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3/26/2024, 10:55:22 AM

嗚呼今日も土砂降りか。この世とは誠につまらぬものである。どこまで行ったって全て生まれ持ったもので人生がおおよそ決まってしまう。私などが具体例だ。私は生まれた頃から足が両方なかった。両親はそんな私をみるたびに胸が締め付けられているような表情をしていた。でも当時の私は幼く外を見ていなかったので自分が悪い方で特別な人間だと夢にも思っていなかった。そして不便だとは感じるが別に腕で引きずって動けば家の中を徘徊できる。だから私は歩くや走るといった行動にあまり羨ましがっていなかった。けれど年月が経ち初めて外へ出なければならない時に痛感した。なるほど確かに外へ出るには私の体だと無理だった。這いずろうとすれば服は破けどろんこになるし変質者のような目を向けられることだろう。だから親に抱かれて幼稚園に登校する時も周りから哀れみの目線や奇異の視線を感じてまるで自分がサーカスのピエロになったかのようであった。小学校に上がると祖父が入学祝いとして一台の車椅子を買ってもらった。その車椅子はとても使いやすく持ち手はよく手に馴染んだ。小学校では予想した通り変わった物を見る視線を向けられた。さらにいじめまで受けた。教師も無視する始末。結局教育委員会まで事件として届くまでの大ごととなってしまった。いじめグループ全員が粛清されると他の人は私を恐れたのか誰も近寄ってこなくなった。そんな状況が中高大と続きもう嫌だ。と思った。成人式を終えて私は小学校から使っている車椅子に乗ってそのまま成人式の帰りの電車に轢かれようとした。でもダメだった。黄色いブロックのタイルの凸凹のせいで死に直面した時の特有の脱力感のせいで進むことはできなかった。結局家に帰ってきてしまった。少しの喪失感に襲われながら食べた飯の味は今でも忘れられない。性懲りも無くまた自殺しよう。そう思いながらテレビをつけるとそこには義手や義足についての特集があった。我ながらハッとした。そうだ。ないなら自分で創ればいいじゃないかと思った。私は人より頭一つ飛び抜けて勉強ができたのでその脳を使ってもう一度大学を入り直し開発者になった。こうして私の戦いは続いている。あの時のないものねだりを可能にする。そう思うと胸が熱くなった。
この物語はフィクションです。
お題ないものねだり
ここまで読んでくださってありがとうございます!!

3/26/2024, 2:35:57 AM

昔から絵が上手だった。小中高大と私よりも絵が上手い人はいなかった。だからなのか私をみんまでおだて始めた。体育祭も文化祭も全部私が絵を描くことになっていた。
才能がある人は一握りだが強制的に描かされる中で楽しめる人はほんの一握りだ。私は絵の才能はあるけれど楽しめることはできなかった。だから絵を次第に描くことが苦痛になってきた。でも周りは私のことは微塵も気にしないで絵の才能だけを見ている。
私を真に理解している人など一体何人いるだろう。両親すら分かってないかもしれない。ずっと昔から友達だった親友ですら分かってないかもしれない。或いは私だって分からないかもしれない。そんな思いがぐるぐると心を駆け巡る中で大学の大会用の絵を描いた。
絵を描くことなんてもう嫌だ。自由になりたい。別の新天地へ行きたい。希望を持ちたい。そう願った。
皮肉にも自分が一番嫌悪している絵に込めた。その絵の燕は青空へ向かっていた。
この物語はフィクションです。
お題好きじゃないのに
ここまで読んでくださってありがとうございます!!

3/24/2024, 4:15:26 AM

生まれたときから持て囃された。一歳になる前に読み書き全般と走れるようになっていた。辺鄙なところだったからすぐにそのことは伝わった。麒麟児だとか街始まってからの才児だとか言われた。小学校に上がるまでは少し天狗になっていた。
だが小学校に入学すると何も考えずに自分を褒め称えた取り巻きたちが自分を遠ざけ始めた。何故かと理由を聞くと「何でもできてしまうから、勝負にならないと言われた。」
そういうものかと思いその取り巻きたちと関わる事をやめた。そうして小学校を卒業して小学校の同期と遭遇するのが嫌だったから遠く離れた名門中学に入った。思春期に入ったからか今まで遠ざけられていただけだったのに陰湿な嫌がらせへと変貌した。相手にするのも馬鹿馬鹿しかったので無視した。同じような繰り返しでどんなエリートでも結局は人間なんだなと実感できた学生時代だった。
社会に出ると最初は業績をバンバン出してもの凄い勢いで出世していったが自分を妬む人の手によって社会の不適合者として追い出されてしまった。
そうしてみすぼらしく生活して目立たない人生を歩んだ男が私だよ。そうキセルを吹かせながら老人は言った。その後に「いいか?少年、特別と異質は紙一重なのだよ」と俺に言ってきた。そう人生の苦痛を刻んだ彼の皺と見上げている彼の瞳を見ていると彼を俺は「特別な存在」だと思った。
この物語はフィクションです。
ハート数二桁突破しました。作品を読んでくださってありがとうございます!!
お題特別な存在

3/23/2024, 7:28:35 AM

コトンコトンと揺れるタクシーの中で外の景色を眺めていた。眩しい夕日に目を細めながら今までの事を振り返っていた。事の発端は一週間前に会社をリストラされた事だった。やってもない言い掛かりをつけられた私はなけなしのお金で奈良まで観光に来ていた。
「お客さん、着きましたよ。」という運転手の声で自分の意識は覚醒した。目を覚ますと見渡す限りの鹿が見えた。タクシーに料金を払って外を出て早速奈良公園へと向かった。奈良公園に居る野生の鹿は人懐っこく鹿せんべいを持った人間に臆する事なく突進してくる。そんな鹿を撫でながら自然の景色を眺めて居ると何故か壮大な気分に陥った。世界では今も泣いたり笑ったりしている人がいて死んでる人や生きている人がいる。各地では戦争があって敵兵の弾に当たって1人の子供の父が死ぬ。そんな目まぐるしく動く地球の中に自分がいる。なのにこんなにも落ち着いてられる。人間って不思議だ。いつか死ぬって分かってるのにその死を受け入れてただひたすらに生き続ける。ありきたりかもしれない。でもそれで良い。ありきたりがこの世界なのだから。私は赤く焼けている夕日を眺めながら呟いた「バカみたい」

この物語はフィクションです
お題バカみたい