【踊るように】
「最高の夜だった。その日は本当に興奮して眠れなかったぐらいだ。」
『そんなにいいもんならみせてほしいもんだね笑』
「いいや、無理さ笑
なんたって、俺の夢だからな笑」
なんだ結局夢オチか…。ボクの友人の話は嘘か、夢の話ばかりだ。
久々にあったのだから、最近の話だとか、今の暮らしだとか、思い出話に花を咲かせればいいってのに。
会う度会う度に、友人の夢の話を聞いている。
それこそ、小学校の時も、就職してからあった時も、はたまた退職してからあった時も彼の夢の話しかしてこないのだ。
『ボクは夢を見ないから、ぜひ見せて欲しいもんだね。』
「そうなのか?それにしちゃおかしいなぁ笑」
『なにがおかしいって?』
「だってお前の見てるこれも夢なんだから。」
夢の話をしすぎて頭でもおかしくなったのか?
正直そう思った位だった。しかしよく良く考えれば、
確かに友人は死んだのだ。それも穏やかな死に方じゃあない。
彼は、よく夢を見た。だがそれだけでない、彼は夢を見ながら体まで動いてしまうのだ。
いわゆる夢遊病ってやつだ。
嘘か本当か、最後は、華麗に踊るようにしてベランダに出ていき、満月を背にして飛び降りたのだそうだ。
『なるほど。夢枕に立たれたのか笑』
「まあそういうことだな笑久々に会えて嬉しいよ。
お前もそろそろこっちに来る頃なんじゃないかと思ってな。」
『確かにボクは、なかなか長生きしてここまで来たからなぁ。お迎えにしちゃあテキトーな人員じゃねぇか?
まあいい、あと1日くれないか?』
「あぁ、いいとも。俺とお前の仲だ。」
『ありがとう。』
そこで私は目が覚めた。
いつもの天井、鳴り響く介護士の足音。
最後に妻と踊りたいと、車椅子で介護士へ頼み込んだ。
お迎えが来ると。
信じてくれるわけが無いが、ここの介護士は皆優しい。
ホールで音楽を流してくれた。
初めて出会った、社交パーティで踊ったワルツを、
車椅子と歩行器の老人で踊った。それは到底踊りとは言えない代物だったが。
それでもいつまでも老人は踊った。
そしてその夜、ボクは彼が最後に踊っていた理由がよくわかった。
とても綺麗な満月に、ありがとうを伝えて眠った。
9/8/2023, 10:00:33 AM