ハイファイ

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9/21/2025, 9:22:55 AM

『既読がつかないメッセージ』

特有の着信音を鳴らしてメッセージが届いた。内容は課題締め切り日の確認。これはどうでもいい。
またメッセージが届いた。内容は投稿した写真への賛辞。これもどうでもいい。

これまでのメッセージやり取りを見返す。特に問題はない。新たに気になる要素もない。

複数のメッセージに目を通していく。その中で気になるメッセージを見つけた。内容はプライベートなお誘い。最近注意していた相手からのものだった。

これは危ない。メッセージ消去。相手をブロック。連絡先の削除。相手と連絡がつかないように指を画面に滑らせる。

ひとまずはこれで良し。相手からのメッセージはなかったことになり、関係性に変化はない。

あの人と仲良くなるのは私だけでいいの。

9/11/2025, 2:47:04 AM

『フィルター』

今考えると、今日の様子はおかしかったのだ。

表情は暗くて視線は合わない。何を問いても「大丈夫」の一辺倒だが妙に落ち着きがない。
その他にも普段の様子とは違う点はあったのだろう。

先ほど殴られた右足は動くたびに痛みを増している。折れた骨を無理に動かしている痛みだ。

視線を相手に向ける。口元は小さく動き、途切れ途切れに「みんなそう言う」「私がやるの」とまとまりのない言葉が聞こえる。

ゆらりゆらりと相手が近づき、手に持たれた金属バットとの距離が縮められていく。
頭の中が恐怖で染まると同時に一抹の罪悪感が湧いた。
「辛かったのに気づけなくてごめんね、あんたの姉になれて楽しかったよ」

掲げられた金属バットが振り落とされた。

9/3/2025, 4:37:37 PM

『secret love』

やってしまった、と思った。
仕事でミスをした。自分の確認不足だった。
幸い、早期に気づいて大事にはならなかった。
「次からは気を付けて」
ある程度の注意を受け、助けてくださった先輩はそう言って、自身の仕事へと戻っていった。

その背中を見ていた時だ。
『どうしてお前はこんなこともできない』
頭の中で声がして徐々に視界が滲んできた。耐えきれなくなった目の縁はいくつか水滴を落とした。

急ぎトイレへと向かい、鏡を見る。
鏡には涙を溜めて痛々しそうな表情の自分が映った。

『どうしてお前はこんなこともできない。役立たずとはお前のこと、いっそ死んだ方が周囲も助かるだろう』
『こんなことで泣くなんて、お前は惨めで可哀想だな』
『だが、私だけが可哀想なお前を憐れんで慰めてやる。ほら、もっと惨めで可哀想になってごらんよ』
そう呟いて、鏡に映った私は微笑んでみせた。



8/28/2025, 3:26:22 PM

『ここにある』

「お使いになる薬には副作用があります」
処方箋を受け取った時に言われた言葉だ。副作用を確認すると、頭痛や不眠などのありきたりなものだった。

薬を内服して3ヶ月が経った。自覚はないが、効果は出ているらしい。多くの人から「雰囲気が変わった」「前より頼もしいよ」「頑張りすぎないでね」等の言葉をもらった。
けれど、胸にぽかりと穴が空いていた。薬を飲み始めてから、自分の個性を見つけられなくなったのだ。今も「自分」が穴から流れ落ちる。 

貼り付けが上手くなった笑顔の裏で、残っている「自分」のカウントダウンを始めた。

8/27/2025, 10:48:33 AM

『素足のままで』

足裏が温かい。砂には日中に吸った熱が残っている。足首を撫でている波は冷たくて、規則的な音を響かせる。

足を進めると波は膝まで飲み込んだ。波が押し寄せるたびに抵抗が大きくなって、立つだけでも少し力が要る。

時期に腰まで波が届いた。少し肌寒いような気がする。

胸も沈み、肩に波がぶつかるようになった。顔にも海水がかかり、塩辛い味がする。足下は見えなくなった。

とぷん、と静かに音が鳴ったのを最後に、自分は海の住人になった。

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