気になるあの子に声をかけられた。
「放課後𓏸𓏸教室に来てください。」と、
その声は震えていて顔は熱を帯びている。
何か大事なことを伝えようとしてくれている。
ただそう感じた。
(一体何の話だろう。)
その日はあまり授業に集中できなかった。
柄にもなく緊張していたんだと思う。
そしてその時は訪れた。
教室で待っていると、戸を叩く音が聞こえた。
上ずる声と震える手。が見える。
あまりにも切羽詰まった顔をするものだから少し驚いてしまう。
未だに彼女が自分に何を話そうとしてくれているのか検討もつかなかったが、緊張が少しでも解けたらいいなと思い笑顔を作った。
「本日はお日柄もよく、、、」
彼女はそう話始めた。
余程言いづらいことなのだろう。
彼女は言葉を選び、タイミングを伺っているように感じた。
話すネタが尽きたのか、彼女は何も話さなくなった。
僕から話を振るべきかと思い声をかけようとする。
すると「君が好き」と唐突に彼女はそう言った。
初めは冗談なんかじゃないかと思ってしまった。
しかし彼女はそんなことをする人ではない。
何より彼女の真剣な眼差しが、震える手が本当だと訴えているように感じた。
彼女は僕に思いを伝えてくれた。
それならば僕も彼女に本当の事を伝えるのが筋だと言うものだろう。
「ありがとう。、、、、ごめんなさい」
熱い鼓動
授業の終わりを示すチャイムが鳴る。
鼓動が高鳴る。
(今日こそは絶対に思いを伝えるんだ!)
そう決意を胸にした。
今日を逃してしまうと夏休みを明けなくては会うことができなくなる。
コンディションは正直良くない。
昨日手紙を書くのに睡眠時間を大幅に削ってしまったせいだ。
夏休みに君と会えるかは今日にかかっている。
鬼が出るか蛇が出るか、、、考えるのはよそう。
私は素直な気持ちを伝えるだけだ。
フィクションじゃないリアルなのだから全てが上手くいくわけじゃない。
そんなのわかってる。
よし!
気分が落ち込みそうな自分に叱咤激励をして約束の教室で待つ。
時間より早めに着いてしまったのに既に君の姿があった。
「し、失礼します!!」
面接のように3回ノックをして入る。
声も上ずってしまった。
君は少しだけ驚いた顔を見せたが、優しく微笑むと手招きしてくれた。
「えっと、本日はお日柄もよく、、、」
中々本題に入れない私を君は急かすことなく聞いてくれた。
どう切り出すものか、そればかり考えてしまう。
(でも、やっぱり君は優しいな、相手が話しをしっかりと聞いて頷いてくれて、あの時だって、、、)
「お前のそういう所が嫌いなんだよ!!!
何されてもヘラヘラ笑って気色悪い!!」
そう言って私はクラスメイトに罵られた。
すれ違う同級生からの視線が痛い。
後々聞いた話だが、彼は私を好きだったらしい。
自分だけを見て欲しいのに色んな人に愛想を振りまくのが気に入らなかったとか、
今となっては笑い話にできるが、その後の出来事がなければトラウマを抱えて生きることになっていたかもしれない。
私は彼にそう言われた後、頭が真っ白になった。
徐々に考えが追いついてきて、なぜそんな事を言われなければならないのかという怒りと、皆から見られたという恥ずかしさで涙が込み上げてきた。
しかし反論する勇気も何と言うのが正解何かも分からなかった私はただ黙って俯くしか無かった。
そんな時だった。
「僕は、笑顔で接する事が出来る彼女は素晴らしいと思うし、尊敬しているよ。簡単そうに見えるかもしれないけど、誰にでもできる事じゃない。」
君はあの時そう言ってくれた。
「そして、僕は君のことも尊敬しているよ、行動力があって皆を動かす力もある。ただし、今はもっと周りを見るといいかもね。」
「うるせぇ!」
きっと周りの視線に気づいたのだろう。
彼はそう言い去っていった。
それから恋に落ちるのに時間はかからなかった。
気づけば君の姿を目で追うようになっていた。
君の仕草も、話し方も、笑い方も何もかも全部全部。
やっぱり私は、
「君が好きだな、、」
意図せず声に出してしまい。慌てて口を塞ぐ。
君の反応はどうだろう。目にするのがどうしようもなく怖い。
「、、、ありがとう。尊敬する君にそう言って貰えて凄く嬉しい。でも、ごめんなさい」
(あぁ、私の夏は始まらずに終わった。)
そう思った。
幼い頃からほとんどの時を一緒に過ごしたものだから、私のことを私以上に理解してくれているだなんて勘違いしていた。
いつの間にか心は離れていたんだね。
きっと大好きだと言って抱きしめてくれたあの時でさえ、私の事を愛してはいなかったのでしょ?
