【花畑】
ここはどこだろうか。
広い花畑の真ん中で目を覚ました。
様々な種類の花が、やさしい風に揺れ、ふんわりと柔軟剤のような良い香りを撒き散らしている。
いつの日か見た夢のようなぼんやりとしためのまえの光景は、到底現実のものとは思えなかった。
『少しあるこう』
虫の羽音も、風の音でさえ聞こえない花畑に、
誰に言う訳でもない独り言だけが響いた。
花畑はずっと遠くまで続いていて、終わりが見えない。
行先もなくただフラフラと花畑を歩いた。
お姫様になった気分とでも言っておこうか。
暖かい陽射し、美しい花、優しい風、
擦れる足、踏まれた花、永遠と続く花畑
あまりお姫様もいいものでは無さそうだ。
王子様の迎えが恋しい。
そんな時遠くから声が聞こえた気がした。
「ねえ!おーーーい!おーーい」
聞こえる声に、導かれるように歩く、走る。
声の聞こえてきた方向へ向かうと、ポツンと扉が立っていた。
1枚の扉。
開ければ向こう側が見えてしまうだけなんじゃないかと思うような扉。
『不思議だ』
そう言いながら、何となくドアノブに手をかけた。
軽い握り心地に、ドアノブだけ外れてしまうのではないかと不安になりながら、ドアノブを回した。
扉を自分の方へと引いていく。
途端に眩い光が溢れ出し、今居た世界を、花畑を飲み込んだ。
音が聞こえる…
ピッ…ピッ…と、規則正しくなる機械の音。
口を覆うプラスチックの感触。
真っ白な天井と淡い緑のカーテン。
あぁ、あの花畑は…。
【君からのLINE】
〜♪
『はぁ、なんだ母さんからか。』
「誰かの返信待ってんの?もしかして〜っ??」
『違う。明日の課題わかんなくて聞いてるだけ。』
「ふーん」
わかりやすいやつだなとつくづく思う。
隣にいる人間の気もしらないで、一体誰のLINEを待っているんだろう。
同じクラスじゃないのをいいことに、テキトーな嘘ではぐらかされてしまう。お前のクラスで課題なんて出てないのは知ってるんだよな〜。なんて…
言ってやりたいくらいだが、言ったらめんどくさいと思われるだろうから、静かに言葉を飲み込んだ。
「あ、LINEで思い出した。
帰ったらでいいからさ公民のミニテスト何でたか送ってよ。」
『あれ、まだやってないんだっけ?』
「うん、明日。うちのクラスが最後だってさ。」
『いいよ。覚えてたら送る。』
「ありがと」
『じゃ、また明日。気をつけて帰りなよ〜』
「そっちこそー。ミニテスト忘れんなよ!!」
『はいはい〜』
こんなに仲良くて、近くにいるのにな。
一体君は誰を好きになって、誰の連絡を待っているんだろう?
まあいいや、
だって今日の夜は君からのLINEが来るんだから。
【命が燃え尽きるまで】
中学最後の夏の夜に、僕は大切な幼なじみと蛍を見に川辺までやってきた。
僕の住むこの村は、大層な田舎で、毎年夏になると、田んぼでカエルが鳴き、森ではセミの大合唱、川には綺麗に蛍が飛び交っている。
そんな環境が嫌になったのか、幼なじみは東京の私立の高校に通うことに決めたらしい。
夕暮れと夜の境目の川辺に2人で座り、後ろから聞こえるカエルの声をただぼんやりと聞いていた。
「ねえ、蛍ってなんで光るか知ってる?」
突然の質問に驚く幼なじみ。
『え〜。暗闇で場所を知らせるんだったっけ?それか、求愛…とか?』
「う〜ん正解。」
『ロマンチックだね。』
「実はね、他にも理由があるんだよ。
相手に「近づかないで!」って伝えるために光ったりもするんだって。」
『そうなんだ。どれも同じ光に見えるけどね』
「ね笑」
話が途切れ、静かな時間が流れている。
静かと言っても、カエルはずっとゲコゲコ鳴いているし、蛍は止まることを知らぬ勢いで飛び交っている。
毎年夏休みの最後はここに来て、夏の終わりを感じていた。
それももう最後かと思うと、物悲しいというか切ないというか、言い表せないモヤモヤが心を占める。
「…東京いったらさ、もう蛍も見れなくなっちゃうね。」
『そうだね。』
「僕さ、ここで待ってるから。寮生活嫌になったら、いつでも帰ってきてね。」
『うん。気が向いたらね〜』
「なんだよそれ笑」
『笑笑』
「はぁ、僕が蛍だったら良かったのにな。そしたら、光って帰る場所を知らせるのに。」
『え〜。都会の光に負けて、見つけられなくなっちゃうかもな〜笑』
「そしたら、君のために命を燃やして更に激しく光って見せるよ笑」
『命が燃え尽きるまでは重いなぁ〜!!笑笑
ねえ、聞いていい?
