私には人にはみえない何かが見えている。いつも背後には刀を持った三十後半の男がいる。何でいるのかと聞いたら「さぁな俺にもわからん」と答える。本当に刀なのかと聞くと錆びついた刀を抜く。刃こぼれが酷くまともなものなど斬れなそうな頼りない刀だった。
その男とは10年ぐらいずっといる。もう少しで中学校に上がる私はある噂で竦み上がっていた。
それは中学校には例によって例の如く七不思議があってそんな幽霊たちが「見えてしまう」私にとって悪夢以外の何物でもないのだ。だがそんな私の願いは神に届かずやはり霊はいた。けれどこちら側を攻撃してくる様子はない。だがただ一つの異様な殺気を放つ黒マントの男を除いて。男は授業中、後ろでずっとこちらを見つめてくる。鏡の反射で見るとその見ている方向を睨みつけてくるのだ。怖くなって前をずっと見ていたある日急に男が笑いながら鎌を振り上げて私に斬りつけてきた。間一髪でかわすと死の鬼ごっこが始まった。それを続けて一刻。刀の男が私の前に立った。だがいつものヘラヘラした顔と違ってなにかを決した様に真剣な顔で男を睨みつけていた。そして刀を抜いた。いつものボロボロの錆びついた刀ではない。
たった今研ぎ澄まされたかの様な美しい直刃がそこにはあった。そして一気に男の間合いへ詰めると
豪!!
力強い一太刀で男を斬り裂いてしまった。だが刀の男の様子がおかしい。急に姿が透け始めたのだ。私はびっくりして彼に聞くと彼は悟った様な顔で
「やっぱり霊力が持たなかった」といった。
問い詰めると刀の男はかの名剣童子切の化身なんだそう。だが数百年、存在を維持するための霊力により刀に使う霊力が無くなっていた。でもさっきの戦いで無理矢理霊力を込めたため消えてしまうらしい。
何で助けてくれたのか聞くと「お前だけが俺を切るための剣として見てくれたそれだけだ」そう答えて消えてしまった。彼がいた所には一本の錆びついたでも懐かしい刀があった。私は彼にーーー。
お題「いつまでも、いっしょに」
この物語はフィクションです。
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昔から冒険に憧れていた。息が詰まる様なコンクリートジャングルにとらわれないで大海の中を自由気ままに動き見たことのない美しいものを見に行くのだ。
そう思って今僕たちはここに居る。サファイアの様な美しい海を渡るのは艶々と輝く黒漆の海賊船。
燦々と輝く太陽の下で僕たちは一日だけの冒険をした。小学校6年生の夏休み前日、重たい荷物を背負いながら気を紛らわすため親友である彼(ここでは彼と呼ぶが名前はちゃんとある)と話していた。朝ごはんはパン派かご飯派かやたけのこの里とキノコの里どっちがいいかなどのくだらない話題で馬鹿笑いしていた。
話のネタも無くなって石蹴りをしていると黒いボロボロのローブをきた怪しげな婆さんに当たってしまった。最初はその浮ついた雰囲気に唖然としてしまったがすぐに謝ると老婆はキヒヒと笑うと小さな船のストラップを渡してから「これは海賊になることができる魔法の船です。でも夕日が沈む頃に沈んでしまいます。使い方は簡単。水に浮かせるだけです。ああ、お金は入りません。それでは」と早口で怪しげな雰囲気を醸し出しながらフッと幻影の様に消えてしまった。
そして今に至るわけだ。船の中にはご丁寧に宝の地図がありそこに今向かっているわけだ。そろそろ島が見えてくる時に、大砲の音が聞こえた。その方向を向くとそこには僕らと同じような船。つまり海賊船があった。船長はジョン・シルバーと名乗った。
船を奪うという彼はマスケット銃とレイピアを取り出した。僕は衣装にあったカトラスと拳銃を持って戦った。どうしてだろう。カトラスも拳銃も握ったことのないのに導かれる様に使うことができる。レイピアが来るところを弾く。好きができたところに
ーーーーーーーーーーー『閃』ーーーーーーーーーー
ジョン・シルバーは斃れた。殺しても何も情は湧かなかった。このコートのおかげかも知れない。或いはここが幻だからかも知れない。けどとにかく島にたどり着いて僕らは宝を手に入れた。一つのコインをポケットに仕舞い込んで宝箱を開けると眩い光が溢れて海岸に帰ってきた。夕日が沈んだ。すると船と宝島はアトランティスのように海底に沈んでいった。
