思いつきなんちゃって小話

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9/8/2024, 3:30:45 AM

【踊るように】

ーー彼に手を引かれる

この日のために用意した綺麗な淡い青色のドレス。
シンデレラみたいで素敵ねと友人からも好評だった。

ーー彼にエスコートされる

彼はとてもハンサムだ。
周りの女が放っておかないだろう

ーー彼は愛している

私は知っている

ーー彼は、私の…私の父の地位を愛している。

中身はとても下品で、金と出世のことしか頭にない

ーーそんな彼と踊る

今日は私が自由でいられる最後の日だ。

ーーそんなこと彼は気づかない、気づくはずもない

私が私でいられる最後の時間、
淡い青色のドレスはふわりと広がり、ホールに大きな花を咲かせた。

5/3/2024, 2:42:34 AM

【優しくしないで】

いつからだろう、クラスのみんなに僕が見えなくなったのは。
いつからだろう…いつ間違えたんだろ。

そんな時、転校生の君が来た。
僕のことが見える唯一の人間。

『隣の席だねよろしく。』
「…」

けど、いつかどうせ見えなくなるんだろうから、
関わらない。関われない。

「僕に関わらないで…」

転校生は諦めず僕に話しかけた。
他の人に沢山声をかけられてるし、僕なんかいらないだろうに。

『一緒にご飯食べない?』
「食べないです。」
『お腹すいてない?』
「…」

僕が去った後、すぐに他の人に昼食に誘われている転校生。それでいい。他の人と同じになってしまえばいい。

『ねえ、なんであいつのこと無視してるの?
気分悪いからやめた方がいいよ。
声掛けてくれてありがと、友達は自分で選ぶから。』

教室の外。中から聞こえるその声に胸が震えた。
やめて。やめてよ…。
幽霊世界に慣れてきたのに、今更戻れないよ。
君のせいで、世界が崩れてく。戻っていく。

ねえ、それ以上優しくしないで。

3/7/2024, 4:14:38 PM

【月夜】

『綺麗な月が好き。特に満月が。』

そういい、
君は、今日も飽きずに望遠鏡を覗き込んでいる。




今日は月に1回許された、天文学部・屋上観測会。

部員は、幽霊部員を含めて5人。今日の参加者は、2人だけ。
天文学部は人気のない部活で、同好会状態だ。
おかげで部費はさほど援助されず、合宿は学校か、
近くの山か土手の3択である。



「うーさむ。」
冬の方が空気が澄み星が綺麗に見えるが…寒くてかなわない。耐えられず、望遠鏡を持っていた手を勢いよく自分のポケットに突っ込み、白い息を吐きながら君を見た。

毎度毎度飽きずによく見るな。
真剣な横顔で、ピントを合わせる君にそんなことを思う。

もちろん君はそんな視線には気づくはずもなく、ひたすらに月や星を見ている。

「本当に宙が好きなんだな。」

『好きだよ。大好き。』
君は、鼻の上を真っ赤にして、満足そうにニコニコ笑いながら宙を指さす。

『直接触れないし、見れない。海よりもっともっと遠い遠い存在で、なんだかワクワクしてこない?』


僕は気の利いた返事なんて思い浮かばず
「ああ。そうだな。」
と無愛想な返事を一言し、自分のピントの合ってない望遠鏡を覗くふりして誤魔化した。



2人で静かに宙を見る。望遠鏡に齧り付く。



さて、今日は何を見ようか。
金星、一等星、輝く星は沢山あるが、
やっぱり今日も月を見ていよう。

月の使者が君を連れ去りに来たら大変だから。

11/6/2023, 9:07:05 AM

【一筋の光】

私は今埋められている。
土の中。酸素は薄い。
さっき来た大災害に巻き込まれてしまったのだ。

駿河湾から日向灘沖を震源地とする、南海トラフ地震。

震度6強の揺れに見舞われ、昨晩の雨で緩くなっていた土砂が私に降り注いだ。
うちは山間部だから津波は来ないと正直油断していた。


━━30年以内に起きる可能性は70パーセントです━━


真っ暗闇の中、ニュースの言葉がずっと脳を駆け巡る。

あんなに備蓄をしっかりしていたのにな…。
それにしてもここは重くて、暗い。
昨晩の雨に濡れた土は泥となり、私の身体に密着している。動こうとすればするほどに、私の身体に張り付いてくる。
動き疲れた私は、来るかも分からない助けを大人しく待つことにした。

何秒、何分、何時間が経ったのかすら分からぬ暗闇。
目が慣れることの無い闇は、私を益々不安にさせる。
いっそ地獄のような光景でもいいから、この目に入れたいとさえ思った。

何も感じなかった体が、冷たい何かを感じた。
ミミズだ。ミミズが顔の近くを張っている。
今すぐにでも払い除けたい衝動で、右手を動かすがビクともしない。どうしようもなく、ただその気持ち悪さを堪え、されるがままにミミズを散歩させた。

もう嫌だ。早く出たい。
目を閉じて、次起きた時には光の中に居たい。

そんな願いも虚しく、暗闇が続く。
遠くからカラスの鳴き声が聞こえる。明け方なのだろうか?とっくのとうに、時間間隔など分からなくなったはずなのに、体に備わった時計は夜に睡眠を取ることを覚えていたようだった。

お腹がすいた。

カラスの声に混じって、犬の吠える声がした。
まだ遠いが、頑張れば声が届くのではないだろうか。

助けて、ここにいます。助けて!!!

大声をだすが、近づいてくる気配は無い。
どうしたらいい、今を逃したら助けはいつ来るんだ、
死にたくない、こんな暗闇もう嫌だ。

━━土に埋まってしまった時には、排尿しましょう。
災害救助犬の鼻が匂いを捉えやすくなります!━━

いつか見た動画の言葉を思い出した。
普通の人間なら抵抗してすぐに行動に移せないだろうが、私は違った。
死ぬこと以外に怖いことなんて、今は何も無かった。

どうか神様、私を助けてくださいと。
心から願い、大声をあげながら排尿するさまはきっと無様なものだろう。そんな私を神は救うのだろうか。



しばらくして
私を救う神のような声が聞こえた。

10/24/2023, 10:27:42 PM

【どこまでも続く青い空】
『海と空が広がって、繋がっている!』
海に来る人間はよくそういう。

魚の私に言わせれば、
空は海と繋がることは永遠になく全くの別ものだ。

海から顔を覗かせてみても、この海と繋がっているはずの空には私のヒレは届かないのだから。

見上げれば、海と同じ色の大きな大きな青空が見える。
海を映す鏡のようなその姿に、魚の私が憧れを抱いてしまうのは罪なのだろうか。

1度でいいから、空に飛び込みこのヒレで空を掴みたい。
そう思うのは、罪なのだろうか。

そんな考えに溺れながら、波の奥に空を見ていた。
重力に呑まれ、眠りに落ちるようにゆっくりゆったり
わたつみへ沈んでいく。

羨ましい、私も空飛ぶ鳥のように自由に空を泳ぎたい。
今の姿では無理なので、そっと目を瞑り神に祈った。






悲しげに物語ったあと、
彼女はその陶器のように白く美しい腕を日に透かした。

「神なんていないのかもね。」

そう呟く彼女の横顔は、この憂き世でも自分の手で空を泳げないことを、悔やんでいるのように見えた。

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