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王子が花嫁を見つけた。

以前城の人間が総出で探していた、ガラスの靴が
ピッタリハマる相手を見つけ出したらしい。


灰被り姫。

国全体で開かれた結婚式で、王子の隣にいた彼女を見た時、僕はあまりの驚きに奇声をあげてしまった。


だって、彼女はよく僕の店に果物を買いに来ていたんだ。煤けた服を着て、お義母さんからのお使いだと。

彼女は毎日家の為にせっせと家事をしていた。
さも召使い同然のように。休む暇もなく。

彼女の実父が亡くなってから、
義母は渋々彼女を住まわせているようだった。

時折街で見かける義母と義姉の服は
上等なものばかりで、シワひとつなかった。

きっと彼女がアイロンがけまでしたのだろう。

そんな彼女があまりにも不憫で、形が良くないから、と時々理由をつけてオマケを渡したりもした。

その度に彼女はお礼を言うんだ。
「どうもありがとう」 なんて、とびきりの笑顔で。

なんて健気で強い子なんだろうとずっと思っていた。
勇気を貰ってさえいたんだ。

そんな彼女が今、妃になった。

身に纏うのはまるで彼女自身のような、
汚れひとつない純白のドレス。

純粋な彼女にとてもよく似合っていた。

……

あぁ。ダメだ。

王子様。お妃様。この結婚を純粋な気持ちで
応援できないことを許して欲しい。

正直に白状すると、
オマケを付けるのは同情心だけでは無かったし、
君と踊れたら、なんて夢を見たこともあった。

でも叶わずじまい。
僕の元に魔法使いが訪れることは無かった。

それで良かったんだ。それが。
だって君は最愛の人にめぐりあえた。

喜ばしいことだよ。本当に。

あぁ、でも。君はもう僕のお店には来ないだろうね。
それだけが少し寂しいかな。

君のはにかむような笑顔はとても眩しかったし
灰なんて最初から被っちゃいなかったよ。

王子様より先に君を見つけられたのが僕の幸運かもね。
ははは!うん、これ以上野暮なことは言わないよ。

もう話すこともないだろうけどね。


シンデレラ。
どうか君がこの先も幸せでありますように。




踊りませんか? /

10/9/2022, 1:49:50 PM