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6/1/2023, 1:24:57 PM

「一回り大きいよね」


「え?」

「コンビニの傘」


確かに、大きすぎるとまではいかないが、
コンビニの傘は大きい。私たちで丁度良いくらいだ。

どちらかが傘を忘れた雨の日は、
同じ傘の下、お互いが濡れないようにと、
こうやって肩を寄せ合って帰っている。

今日は私が傘を忘れた。

ことになっている。

というのも、今は梅雨の時期真っ只中で、
家を出る時に雨が降っていなかったとしても、
折り畳み傘を持っていくのがマストだ。

もちろん私も例外ではない。
今もカバンの奥に折り畳み傘を忍ばせている。

いや、忍んでもらっている。

授業中、雨が降る窓を横目に、閃いてしまったのだ。

この子と相合傘ができる、せっかくのチャンスを
逃すわけにはいかなかった。

今は踏切、私とこの子の家の中間地点だ。
だから、もう少し一緒にいられる。

踏切前での軽い沈黙。声を張るのが苦手な私たちは、
無理に話そうとするよりも、この短時間、
休憩を挟むことにしている。


「…さっきさ、」

珍しく、彼女が口を開いた。小さく相槌を打つ。


「あなたが帰り支度してる時にね?
 鞄の中、見えちゃったんだけど」



あ。




「傘、持ってたよね」







やってしまった。やってしまった。やってしまった。
ばれていないと思ったのに。

爪が甘かった。


私の体が震えたと同時に、冷たい風が吹いた。

前髪が薄い仕切りを作る。

乱れた前髪の隙間から、お互いの視線が交わった。


怖い。


「怒ってるわけじゃないの」


「…この傘だって、」

「この傘だって、大きさで選んだような物だし。」


「あなたが傘忘れたって聞いて、私、

 チャンスかもしれないって」

電車が近づいて来たようだ。

彼女の声も大きくなる。


「もしかしたら!」

「同じ気持ちなのかもって!!」

こんなに都合の良いことがあるのだろうか。
考えている暇も、

私はその返答をすべく、この雨音と電車の音に
負けないよう、大きく息を吸った。

11/12/2022, 5:49:15 PM

″スリル満点!!君もぜひ!科学部へ!!″

古ぼけたドアに貼り付けられた紙切れ。
ドアには犬が何かのような噛み跡がある。

少し心配だが、念願の部活活動だ。

深呼吸してドアを開ける。


「ワァ!!踏まないでね!!」

「え??!!?」

びっくりしながらも足元に目をやると、
そこには、地を這うスライム、のようなもの。

ぺちょぺちょと音を立てながら、
私の後ろのドアを目がけて向かって来ている。

液状の体が動かしにくいのか、速度は遅い。


「え、えぇ?!」

「ドア!ドア閉めて!!」


あ?!逃げようとしているのか!!!

脱出を阻止するため、慌ててドアを閉める。


「ナイス!捕まえたぞ〜!」


スライムの努力虚しく、両手で掬い上げられてしまう。
抗議するかのように手のひらで跳ねている。

そんな顔でこっちを見るな…。ごめんって…。


「今度からはノックしてね」
 
「あ、はい。すみません。」

「いーよ。次からよろしくね。」


「散らかってるけど」

先輩らしき人は物が重なったテーブルへと向かい、
ガラスケースの中に先ほどのスライムを閉じ込めた。

飼育している生き物はスライムだけでは無いようで、
足の生えた消しゴムに、目玉のついたキャンディ状の
チーズがガラスケースの中で跳ね回り、暴れていた。

人差し指をガラスにつけ、指をスライドさせてみると、チーズは目の焦点を指に合わせようと目を回している。

面白い。


「…大丈夫?」

「え?」 すっかり夢中になっていた。危ない。

「入部希望ってことなんだよね…?」

「ほら、見ての通りこういう所だからさ。
 逃げ出すことなんてしょっちゅうだし。」


幼い頃児童館で見た、
科学部のお兄さんお姉さんによる粉塵爆発。

あれほどスリルを感じた事はない。
また心臓が飛び出るような驚きがしたい。

この部活で、昔見せてもらった時のように。


「覚悟してきましたんで!!!!」



スリル /

11/3/2022, 11:41:25 AM


10/9/2022, 1:49:50 PM

王子が花嫁を見つけた。

以前城の人間が総出で探していた、ガラスの靴が
ピッタリハマる相手を見つけ出したらしい。


灰被り姫。

国全体で開かれた結婚式で、王子の隣にいた彼女を見た時、僕はあまりの驚きに奇声をあげてしまった。


だって、彼女はよく僕の店に果物を買いに来ていたんだ。煤けた服を着て、お義母さんからのお使いだと。

彼女は毎日家の為にせっせと家事をしていた。
さも召使い同然のように。休む暇もなく。

彼女の実父が亡くなってから、
義母は渋々彼女を住まわせているようだった。

時折街で見かける義母と義姉の服は
上等なものばかりで、シワひとつなかった。

きっと彼女がアイロンがけまでしたのだろう。

そんな彼女があまりにも不憫で、形が良くないから、と時々理由をつけてオマケを渡したりもした。

その度に彼女はお礼を言うんだ。
「どうもありがとう」 なんて、とびきりの笑顔で。

なんて健気で強い子なんだろうとずっと思っていた。
勇気を貰ってさえいたんだ。

そんな彼女が今、妃になった。

身に纏うのはまるで彼女自身のような、
汚れひとつない純白のドレス。

純粋な彼女にとてもよく似合っていた。

……

あぁ。ダメだ。

王子様。お妃様。この結婚を純粋な気持ちで
応援できないことを許して欲しい。

正直に白状すると、
オマケを付けるのは同情心だけでは無かったし、
君と踊れたら、なんて夢を見たこともあった。

でも叶わずじまい。
僕の元に魔法使いが訪れることは無かった。

それで良かったんだ。それが。
だって君は最愛の人にめぐりあえた。

喜ばしいことだよ。本当に。

あぁ、でも。君はもう僕のお店には来ないだろうね。
それだけが少し寂しいかな。

君のはにかむような笑顔はとても眩しかったし
灰なんて最初から被っちゃいなかったよ。

王子様より先に君を見つけられたのが僕の幸運かもね。
ははは!うん、これ以上野暮なことは言わないよ。

もう話すこともないだろうけどね。


シンデレラ。
どうか君がこの先も幸せでありますように。




踊りませんか? /

10/9/2022, 12:27:43 PM

正直、メッセージのやり取りは疲れる。
送る前も送ったあとも。


「なんて送るのが正解なんだろう」

「もっと別の言い方があった気がする」
「何でこんなこと言っちゃったんだろう」

「返信こないな」
「失敗しちゃったかな」


気にしすぎなのは分かってる。
でも今更どうにもならないのも事実。

だから今は。

君からのメッセージには気づいてないふりをする。
つかの間の休息。それくらいは許して欲しい。



つかの間の休息 /

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