秋の訪れ
あいつは、来る。俺は信じている。
約束の時間から1時間、1日、1週間……。そして1ヶ月経ってもあいつは姿を見せなかった。それでもあいつは来る。きっと来る。
思えば昔からよくわからないやつだった。寡黙で目立たず、いつもボーっと空を見上げているようなやつだ。でも俺たちは知っている。あいつは本当はすごいやつなんだ。何をやらせても一流で、あいつがいるだけで場の雰囲気が軽くなる。みんなあいつに苛立っているけど、同時にあいつを信頼している。
毎回涼しい顔で遅れてやってきて「後は任せて」と微笑んでくる。あの不敵な笑みが俺の心を射抜く。伏し目がちな妖艶な眼差しも、薄い唇からこぼれる「おつかれ」の言葉も生きる芸術品のように人々の心を穿ち、治らない痕として残り続ける。認めよう。俺もあいつに魅了されている。
だから耐える。いつまででも。あいつが輝ける場所は俺が守る。好きなだけ遅れてこいよ。俺は大丈夫だから。
――結局あいつが来たのは予定の1ヶ月半後だった。
あいつはやはり伏し目がちに笑って言う。「お待たせ。もういいよ。後はやるから」と。はは、やっぱカッコいいな。
俺は待機場に戻っていく。久しぶりに足を踏み出して、ようやく自分の疲労に気づく。体が重い。予定の2倍近く働いたんだ、当たり前か。
そのとき、目の前から見慣れない顔が近づいてきた。あれは、あいつだ。"冬"だ。
「おつかれ。ついさっき秋と代わったばっかだけど」
「あぁ、うん。でもそろそろ僕のシフトだから……」
首をかしげ、頭をかきながら歩いていく猫背の背中。それが自分の疲労と重なって、もう少し秋に遅刻グセを直してもらうよう進言しようと思った。
10/2/2025, 4:34:46 AM