冷瑞葵

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7/30/2025, 9:35:00 AM

タイミング

 タイミングと言えば、昔から思っていることがある。
 私はコミュニケーションにもタイミングというのがあると思う。それは単に話しかけるタイミングのことではなくて。
 例えば、3日前に言われた言葉を今日他の人に言われたら簡単に受け入れられたり。全く響かなかった名言がある日突然心の奥まで浸透してきたり。友人が勧めてきたアニメに数年後興味が湧いたり。
 これらは必ずしも相手を軽んじている(あるいは高く評価している)ことに起因するわけではなくて、全てはタイミングなのだと私は思っている。
 受け取り手側にもタイミングがある。心の準備が整ったとき、はじめてコミュニケーションが成立する。
 だから私は、自分が伝える側に立つときは「これは今すぐに理解させるためのものではなく、いつか来るそのときのために材料として伝えるのだ」と意識している。「だから言ったのに!」なんてもちろん禁句だ。

 書いていて思ったけれど、この発想は転生モノに活かせるだろうか。
 主人公は、転生前の話を与太話として聞いていた。馬鹿げた話を考える人もいるものだな、と。しかしそんな主人公はある日、前触れもなく自身の前世の存在を現実のものとして強く認識する――。
 いや、これはマジョリティと変わらないな。大抵の作品でも「あるとき突然前世の記憶に目覚めた」と説明されている印象だ。
 むしろ転生ではなく、長命種の話なら……と思ったけれど、これも既にあるか。有名作品の二番煎じになってしまう。
 伝える側の物語ならどうだろう。長い時間をかけて多くの人に言葉を送り、機が熟した瞬間に世界中の人が主人公の思想を理解する。精神レベルの世界征服の物語。面白くするのは難易度高そうだな。

 自分の考えを作品に落とし込むって難しい。これも一種のタイミングなのだろうか。適切なときにアイデアが降ってくるようになっているのだろうか。
 今回のこれは材料として残しておこう。いつか来るタイミングで今日の思考も全て自分のものにするため。

7/28/2025, 10:07:38 PM

虹のはじまりを探して

 雨上がりに光の反射で空に浮かび上がる、カラフルなアーチ状の現象。
 それは大抵の場合長くはもたず、時間の経過とともに薄くなり、やがて消えていく。その儚さにこそ人々は惹かれるのだろう。
 困る。大変困る。一度現れた虹は二度とは現れない。似たものはあっても同じものはない。一度消えたらそれで終いだ。困る。
 僕が出会ったのは恐ろしくデカい虹だった。海の向こうにまで届くんじゃなかろうかというくらい、荘厳で威圧感のある虹だった。別に近づきたくて近づいたわけじゃない。雨上がりに上を見上げたらそれがあった。普通の虹ではないと直感的に悟った。
 次の瞬間には体が浮く感覚を覚えた。歩こうとしたら地面がなくなっていた。驚いた。そりゃあ驚いたさ。
 手持ちのカバンを唯一拠り所として抱きしめて、空中で歩こうと藻掻いた。水滴に反射した光が目に眩しかった。僕は虹に吸い込まれていた。
 正直に言って、死んだんだと思った。虹の橋を渡るという表現があるが、あれは正しかったんだなぁなどと思ったものだ。
 しかし僕にはまだ体温がある。見知らぬ土地で、夜空の下で呆然と立ち尽くしている。
 ――つまり、なんだ。にわかには信じがたい話だが、あの虹は多分ワープホールだった。
 僕は虹の始点から終点までひとっ飛びに移動してしまった。
 暗闇の中でぼんやりと照らされている看板には見知らぬ言語が書かれている。一瞬本当に天国かと思ったけれど、GPSはしっかり機能して僕の位置を指し示していた。だだっ広い平野の真ん中に青い丸がぽつんと光っている。
 公共交通機関は、徒歩で行けるような場所にはなさそうだ。見たところ家もないし当然人も歩いていない。朝になれば誰か来てくれるだろうか。
 なんか――もう、わかんないな。これからどうしよう。
 帰る手段は何かあるだろうか。一番に思いつくのは来た道――否、虹を戻ることなのだけれど、虹のはじまりが見当たらない。真夜中に虹が残るはずもないか。困った。
 日が昇ったらまた虹のはじまりを探して、地元まで連れて帰ってもらおう。どうか別の場所に連れて行かれませんように。
 あぁ、今晩のうちに雨が降ることも願わなきゃいけないのか。まったく、恨むよ。雨降ってくれよ。