このことは幻ではない。そう確信できるのはあの日ポケットに入れたコインだった。
お題沈む夕日
この物語はフィクションです。
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雪の激しかった冬、僕は人を殺した。死体を触ると徐々に冷たなっていくのがわかる。喉元を切った時のあの血飛沫は美しくて忘れられない。僕が人を殺したのはただ一つ。人の、彼女の絶望した姿が見たいからだ。既に事切れた死体の傷口をぐりぐり抉っていると彼女が帰ってきた。逃げるつもりはないがその方が面白いかなと思って隠れてみた。彼女を観察するとまず出迎えがないのを疑問に思う。リビングに進み大の字になってナイフに滅多刺しにされて死んでいる母を見る。気が動転する。そして壊れた様に泣き出す。その様を見てると凄く幸せになった。頃合いかなと思って出てみると案の定彼女は酷く怯えていた。少しずつ近づいていくと彼女も少しずつ狂気へ近づいていく。一歩進むと顔が凍りついた。二歩進むと突然笑いました。三歩進むと目が虚になって四歩進むと包丁を持ち始めた。五歩進むと突進してきて僕は刺された。
その時に僕が見た彼女の目は憎悪と殺意に塗りつぶされていた。その目は今まで見てきたどんな目よりも美しく気高かった。
お題君の目を見つめると
この物語はフィクションです。
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深い闇の様な夜に煌々と輝く星を見ているとあの日を思い出す。彗星と共に現れて去っていった君との一秒間の思い出を。蝉が煩く鳴いている社会人生一年目の夏、私は夜空の中で名もなき彗星を見た。彗星を見ていると徐々に私の方に近づいていることに気づき焦って逃げようとすると彗星は消えて君だけがいた。
星の夜空から落ちてきた君はまるで本物の星の王子さまに見えた。私が呆けていると君は笑って優しく手を取ってくれた。空をかけて星空を間近で見してくれた。共に笑い合い幸せを分かち合った。ひとしきり話が終わると君はそろそろ立ち去らねばならないと言った。彗星の君が近づいた事で特殊相対性理論の時間のズレが起きて君と私だけが一秒の世界で動いたという。でもそろそろ彗星の君が去ってしまうらしい。
最後に君は言った。
「僕にも昔は名前があったんだ。けれど時が経つにつれ忘れられ誰にも知られない名もなき彗星になったんだ。100年経って僕は付喪神になった僕はそれに気づいて誰かに知って欲しかった。それが君だった。最後に君に会えてよかった。僕はもう数万年はこの地球の軌道にのることはないから」
君は寂しげに笑った。そんな君を見ていると私も寂しくなった。だから私は毎夜、星空で探す。私だけが知っている彗星の王子さまを。
この物語はフィクションです。
お題星空の下で
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全てが闇に包まれている様な暗い夜、私は1人の死神と対峙していた。髑髏の仮面と黒い襤褸そして大きな鎌を持った死神は血に染まっていた。先に誰か1人を殺したらしい。今思えば無気力な人生だった。大した夢もなく未来もなく趣味さえ見つからなかった人生。今死んでもいいかもな。そう思いさえした。でもいつまで経っても死神の刃は私の首にふれることはなかった。
白い手袋に覆われた指先でクイックイッと指を曲げて挑発してきた。抵抗するつもりはなかったが、まあせっかくだし足掻いてみようかと死神に投げ捨てられたナイフを手に取り戦った。死神はわたしの首を最初に狙ってきたので屈んで避け体のバネを使って死神の喉笛を掻き切った。あっさり倒せるもんだなと思った。すると仮面から血が溢れて割れた。
仮面の中にいたのは昔馴染みの少女だった。彼女は仮面が割れたのに驚いた後、フッと笑って何かを呟いた。確かその昔馴染みは後数ヶ月で死んでしまう様な風前の灯火にあった。もしかしたら彼女は余命幾許もない命で私の命を繋ぎ止めてくれたのかも知れない。私はもう少しこの世界で頑張って生きてみようかと思った。そして最後の彼女の言葉はいったいなんだったんだろう。
「それでいい」お題
この物語はフィクションです。
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