限られた時間が、刻一刻と過ぎ去っていく。
しかし目の前にある真四角のキャンバスの中には、まだ一つの色も浮かんで来なかった。
下書きの線も、輪郭の丸も、なにもかも。
進まないもどかしさで焦れる思考に対して、どこか奇妙なまでに凪いだ胸のうちでは「そうだろうな」という無音の呟き声が数回こぼれてきた。
あまりにも聞き馴染みすぎる声の主へ、相づちを乗せる。
というか、難しいにもほどがある。
今の“私”を描き表せるような彩りを探そうとしても、そんなにすぐには見つからないモノであり、それこそ深く考えれば逆に見つけられなくもなるのだ。
突拍子もなく出される課題たちには、今までも散々手を焼いてきた。
が、だからと言って突然「自らの手で“私”を知れ」だなんて謎の超難関ミッションを課されるとは。
相変わらず出題者の、普段から変わり者だと呼ばれる人物が持つ発想は恐ろしい。
……今回も無事に、こなせるだろうか? 不安だな。
【無色の世界】
4/18/2024, 2:56:46 PM