届けられるこの時代だからこそ
隣にいる大切なこの人の名前は優しく呼ぼう
声が尽きるその日まで、僕はこの人の名前を呼ぼう

10/9/2023, 8:14:43 AM

束の間の休息


「あ〜〜外はあんなに穏やかな天気だってのに俺たちはこんな狭いアパートで何やってんだろう…。」
「溜めたレポートでしょ?」
「ま〜じでこの実験の考察何もわからん。」
「ははは…グループLINEに返信来るまでお茶にする?実は昨日焼いたパンプキンパイあるよ。」
「えっやば、最高の秋、最高の恋人!」
「はは…喜んでくれて嬉しいよ…。」
怜はデスクトップをぱたりと閉じてソファに倒れ込んだ晶の言葉に苦笑しながら立ち上がった。
晶の現実逃避に付き合うため、キッチンで電気ポットを水で満たしてスイッチを入れ、冷蔵庫からパンプキンパイを取り出す。ティーポットにはスパイスたっぷりのチャイのティーバッグを二つ放り込み、パンプキンパイは二切れ切って紙皿に乗せる。ふと思い立って冷凍庫の中のバニラアイスを取り出し、パイに添えてシナモンとナツメグを振りかけた。
「あ〜〜良い匂い…家の中も秋だ…最高〜…。」
「うんうん、風に曝されずに楽しむ秋もいいでしょ。」
沸いたお湯をティーポットに流し込み、スマホのタイマーを起動させる。休日のレポートも、こんな緩やかな時が流れるなら悪くない。怜はスパイスの香りを吸い込んでそう思った。

10/5/2023, 7:08:39 AM

踊りませんか


月が出ている夜、河川敷を二人で散歩した。
大学生らしく、缶チューハイをコンビニで買って飲みながらぷらぷらと。
3%のアルコールをちみちみと飲む僕に対して、晶は6%のアルコールですっかりご機嫌だ。
「あ〜やば、最高の夜だ〜!」
「お互いレポートの締切から目を逸らしてることを除けばね…。」
「だ〜いじょうぶだって、いざとなったらチャットじーぴーてぃーがいるし!」
「うわ…僕は使い方も知らないよ…。」
「ふふふふ…いいから、ほら!」
「…なに?」
「踊ろう!」
「な、なんで…?!」
「月が綺麗で川が俺たちを祝福してるから!」
「ちょっと意味わかんない…。」

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