NoName

Open App

「一回り大きいよね」


「え?」

「コンビニの傘」


確かに、大きすぎるとまではいかないが、
コンビニの傘は大きい。私たちで丁度良いくらいだ。

どちらかが傘を忘れた雨の日は、
同じ傘の下、お互いが濡れないようにと、
こうやって肩を寄せ合って帰っている。

今日は私が傘を忘れた。

ことになっている。

というのも、今は梅雨の時期真っ只中で、
家を出る時に雨が降っていなかったとしても、
折り畳み傘を持っていくのがマストだ。

もちろん私も例外ではない。
今もカバンの奥に折り畳み傘を忍ばせている。

いや、忍んでもらっている。

授業中、雨が降る窓を横目に、閃いてしまったのだ。

この子と相合傘ができる、せっかくのチャンスを
逃すわけにはいかなかった。

今は踏切、私とこの子の家の中間地点だ。
だから、もう少し一緒にいられる。

踏切前での軽い沈黙。声を張るのが苦手な私たちは、
無理に話そうとするよりも、この短時間、
休憩を挟むことにしている。


「…さっきさ、」

珍しく、彼女が口を開いた。小さく相槌を打つ。


「あなたが帰り支度してる時にね?
 鞄の中、見えちゃったんだけど」



あ。




「傘、持ってたよね」







やってしまった。やってしまった。やってしまった。
ばれていないと思ったのに。

爪が甘かった。


私の体が震えたと同時に、冷たい風が吹いた。

前髪が薄い仕切りを作る。

乱れた前髪の隙間から、お互いの視線が交わった。


怖い。


「怒ってるわけじゃないの」


「…この傘だって、」

「この傘だって、大きさで選んだような物だし。」


「あなたが傘忘れたって聞いて、私、

 チャンスかもしれないって」

電車が近づいて来たようだ。

彼女の声も大きくなる。


「もしかしたら!」

「同じ気持ちなのかもって!!」

こんなに都合の良いことがあるのだろうか。
考えている暇も、

私はその返答をすべく、この雨音と電車の音に
負けないよう、大きく息を吸った。

6/1/2023, 1:24:57 PM