私が縋り付いて無様に泣きわめいてそれでも貴方が良いと言っていたのなら未来は変わっていたのかな?
でも、それすらもう遅いね。
ごめんね。
僕がいくら愛を囁いてもきっと君には届かない。
君以上に君のこと知っているのは僕だけ。
ずっとそう思ってたんだ。
お互い社会人になって、目指すものが変わって、すれ違うようになった。
それでも変わらない愛を僕は信じていた。
本気で幸せにしたいと思ってたんだ。
でも、君は僕の愛を信じてくれなくなった。
もういいよ、疲れたんだ。
愛していたよ。
ごめんね。
TRUELove
またいつかそう言って別れた幼なじみはもうここには居ない。
、、、はずだった。
「おい!そろそろ起きろ時間ないぞ」
「昨日寝れなかったのー、あと五分だけ、、、」
「おいって!」
「もう!!うるさ、、、い!?」
目を開けて目の前に飛び込んできたのは先日事故にあって亡くなったばかりの幼なじみだった。
昨日お葬式があり、私も亡くなった幼なじみにのことを思い明け方まで枕を濡らしていた。
あまりの思いの強さについに幻覚が見えるようになってしまったのか。はたまたまだ夢から覚めていないのか。
「、、、とりあえず寝よ」
目の前に見えた幼なじみは私が寝ようとすると何やら叫んでいたが、3台の目覚ましも無視できてしまうほどの私にはそのくらいの雑音屁でもなかった。
寝て起きたらどちらにせよ姿は見えなくなるだろう。
少し寂しい気もするが、それが現実というものだ。
現実にまでフィクションを求めてはいけない。
辛くたって前を向いていかねば、、、。
気づけば針は12時を示していた。
先程起きたのが8時くらいだから、単純計算で4時間は経っているはずだ。
考えているうちにだんだん頭も冴えてきた。
「よくも無視してくれたな!」
「なにか用??」
「やっぱり見えるんじゃねーか!」
そう言って幼なじみは頬を膨らませる。
誤解を招かないように話しておくと、私に霊感は無い。霊などと言う非科学的なものは信じない。
目に見えるものが全てと思っていたため、もちろんUFOなどと言ったものも信じない。
はずが
「、、、見えちゃってるんだよなー」
ほっぺをつねった。痛かった。
どうやら夢でもないらしい。
分かった。仮に目の前にいるやつを幽霊だとしよう。
そしたら目的はなんだ?何故ここにいる??
あー、あれか、恨みがあって成仏できないと言うやつか。
まだ借りた1000円を返していないことか?
友達に黒歴史をばらしたこと?
プラモデルを壊したのを黙ってたことか?
どうしよう。恨まれる理由が思いつきすぎて、尺が足りなくなりそうだ。
もういっそ本人に、、
「あのー、なぜこちらへ?」
「覚えてないとは言わせねー!」
覚えてないんだよー!!
なんなら覚えすぎてて分からないんだよ。
「、、、ごめん、ギブアップ」
「ったく、お前は昔からそういう奴だよな」
「せめてヒントだけでも欲しい」
「だー!もう、桜の木の下、放課後、手紙!!」
「はて?」
そんなありえないみたいな顔をしないで欲しい。
本当に覚えていないんだ。
桜の木の下?親戚とのお花見会か?それなら放課後は関係ないよな。手紙ってなんだ?そんなの貰った覚えがないぞ。
「本当に覚えて無いのかよ!あの日!、、、なんでお前は、ーー」
ピンポーン
正解を言ってくれそうな雰囲気だったのに。
チャイムがなって強制的に中断させられてしまった。
はーい、そう言って扉を開けると、私の従姉妹兼幼なじみがいた。
「ごめんね、急に押しかけちゃって、おばさんがここにいるって教えてくれたの。」
そう言う従姉妹の目は赤く腫れていた。
それもそのはず、私の幼なじみということはあいつの幼なじみでもあるのだ。
「私、ずっと謝りたくて。、、、これ。」
そう言って従姉妹は、手紙を差し出す。
差出人は不明だったが私の名前が書いてある。
この汚い字は見覚えがある。
それをどうして従姉妹が持っているのかは聞かなかったが、何となく想像はつく。
ーーへ
放課後桜の木の下で待ってます。
絶対に来いよ!
