小さな雨粒が葉の上に乗っている。
晴れの予想を笑うように駆け抜けていった雨雲は、もう頭上のどこにも居なかった。
だがそのひと降りのおかげか、少しだけ怪しくも見えていた天候は、もう立派な晴天と変わっている。
いっそ爽やかな風すらも引き連れてきたらしい。
今度こそ、このまま晴れが続いてくれるのだろうか?
その疑いへ答えを返しているのか、またひとつ、ぽたりと落ちる音が聞こえた。
【雫】
今どきの話題や流行りのあれこれは乗れそうになくとも、個人的な感覚を語るのなら、日々をひとり楽しく満喫できている。
“いいな”と興味の欲がうずくモノは日常の中たくさん溢れているし、すぐ傍に転がっているとくれば、どうにも飽きる気がしなかった。
知らない誰かとする共通の話も、予想外の角度から刺激を分け与えてもらえる点を含めると非常に良い産物だと考えている。
……のだけれど、ほんの少しだけ困る状況があった。
曇りのない笑顔を持つ他者からの良心であろうとも、その場で“現物”として熱意のカタチを受け渡してもらうのだけは、申し訳なく思いつつも「なにかが違う」と胸の奥が訴えかけてくるのだ。
どんなに手間や時間がかかろうとも、いつか自らの手で“それ”を掴み取ってみせる。
諦めざるを得ない場面も存在するが、それすらも醍醐味となるのだし、嘆きとして飲み込む。
でないと、なんの面白みも達成感も得られないままに思えてきてしまい、するすると喜びの気持ちすらも薄れていくような気分が嫌なのだ。
「安易な満足をゴールとしたくない」と願う思考ごと、一種の趣味であり、我が心の表れなのである。
【何もいらない】
あんまり今のわたしに直接影響されない範囲だったら、ただ「見る」だけだし気になるかな?
まぁ気分が重くならない程度のヤツでね。
あー、そういう“お約束”のほうも聞くの?
わたしの場合、多分しないかな。
だって、よくある系の展開でしょ?
もし誰かが外から手を出しちゃったらさ、もう一度あなたと出逢う日のことすら定かじゃないんだろうし、全部どっかに消えて“なくなって”しまいそうじゃない?
……なーんて、ね。
だから最初に答えてたじゃん。
出来もしない行動を、いちいち考えすぎなんだよ。
過ぎた時間は戻せるわけじゃない。
生きている以上、毎回同じ行動をとるわけじゃない。
なにか一つでも違う選択肢を選んだ「私」はさ、きっとその道を進んだ時点から、もう自分とよく似た「別人」になるんだから。
あっ待って、これ結構言ってて恥ずかしくなってるから、あんま笑わないで!
てかサラッと流してくれる話なんだよね!?
【もしも未来を見れるなら】
限られた時間が、刻一刻と過ぎ去っていく。
しかし目の前にある真四角のキャンバスの中には、まだ一つの色も浮かんで来なかった。
下書きの線も、輪郭の丸も、なにもかも。
進まないもどかしさで焦れる思考に対して、どこか奇妙なまでに凪いだ胸のうちでは「そうだろうな」という無音の呟き声が数回こぼれてきた。
あまりにも聞き馴染みすぎる声の主へ、相づちを乗せる。
というか、難しいにもほどがある。
今の“私”を描き表せるような彩りを探そうとしても、そんなにすぐには見つからないモノであり、それこそ深く考えれば逆に見つけられなくもなるのだ。
突拍子もなく出される課題たちには、今までも散々手を焼いてきた。
が、だからと言って突然「自らの手で“私”を知れ」だなんて謎の超難関ミッションを課されるとは。
相変わらず出題者の、普段から変わり者だと呼ばれる人物が持つ発想は恐ろしい。
……今回も無事に、こなせるだろうか? 不安だな。
【無色の世界】
白い太陽が、天上で光り輝く。
穏やかな暖かさをも通り越す“暑さ”に目が眩み、薄くにじむ汗をぬぐった。
ひらひらと風に舞う花びらは自ずとその光景を減らし始め、同時にアスファルトの一部を覆い隠す様子すらも、とっくに珍しいものとなり始めているらしい。
ここ数年の「春」といえば、まさしく一瞬で駆け抜けていくばかりであり、こうも物足りなさを感じてしまうのも仕方がないだろう。
またもや早々に、あのクローゼット内の色味を整えなくてはならないのかと思えば、出番の頻度と偏り方に気が重たくなった。
四つ区切りの移り変わりと、わずかに二つだけ重なる静かな余韻。
そうやって合間に残る風景を楽しむ間もなく、今度は緑の季節がすぐそこまで見えてきている。
【桜散る】