新生活を迎えるために、この街を出ることになった。
「早いとこ荷物をまとめなきゃ、これは捨てて、これは持ってって、、、、なにあれ?宝物ボックス?」
余程大事にしてあったのだろう。
それは普段目につかない場所にあった。
「懐かしいなー、」
ボックスを手に取りそっと蓋を開ける。
中には幼少期の頃大事にしていたおもちゃと1枚の便箋が入っていた。
手紙を開くと、拙いひらがなで“ぼくとけっこんしてください”と言う1文。
子供らしいなと思いながら。クスッと笑った。
どうやらこのことだったらしい。
「おーい、準備できたか?」
下から、荷運びを手伝ってくれている幼なじみの声が聞こえた。
私は懐かしい便箋を握りしめ幼なじみの元へ駆けていく。
「プロポーズは2回目だってこのことだったのね」
私がそう言うと、驚いた顔をしながら
「、、、やっと思い出したか」
と彼は笑った。
青い青い空が僕を呼んでいる。
ふーっと吐いた息は白く天に昇って消えてしまう
まるで引き寄せられるかのように。
「ねぇ、お兄ちゃん呼んでるよ」
女の子が空を指さし僕に目をやる。
僕は思いつく限りの笑顔を作り少女に向き直った。
「そうだね、呼んでいるね。でもね、まだ行けないんだ。やり残したことがあるからね」
そう言うと少女はきょとんと不思議そうな顔をする。
しばらく考え込んだ後そっか。と一言呟いた。
「あなた、もうすぐ1年が経つのよあっという間ね」
「うん、そうだね」
「私頑張ってたのよ」
「うん、知ってる。君は皆に心配をかけまいとしてくれていたね」
「、、、ねぇ、帰ってきてよ!!」
「、、、ごめんね」
「私も一緒に、、、」
「ごめんね、辛い思いをさせてしまったね。
でもね、君にはずっと生きて笑っていて欲しい。たとえ僕が居なくても、、、
いつも君の幸せを願っているよ」
「、、、あなた?」
「お兄ちゃんもう行っちゃうの?」
「うん、そろそろ行かなくちゃ」
「そっか、寂しくなるね」
「大丈夫、上に行くだけさ。空からみんなのこと見守ってるよ」
「何それ、プライバシーの侵害!」
「はは、手厳しいな」
「なんてね冗談よ、お父さん」
「、、、気づいてたのか」
「お母さんを傷つけた仕返し」
「そうだね、それは仕返しされても文句は言えないな」
「じゃあね」
「うん、お母さんによろしく」
少女は必死に泣き顔を見せまいとしているようだった。
明るく空が光ったかと思うと。お父さんの姿は無くなっていた。
残るはどこまでも青い空だけ。
「帰ろ!お母さんが心配しちゃう。それにお父さんも!」
お父さんがどこかで微笑んでいる気がした。
青い青い空の上で
君と過ごしたあの日々が僕の頭から消えてくれない。
可愛い、綺麗、好きだよ、愛してる。
毎回決まった常套句を繰り返して嘘を囁いて悦ばせて。
ああ、なんてくだらねー人生なんだろう。
他の男が僕を羨望の眼差しで見ようと特別嬉しいとも感じなかった。
僕が求めているのはそんなものじゃない。
愛が愛を忘れさせてくれる。そう思っていたのに。
頭の中でこのままではいけないと木霊するばかりで。
君が薄れていく気配すらない。
思ってもいない甘い言葉で女を誘い傷を埋めるそれで上手くいっていたはずなのに。
ふとした時にどうしても君の振り向きざまの笑顔が浮かんで、忘れさせてくれない。
もう出て来んなよ!
勝手に去ってしまったくせに!
どこからか君の寂しそうな声が聞こえる。
ごめんね、私の事なんか忘れてね
それが君が死ぬ前に残した最期の言葉だと思いだす。
忘れろなんて簡単に言うなよ
いくら他の子で満たそうとしても満たされない。
そのせいで君に心配をかけているようじゃ世話ないな。
本当はわかっている他の人を利用して君を忘れようとしてるってことも、
もう君以外愛せないということも。
はは、ならもういっそ諦めて君一筋になってみるか。
渡し忘れた指輪を君の墓に添える。
散々使い回した常套句もいざ君に言うと思うと照れてなかなか出てこない。
やっと呟いた小さな好きだよに、
君がバカと呟いた気がした。
昔おばあちゃんが言っていた。
ーーの手紙は今を超えて相手に届くって。
この手紙を手にした時ふと思い出した。
あの時祖母はなんて言ってたんだっけ。
祖母が亡くなってしばらく経ち、思い出も風化してしまった。
なのに何故だろう。この手紙は初めて見た気がしない。
今どき手紙でなんてやり取りする人はそうそういないのに。一体どこで、、、
封を開けるとなんだか懐かしい香りがした。
香りは鼻を優しく、くすぐり思い出を引き出す。
、、、あぁ、そうだったな。
手紙には何も書かれていなかった。
ただ思い出が僕に語りかける。
自問自答を繰り返した日々が僕の背を押す。
ずっと見守ってくれていたんだね。
上を向くと暖かい日差しが僕を包み込んでくれた。
思い出した。今までも何もかもを。
きっとこの手紙過去も未来も超えて巡り巡ってここへ来たんだね
僕もきっと手紙を出すよ。
いつか時を超えて貴方に届くと信じて。
手紙の行方
「この人がやったんだ!」
静かな教室に僕の声がこだました。
沈黙が続いたかと思うと。
ガラの悪いやつが机を蹴る。
「何言ってんだてめぇ!!」
「ヒィッ」
怯むな負けるものか。今日こそは言ってやる。
僕は震える拳を握り直して、キッと前を向いて言った。
「ぼ、僕は知っている。幸村くんが誰よりも朝早く来て、金魚に餌をやっていることを、みんなが寒さに凍えないように毎日ヒーターを焚いておいてくれていることを。たっ、確かに口が悪いかもしれない。誤解されやすいかもしれない。でも彼は彼なんだ。1面だけで彼を知った気になって悪口を言うのは辞めてくれ!」
、、、何あれ、イキっててださ
先程まで静かだった教室が嘘のように、みんなが僕に後ろ指を指す。
針のむしろとはこのようなことを言うのだろう。
、、、でもスッキリした。ようやく言ってやった。
後悔はない。
でも、やっぱり変えられないんだ、悔しいな。
俯いていると、後ろからおい、と声をかけられた。
恐る恐る、後ろを見ると、そこには幸村くんの姿があった。
「ありがとよ」
そう言うとガラの悪いヤツ元言い幸村くんは、少し照れくさそうに鼻をかいて笑った。
小さな勇気