「本当にごめんね。私ずっと羨ましかった。
あの人から一途に愛されているあなたが。
だからってこんな事許されるはずもないのにね
あの日から二人はよそよそしくなっちゃって、、
本当にごめんなさい」
そう言ってまた従姉妹は涙ぐむ。
そうだったのか。やっと点と点が繋がった。
後ろではあいつが驚いた表情をしている。
さっきの発言から察するに、このことはあいつも知らなかったのだろう。
今更挽回できるとは思わないが、せめて私の気持ちだけでも言っておくべきだろうか。
それであいつが成仏できていないのなら尚更だ。
でもまずは、、、。
「正直に言ってくれてありがとう。当時の私は何が何だか分からないままあいつにきさ突き放されたように感じたから。やっと理由がわかってスッキリしたよ。、、でも私もあなたが羨ましかった。私があなたの立場だったら私もそうしてしまったかもしれない。だからこれはチャラということで。ね?」
本当にごめん。ありがとう。そう言い残して従姉妹帰っていった。
「、、、知らなかったとは言え、長年返事出来ずに申し訳なかったわね。でもあんたも悪いのよ?
私のことが好きなら諦めずに何度でも告白してきなさいよ。、、なんて私が言えたぎりじゃないけど。」
私は従姉妹とあいつが両思いなのだと思ってた。
だから邪魔しないようになんて考えてた。
「申し訳ない気持ちもあるし、ロミオとジュリエットのように心中してもいいけどどうする?」
「はっ!ごめんこうむるね、俺的には理由が知れただけでもう十分だわ。とっとと成仏して来世はお前の言う通り何万回も告白してやるよ。首を長くして待ってろよ」
「そっか、期待してる。、、、またね」
「またな」
星を追いかけた。
目に見える星を全部手に入れたくて必死だった。
「やーな!」
「あ!おはようたくちゃん」
これお袋から、そう言ってたくちゃんは大きなスイカを掲げた。
蝉の音がうるさく鳴り響く今日この頃。
夏休みに入ると言うのに若者は私たち二人しか見当たらない。
見渡す限り山と畑ばかりで、面白みが無いのが原因だと思う。
「もう若いのは私たちだけになちゃったね」
昔遊んでくれた近所のお兄ちゃんお姉ちゃんは都会に進学してしまった。
「そーだな。でも俺がいるじゃん」
たくちゃんはそうぶっきらぼうに言う。
いつも飄々として何考えているか分からないくせに。
たまにドキッとする言葉を言うたくちゃんがカッコ良くてなんだか負けた気がして嫌だ。
「そーだけどー」
「俺だけじゃ不満?」
「不満じゃないけど!!」
良かった。そう言ってたくちゃんは笑う。
(人の気も知らないで、調子のいいことばかり言って!!)
「どうした?」
「、、、なんでもない」
ガキだな。そう言ってまたたくちゃんは笑う。
その横顔を悔しいくらいにカッコイイ。
「お兄ちゃんお姉ちゃん元気にしてるかなー」
「年賀状も毎年届いてるし、元気なんじゃないか?
