思いつきなんちゃって小話

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【Moonlight】

新入社員として働き始めて早くも半年がすぎた。

今日も今日とてサービス残業で、クタクタになりながら帰りの電車に揺られている。

恋人に帰りの時刻を連絡すると、少しの間を開けてから『駅まで迎えに行く』の一言が返ってくる。

奇跡的に座れた席、疲労のせいか恋人のメッセージで安心してしまったせいか、ゆっくり目を閉じゆりかごに揺られる気持ちで眠りについてしまった。

・・・

目を覚ました時には、降車駅から5駅先の駅名が液晶パネルに表示されていた。

(まずいまずい。)と足早にホームに降り、嫌々ながらも改札を1度くぐりぬけて反対のホームへと移動する。

恋人へ再度遅れる事を連絡すると『疲れてるんだね』と返信が来る。優しい人、早く会いたい。

そのはずなのに、またもや眠ってしまう。

電車というゆりかごに大きく揺られるように、
あっちへ3駅乗り過ごし、こっちへ2駅乗り過ごし、
仕上げの1駅乗り過ごし、目的の駅へ到着したのは恋人に伝えた予定から1時間以上遅れた時刻だった。

(絶対に怒ってるだろうな)と内心ヒヤヒヤしながら、平謝りで恋人の車に乗り込む。

『疲れてたんだね』

月明かりが恋人の顔を照らし、目元に影を作っている
怒っているのか笑っているのか分からない。

『今日月が綺麗だから、見てみなよ』

そう言い、月明かりの方へ向き直すあなたの顔はとても綺麗で、キラキラと優しさを帯びていた。

怒っていなくて安心するより先に、自分の恋人がこんなに綺麗な顔をしていたことに驚きを隠せない。

言われた通り、窓から少し顔を外にのぞかせ空を見上げると、真ん丸な満月が空に輝いている。

仕事や目の前のことに精一杯で空を見上げることなんて少なくなっていたことを気付かされるとともに、
どれだけ自分が綺麗なものを見逃してきたのかに気づく。

ふと涙が頬をつたったが、あなたに気づかれたくなくてそっと自分の頬を拭うと、
運転席で月に夢中になっているあなたにただ一言

「世界で一番綺麗だね。」

と伝えた。




┈┈┈もしかしたらあなたは、月あかりに照らされた涙にミラー越しに気づいていたのかもしれない┈┈┈┈┈

10/5/2025, 1:11:38 PM