暗がりの中で
あとで書くぜ
紅茶の香り
ぐつぐつぐつ 湯を沸かして
ぽとぽとぽと 紅茶をいれる
カチャカチャカチャ お菓子も運んで
くんくんくん いい香り
とたとたとた 席について
もぐもぐもぐ いただきます
『おやつだよ』
愛言葉
家の奥のその部屋からはいつも煙草の匂いが充満していた。ノックもせずに不躾にがらがらと扉を開ける。買い物袋をドサッとその辺の机に置いた。煙のせいか元は白色であろう壁は黄色に変色していた。この部屋では、どんな物や生命でもその輝きを鈍色に変える。煙をあまり吸い込まないようにぱたぱたと手で扇ぐ。今更こんなことやっても仕方ないが何となく気分だった。
「やあ、頼んだものは買えたかな」
部屋の主は、私の不機嫌そうな顔に目もくれず微笑みを投げた。私が目線で煙草と告げると、ごめんごめんといって煙草を灰皿で擦り付けて火を消した。
「煙草、健康に悪いですよ」
「ああ、そうだね」
手で後頭部をぽりぽりとかく様子はいかにもどうでも良さそうだった。いや、本当にどうでもいいと思っているだろう。この人、私が先生と呼ぶ人物は、自身の命にまるで執着がなかった。私はため息を着きながら、煙草と龍角散を先生に差し出した。
「早死にしないでくださいよ」
「ふふ、どうかな」
意図も簡単に交わされる死の文言。これが私たちを繋ぐ合言葉のようなものだった。
『灰の中から』
鋭い眼差し
まずい、と思った。彼が私の地雷を踏みぬくのは予想できたはずなのに、いざそうなると感情的になってしまい、後は己が体に任せるままになってしまった。立ち上がって彼を見下ろす私は直ぐに何か言わなければと思ったが、彼が先に口を開いた。
「悪かった、もうこの話はやめよう」
そう言うと直ぐに立ち上がり、彼は部屋に戻ってしまった。
このような点が私と彼を決定的に分けていた。私は特にどうすることもなく、立ったまま彼が去った姿を目で追った。
『先生と私』
涙の理由
「もうっ!ふざけんなよ!」
声にならない泣き声をあげながら、手近なものを次々と投げては感情を爆発させていた。そこそこの年齢の大人が物を投げながら、暴れまわっているなんて見苦しいにも程があるが、こうでもしないとやっていられないのだ。
ひとしきり暴れたあと、倒れていた椅子を直しそこに座った。乱れた呼吸を無様に整えながら床を見つめていた。静かになると、いろんな考えや羞恥や罪悪感が沈黙を埋めるように、押し寄せてきて思わず頭を抱えたくなるが、やめた。もうすっかり疲れきっていたので、寝ることにした。これじゃ子供だと言われても仕方ないだろう。
もうどうにもならない事だと分かっているのに、いつも泣いてしまう。本当にもう取り返しがつかないのに。
『狂人』