、、、ところでさ、やなは将来何になりたいのか決まってるのか?」
「、、、何?急に」
「急でもないだろ俺らもう3年生だぜ?そろそろこの村を出るか考えなきゃいけないんだ。」
「、、、たくちゃんは決まってるの?」
「うん、俺この村を出るよ。医者になりたいんだ。それで、、、」
あぁ、聞かなきゃ良かった。
そんな事を思ってしまった。
しっかり者のたくちゃんのことだからこの村から出ていってしまうことをある程度覚悟はしていた。
でも本人の口から聞いてしまうと現実味が増して余計悲しくなってしまう。
「、、、いつから?」
「幼い時から、、、俺のじいちゃん覚えてるか?」
「うん、昔一緒に遊んでくれたよね」
「そう、大好きだったんだ。物知りで、男気があって、尊敬してた。でもじいちゃんが倒れたあの日、俺何もできなかったんだよ。
ただ見てるだけでさ、皆は幼かったからしょうがないって言ってくれたけど、俺もっと早く気づいてたらまだじいちゃんはここにいたんじゃないかって思うんだ。
だからさ、勉強して医者になって大切な人を守れるような奴になりたいってそう思ったんだよ。」
そう言ってたくちゃんは前を向いた。
、、、カッコイイな。
たくちゃんはいつも自分の力で道を切り開いてる。
それに比べて私はダメだなぁ、、、。
人に任せてばかり自分の意思も主張できない。
こんな私がたくちゃんのそばにいたいと思うのも烏滸がましい。
「ごめん私用事思い出した!!ごめんたくちゃん帰るね!!」
「ちょ、おい!」
これ以上惨めになりたくなくて一刻も早くたくちゃんの傍から逃げ出したかった。
(叶うならずっと一緒になんて、馬鹿だなぁ私)
「おかえり、やな」
「ただいま!」
たくちゃんと別れて、家に帰ると、新聞を読むお父さんの姿と、台所に立つお母さんの姿があった。
お母さんは、パタパタとスリッパの音を鳴らしてお父さんの隣へ座ると、私も席に着くように促す。
「どうしたの?2人とも改まって」
お父さんは読んでいた新聞を置くと、真剣な眼差しで私に問う。
「もうすぐ3年生の夏休みに入ろうとしているだろ?
進路について話を聞いておきたいと思ってな」
「私は前にも言ったじゃん、高校は行かずにお父さんのお店を継ぐって」
「それは、若者の少ないこの村にとってはとても助かるかもしれないね。でも親として、娘をこの小さい村に縛っていたくないんだよ。
やなには、色々なものを見て考えて生きて欲しい。
そのための支援は惜しまないし、それをできるための準備もしてきた」
「でも、私は、、、」
「やなは本当はどうしたい?」
「わ、私は、、、」
2人は急かすこともせず、私を見守ってくれている。
きっと私の考えていることもお見通しなのだろう。
でも私が自分の意思で、自分の力で、生きてゆけるように私の続く言葉を待ってくれている。
「私は、、、進学したい。たくちゃんみたいな大層な夢がある訳でも秀でた才能がある訳でもないけど、
大切な人に胸を張って紹介して貰えるような立派な人
でありたいと思うの。そのために色々なものを見て知って学びたいと思うの。」
私が話終わるとお父さんは無言で通帳を差し出す。
それは私見た事も無い多くの金額が記入されていた。
この金額を貯めるのにどれだけかかったのだろう。
一朝一夕で手に入る金額じゃない。
「どうしたのこれ」
「準備をしていたって言ったろ?僕たちはやなの気持ちを尊重するよ」
きっと優しい両親のことだ。私がどう決断しようと応援してくれるのはわかっていた。
「頑張ってね」
そう言ってくれる両親に私は頭を下げた。
「やーな」
「たくちゃん!」
「聞いたよ、進学するんだってな」
「なんで知ってるの!?」
「俺のお袋の友達の2個隣の家の従兄弟の旦那の妹の息子の嫁の叔父の隣に住む花子の養子のまさやの娘から聞いた」
「お母さんの友達の2個隣の、、、なんだって??」
「フッ、あはは!!ごめん冗談だよ。本気にするとは思わなくて」
「もー!!たくちゃん!!」
「はー!面白い。ごめんって、でもやなの顔みたらすぐ分かるよ。なんか吹っ切れた顔してる」
「私、そんなわかりやすい?」
「まー、ずっと一緒にいるし大抵の事はわかるよ。」
見てて飽きないよ。そう言ってまたたくちゃんは笑う。
ひとしきり笑うと、たくちゃんは空を仰ぎながら呟いた。
「この村で過ごせるのもあと少しか、、、。きっとこれから色んな出会いがあって学びがあって、挫折があって。でもきっとその度に村の人の笑顔を思い出すよな。」
「そうだね、、、。
ねぇたくちゃん、私の事忘れないでね」
「何言ってんだよ、忘れたくても忘れられないよ。
、、、って言うか俺と同じ高校行かないつもり?」
「だって私とたくちゃんの成績があまりに違いすぎて、行きたくても行けないよ」
「じゃあ、これから毎日勉強だな。分からないところは教えるからさ。
、、、俺は昔も今も未来もずっとお前と一緒に過ごしていたいと思うよ。やなは?」
「私もそうありたいと願ってる。たくちゃんの隣に立っても恥ずかしくないような立派な女性になって見せるんだから」
「今も十分、、、」
「どうしたの?」
「なんでもない!帰るぞ」
「待ってたくちゃん!」