7/25/2025, 11:11:42 PM

半袖

 半袖、ねぇ……。
 言わずもがな、半袖は夏の必需品だ。どんなに薄い生地だろうが、長袖で夏空の下なんか歩いたら動くサウナになってしまう。
 でも地味に半袖って面倒くさい。ムダ毛処理しないとボーボーの毛を見せびらかすことになるし、脇毛も剃らないと手を上げたときに飛び出ちゃうし、半袖のユニフォームを羽織ったときには袖がチラ見えしてダサい重ね着になってしまう。
 もちろん日焼け止めも必須。日焼け止めをサボって半袖で海に出かけた日なんか、次の日には肌に白Tが彫り込まれてる。
 えー、それで、半袖に関する物語の設定を考えようか?
 難しいな。そもそも半袖というものをテーマにしようなんて思ったことがない。これぞお題小説の醍醐味と言うべきか。
 そうだな、例えば、見た目が様々な宇宙人が共生する世界で、生まれつき白Tを着ているような毛色の個体が……。
 いや、それとも、季節外れの半袖で……。何か半袖がきっかけになって運命の出会いが……。
 ……今の私には無理だ。面白そうな設定が思いつかない。精進します。今日はこんなところで。

7/8/2025, 4:23:38 AM

願い事

 シンプルなお題だからこそ、なかなかいい案が思い浮かばない。
 ……って、毎回言ってるかな。「お題を見た瞬間に面白いアイデアが浮かんできた!」って言えるときなんて全然ない気がする。
 ならば「もっと良いアイデアが浮かぶようになりますように」とか「もっと面白いお話をたくさん書けますように」が私の願い事になるかと言われると、それも違う。そりゃ願ってはいるけれど、星に叶えてほしい願いではないのだ。
 昔はたくさん願い事があった。大抵は「〇〇になりたい」という子供らしい願いだった。いつしか、世界平和とか健康ばかり願うようになった。もはやそれらを願うことすら無駄だと思うようになった。
 自分の願いは自分で叶えたい、と言えば聞こえはいいけれど、残念ながら私にそれを実現させるほどの意欲はない。星に願ったって無駄、自分で叶えるしかないがそれも不可能、だから全て諦めよう……という、なんとも悲しい結論に落ち着きそうになっている。
 あーあ。願い事って何なんだろうな。願う先に人類は一体何を見ているのだろうか。
 子供の頃、「完全に相手任せだと向こうも願いを叶える気なくなるから、自分でも頑張りますって伝えるんだよ」って親に言われたっけ。他力本願で望みを叶えたいから人は願い事をするんじゃないのか、と子供ながらに思ったものだ。他力本願でいられないなら、願うことに意味なんかないじゃないか。
 仮に、本当に願いを受け取ってくれる上位の存在が居たとして、その人は何を思うのだろうか。私だったら人々の悩みを微笑ましいと笑いながら静観しているな。本当に頑張っていて、その上でどうしようもない状況に陥ってる人には少しくらい手を貸すかもしれないけれど。多分私のイメージする「上位の存在」から見て、私は助ける対象ではない。
 じゃあ、「上位の存在」が助けなきゃって思うほどの不幸には落ちないでいたいな、と温室育ちの平和ボケみたいな望みを片手間で願っておこう。ついでに、不幸に落ちたときは助けてくださいっていうのも願ってみよう。
 こんな罰当たりな人間もいつか救ってくれるのなら、願い事とやらの価値を私はようやく認められるでしょう。今はまだそのときじゃないや。

7/3/2025, 3:06:55 PM

遠くへ行きたい

 遠くへ行きたいと願った経験はある。でもあれは、正確に言うならば遠くに行きたかったのではなく"ここ"に居たくなかった。
 実際宛もなく電車に揺られて2つ隣の県に行ったこともある。計画を立てずに家を出てしまって、真夜中にトボトボと歩いて帰ってきたこともある。
 それらで満足したかと言えば必ずしもそうではない。時間を浪費したという自己嫌悪と、知らない土地に立つ不安と、ほんの少しの解放感で、私はうまく笑えなかった。けれども他にこの欲求を満たす方法が分からなくて、私は何度かこの無味な日帰り旅行を繰り返していた。
 思うに、この衝動を落ち着かせるのに本当に有用なのは外出そのものではなく非日常だった。私はこの結論に辿り着くまでに少し時間が掛かった。
 家で何の刺激もなく同じ日々を繰り返している、そのルーティンからほんの少しはみ出れば充分だった。家の中で足踏みをするとか、手近な店に行って買い物をするとか、多分そんなことでよかった。そんなお手軽な行動はできないくせに、無計画に遠くまで行くことはできてしまっていた。
 「遠くへ行きたい」、その欲求の裏には、自暴自棄も多かれ少なかれ混じっている。きっと私を遠くまで連れて行ったのは自分を蔑ろにするこの感情だった。
 今は当時ほど遠くへ行きたいと思わない。同時に、自暴自棄な感情も薄れている。
 それらは嬉しいことなのだけれど、たまにはまた遠くまで連れて行ってくれてもいいのにな、と少し思う。可能ならちゃんと計画を立てて、無理のない範囲の遠方へ。"ここ"での生活に満足してたって、たまには遠くに憧れる。

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