その光は、求愛と拒絶どっちの光?』
「それはもちろん───
【踊るように】
「最高の夜だった。その日は本当に興奮して眠れなかったぐらいだ。」
『そんなにいいもんならみせてほしいもんだね笑』
「いいや、無理さ笑
なんたって、俺の夢だからな笑」
なんだ結局夢オチか…。ボクの友人の話は嘘か、夢の話ばかりだ。
久々にあったのだから、最近の話だとか、今の暮らしだとか、思い出話に花を咲かせればいいってのに。
会う度会う度に、友人の夢の話を聞いている。
それこそ、小学校の時も、就職してからあった時も、はたまた退職してからあった時も彼の夢の話しかしてこないのだ。
『ボクは夢を見ないから、ぜひ見せて欲しいもんだね。』
「そうなのか?それにしちゃおかしいなぁ笑」
『なにがおかしいって?』
「だってお前の見てるこれも夢なんだから。」
夢の話をしすぎて頭でもおかしくなったのか?
正直そう思った位だった。しかしよく良く考えれば、
確かに友人は死んだのだ。それも穏やかな死に方じゃあない。
彼は、よく夢を見た。だがそれだけでない、彼は夢を見ながら体まで動いてしまうのだ。
いわゆる夢遊病ってやつだ。
嘘か本当か、最後は、華麗に踊るようにしてベランダに出ていき、満月を背にして飛び降りたのだそうだ。
『なるほど。夢枕に立たれたのか笑』
「まあそういうことだな笑久々に会えて嬉しいよ。
お前もそろそろこっちに来る頃なんじゃないかと思ってな。」
『確かにボクは、なかなか長生きしてここまで来たからなぁ。お迎えにしちゃあテキトーな人員じゃねぇか?
まあいい、あと1日くれないか?』
「あぁ、いいとも。俺とお前の仲だ。」
『ありがとう。』
そこで私は目が覚めた。
いつもの天井、鳴り響く介護士の足音。
最後に妻と踊りたいと、車椅子で介護士へ頼み込んだ。
お迎えが来ると。
信じてくれるわけが無いが、ここの介護士は皆優しい。
ホールで音楽を流してくれた。
初めて出会った、社交パーティで踊ったワルツを、
車椅子と歩行器の老人で踊った。それは到底踊りとは言えない代物だったが。
それでもいつまでも老人は踊った。
そしてその夜、ボクは彼が最後に踊っていた理由がよくわかった。
とても綺麗な満月に、ありがとうを伝えて眠った。
【最初から決まってた】
最初から決まってた、君の隣にいるべきなのは自分では無い。
同性の自分なんて、そもそも君の眼中にはないだろうし、この気持ちを伝えたとしても君は戸惑うだけだって知っていたから…。
「ずっと親友でいようね。」
なんて嘘をついた。
この恋心を伝えて、君が遠くへ行くくらいならば、
自分の気持ちは君に伝わらなくてもいい。
叶わぬ恋を抱えながら、君の幸せをただ願おう。
幸せの鐘が鳴り響く中、
純白の衣を纏う君は今までのどんな時よりも輝いて見えた。